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高齢者への高力価インフルエンザワクチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なのでカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高力価インフルワクチンの効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
従来より高用量のインフルエンザワクチンの効果についての論文です。

インフルエンザウイルス感染症の予防の主体は、
ワクチンの接種です。

通常のインフルエンザの感染には季節性があり、
新型インフルエンザでなければ、
冬季に流行するのが通例ですから、
その少し前の時期にワクチンを接種して、
感染の予防に当たるのが一般的です。

しかし、現行のインフルエンザワクチンの効果は、
必ずしも流行の阻止に満足の行くレベルのものではありません。

特に感染により重症化や肺炎などを併発し易い高齢者においては、
ワクチンの必要性は高いにも関わらず、
その有効率は若年成人よりかなり見劣りがしています。

インフルエンザワクチンの効果が不充分であるのには、
幾つかの理由があります。

ワクチンの主体がスプリットワクチンという、
免疫増強剤を含まない古いタイプのもので、
免疫を賦活される作用がそれほど高くはない、
という点がその1つで、
もう1つはインフルエンザワクチンが、
絶えずその抗原を変化させるので、
その時点での流行株に、
マッチングしたワクチンを使用することが難しい、
というのがもう1つの理由です。

このうち免疫増強剤の使用の効果については、
65歳以上の高齢者において、
グラクソ社の免疫増強剤を使用したワクチンと、
そうでないワクチンとを比較した臨床試験が行なわれていて、
その結果はやや免疫増強剤を使用したワクチンの方が、
有効率が高い、というものでしたが、
その差はそれほど大きなものではありませんでした。

一方で2009年のH1N1pdem、
所謂新型インフルエンザの流行時には、
流行している抗原にマッチングしたワクチンを、
そのシーズンに間に合わせるようにして、
突貫で製造して使用したので、
抗体の上昇ではほぼ100%に近い有効性を示し、
実際の感染予防効果も、
日本の内科医会の推計で7割という高率になっていました。

こうした知見からは、
免疫増強剤の使用よりも、
マッチングするワクチンを製造することの方が、
遥かに有用性が高い、ということが分かります。

しかし、そうは言っても現行の製造工程が、
格段にスピードアップでもされない限り、
新型インフルエンザの発生のような非常事態以外で、
ワクチンを間に合わせることは困難です。

そこで考えられた方法の1つが、
抗原量の多いワクチンを製造する、
という考え方です。

通常の成人用の3価インフルエンザワクチン0.5ミリリットル中には、
A型が2種類とB型が1種類の、
それぞれ15マイクログラムずつのウイルス抗原が含有されています。
その何と4倍の60マイクログラムの抗原を含有した、
IIV3-HDと名付けられた高力価のワクチンが製造され、
アメリカでは2009年に認可を受けています。

今回の臨床試験は製造元のサノフィ・パスツール社の主導により、
65歳以上の成人において、
通常の力価のワクチンと4倍の抗原を含む高力価のワクチンとの、
有効性と安全性の比較を行なっています。

対象となっているのは、
アメリカとカナダで登録された、
65歳以上の成人31989名です。
これは2年間の総計です。
15000名余の2つのグループに分け、
対象者にも接種を行なう担当者にも分からないように、
一方は通常の力価のワクチンを1シーズンに1回接種し、
もう一方には同じように高力価のワクチンを1回接種します。

観察期間中に通常力価のワクチン接種群では、
1.9%に当たる301名がインフルエンザに感染し、
高力価ワクチン接種群では、
1.4%に当たる228名がインフルエンザに感染しています。
感染の診断は遺伝子検査で陽性か、
培養で陽性で確認されています。
このことより、高力価のワクチンの方が、
24.2%感染予防効果で勝っていた、と計算されます。

ワクチン接種により、
HI抗体価が40倍以上になった率で比較すると、
トータルで通常力価ワクチンでは93.7%が陽性化したのに対して、
高力価のワクチンでは98.5%が陽性化していました。

ワクチンの副反応については、
トータルには両群で差はありませんでした。

しかし、ワクチン接種後30日以内の死亡が、
高力価ワクチンでは6名認められたのに対して、
通常力価のワクチンでは1名も認められませんでした。

トータルに見て、
確かに高力価のワクチンの接種により、
感染予防の面での有効性は増しています。
ただ、4倍もの抗原量を打ってもこの程度、
という言い方も出来るような気がします。

その一方で比率的には少ないものの、
抗原量を増やすことにより、
死亡などの有害事象は明らかに増加しています。

日本においては折衷案のようにして、
ワクチンの2回接種が時に行なわれています。

これは1回の抗原量は増やすことはせず、
1ヵ月程度の間隔を置いて2回の接種を行なう、
というものです。

今回のデータを見る限り、
それほど大きな差は、
4倍の抗原量のワクチンの1回接種と、
通常量の2回接種との間でないように思います。

4倍の抗原を使用して1回の接種を行なった方が、
効率は良く手間も省けるのですが、
それでも100%感染が阻止される訳ではなく、
重篤な有害事象のリスクも増加するとすれば、
日本ではこの手法はあまり馴染まないもののように、
個人的には思います。

インフルエンザワクチンはまだ色々な意味で未完成のワクチンで、
有効性と安全性のバランスを取りつつ、
より感染予防効果を高いものにするのには、
まだまだハードルは高そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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