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1型糖尿病の予後と血糖コントロールとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
1型糖尿病の生命予後.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
1型糖尿病の患者さんの血糖コントロールと長期予後についての論文です。

糖尿病は1型と2型とに分かれ、
1型というのは通常はお子さんで発症して、
インスリンの注射による治療が、
最初から必要となるタイプのものです。

よく糖尿病は生活習慣が原因で、
食べ過ぎや運動不足や肥満が悪化させると言われますが、
それは2型糖尿病の話で、
1型は生活習慣とは関わりなく、
自己免疫や感染などによる、
膵臓の炎症が原因と考えられています。

1型糖尿病ではインスリンの高度の不足があるので、
インスリンの注射による治療をしなければ、
ケトアシドーシスになって命に関わります。

従って、1型糖尿病の場合にはインスリン注射が必須ですが、
それに加えて長期的な血糖の管理により、
糖尿病の合併症の発生を防ぐことが重要になります。

糖尿病が身体にとって問題となるのは、
目や腎臓などの合併症と、
動脈硬化の進行による、
脳卒中や心筋梗塞などのリスクの増加があるからです。

血糖を治療により低下させ、
より正常に近付けることにより、
こうした合併症のリスクが低下することが、
これまでの多くの臨床試験から、
ほぼ実証されているので、
インスリンによる強化された血糖コントロールに加えて、
場合により他の糖尿病治療薬が併用されます。

ただ、問題になるのは、
どのくらい厳密な血糖コントロールを行なうことが、
患者さんの予後を改善するために適切なのか、
ということです。

勿論正常の血糖に戻せれば、
それに越したことがないのは明らかですが、
人工的に血糖を低下させると、
微調整はどうしても効かないので、
血糖を良くすることにより、
低血糖のリスクが高まります。

現行では血糖コントロールの数か月の指標である、
HbA1cという数値を、
7.0パーセント未満にすることが、
国際的な基準となっていますが、
実際には1型糖尿病の大規模な臨床試験において、
この基準を満たしているのは13から15パーセントに過ぎず、
20パーセント以上の患者さんは、
HbA1cが8.8パーセントを超えるという、
不良なコントロールとなっているのが実情です。
(上記文献に引用された海外のデータによります)

今回の研究は国民総背番号制が取られているスウェーデンにおいて、
1998年以降に登録された1型糖尿病の患者さん、
トータル33915名を対象とし、
それぞれ患者さん1人に対して5人年齢性別をマッチさせた、
コントロールを対比させて、
主に血糖コントロールの指標であるHbA1c値と、
生命予後との関連を検証しています。

平均で8年の観察期間が置かれ、
HbA1cは複数回の測定により、
平均化されている点が特徴です。

その結果…

1型糖尿病の患者さんの死亡リスクを、
平均のHbA1cの数値毎に階層化すると、
目標とされる6.9パーセント以下のグループにおいても、
コントロールと比較した総死亡のリスクは、
コントロールの2.36倍に有意に増加し、
そのうちの心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患による死亡リスクも、
2.92倍に有意に増加していました。

HbA1c7.0から7.8では総死亡で2.38倍、心血管疾患による死亡で3.39倍
7.9から8.7では総死亡で3.11倍、心血管疾患による死亡で4.44倍、
8.8から9.6では総死亡で3.65倍、心血管疾患による死亡で5.35倍、
そして9.7パーセント以上では総死亡で8.51倍、
心血管疾患による死亡で10.46倍と増加していましたが、
癌による死亡に関しては、
一定の傾向を示しませんでした。
これは1型糖尿病の患者さんの年齢層が、
平均で35歳と若く分布していることが、
主な要因と思われます。

30歳未満の年齢層においては、
1型糖尿病の患者さんの死亡原因は、
ケトアシドーシスと低血糖で、
このことは低血糖を生じないレベルで、
インスリンによる治療を行なうことが、
生命予後の改善のためにも、
最も望ましい、ということを示しています。

その意味で現行のHbA1cが7を超えないようなコントロール、
という指標は適切なものではあるのですが、
一方でそうしたコントロール状態にあっても、
患者さんの死亡リスクが、
総死亡においても、
心筋梗塞や脳卒中においても、
糖尿病ではない人の2倍以上はあるという事実は、
現在の1型糖尿病に対する治療が、
決して最善のものとは言えない、
と言う事実を示しているように思います。

今後更なる検証が必要だと思いますし、
1型糖尿病の患者さんの生命予後を、
そうでない方と極力同じにするために、
何が必要であるのかを、
追及する努力が、
医療者には求められているように思います。

最後に補足です。
2倍とか3倍という数字は、
非常に大きなものとお感じになった方も、
いらっしゃるかと思いますが、
元々若年層の死亡リスクは低いものなので、
その比較による数値であって、
絶対値としては非常に少ない物だと言うことは、
特に1型糖尿病の患者さんとご家族の方には、
ご理解の上お読み頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ちくてつです

半年前に劇症1型糖尿病を発症、血糖値1848mg/dlを記録して死にかけ、生還できた63歳の男性です。
1型の調査について、いい記事を紹介していただき、感謝します。
1型で、いま、インスリンポンプを使用しています。
ヘモグロビンA1cはこの2か月、5.5、5.8といい数値ですが、毎日4、5回血糖を測定しますと、乱高下しています。
この乱高下の山と谷をカットするには、糖質制限しか方法がないので、実践しています。
1型の方は21万人だそうですが、皆さんも日々の血糖コントロールに苦労されているのではないかと思います。
上手なコントロール方法を確立したいと考えています。
まだ訪問させていただと思います。
よろしくどうぞ。
by ちくてつです (2015-06-11 09:59) 

fujiki

ちくてつさんへ
コメントありがとうございます。
少しでもご参考になる点があれば幸いです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2015-06-12 06:32) 

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