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塩分摂取量と血圧との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
尿中ナトリウム排泄と高血圧.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
塩分摂取量と血圧との関連についての文献です。

同じ紙面に今回、
関連のある3編の論文が同時に掲載されています。
解説記事も載り、さながら「塩分と高血圧特集号」の様相です。

塩分と健康との関連については、
何度かこれまでにも記事にしていますし、
拙著「健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな!」でも、
同じテーマを取り上げた章があります。

塩分を多く摂ることで血圧が上昇し、
心筋梗塞や脳卒中などの誘因となることは、
ほぼ確立された事実です。

しかし、それではどのくらいの塩分制限が、
健康のためには適切であるのか、
という点については、
必ずしも明確な結論が出ていません。

アメリカでは現行1日5.8グラム未満が推奨され、
51歳以上や病気のある人では、
更に厳しく3.8グラム未満とすることが推奨されています。

日本の現行の基準はそれよりは緩やかで、
2009年以降食塩摂取の目標量を、
男性では9.0グラム未満、
女性では7.5グラム未満としています。

しかし、2011年のJAMA誌に
「塩分は少なければ少ないほと健康に良い」
というドグマを、真っ向から否定するような論文が掲載されました。
降圧剤を使用している患者さんのデータを活用して、
尿に出るナトリウムの量と、
脳卒中や心筋梗塞などの病気の発症リスクとの関連を検証したところ、
尿へのナトリウムの排泄量が4から6グラムの間が、
病気の発症リスクが最も少なく、
それより多くても少なくてもリスクは増加する、
という結果が得られたのです。

尿のナトリウム量が4から6グラムというのは、
食塩の摂取量に換算すると、
概ね10から15グラムに相当します。

これは単純に言うと、
推奨されているより塩分を余計に摂った方が、
心筋梗塞や脳卒中、心不全のリスクが減少する、
というこれまでの考えを真っ向から否定する結果なのです。

ここまで極端ではないにせよ、
似通ったデータは他にも複数存在しています。

塩分の摂取量はこれまでの常識のように、
少なければ少ないほど良いのでしょうか?
それとも、何処かに限界点のようなものがあって、
それを越えてしまうと、
塩分が少ないことが、
却って健康に害になることがあるのでしょうか?

米国医学研究所(Institute of Medicine)は、
その点を問題視して専門家会議を招集し、
2013年にその報告書をまとめました。

それによると、塩分摂取量が増えるに従って、
心筋梗塞や脳卒中などが増加することは間違いのない事実ですが、
アメリカのガイドラインにある、
1日の塩分量が3.8グラム未満とか、
5.8グラム未満という低塩分摂取においては、
そうした傾向が維持されているかどうかは、
データには乏しい、という結果になりました。

今回の文献はその問題に、
より根拠のあるデータを付加しようとまとめられたもので、
2011年のJAMA誌の論文の筆者も参加しています。
世界18カ国の成人102216人を対象として、
早朝空腹時の尿を採取し、
そこから推計されるナトリウムとカリウムの排泄量と、
血圧値との関連性を検証したものです。

その結果、
推計の1日のナトリウム排泄量が1グラム増加するに従って、
収縮期血圧が2.11mmHg、拡張期血圧が0.78mmHg、
それぞれ増加するという関連が認められました。
ただ、この関係は単純に直線的なものではなく、
ナトリウム排泄量が5グラムを越える領域では、
よりナトリウム排泄の増加に伴う血圧の上昇幅は大きく、
逆に排泄量が3グラム未満では殆ど増加は認められなくなりました。
更にこの塩分の増加による血圧の上昇は、
高齢者(55歳以上)や高血圧の患者さんでは、
より大きいという関連も認められました。

ナトリウムの尿への排泄量は、
ほぼ1日の塩分の摂取量と一致していると考えられます。
従って、この結果は、
塩分の摂取量が多くなるに従って血圧は上昇するけれど、
それが問題になるのは、
元々高血圧があったり55歳以上であったり、
食塩摂取量がナトリウム換算で5グラム
(食塩摂取量で12.7グラム)を越える場合であって、
塩分摂取量が7.6グラム未満では、
それほどはっきりとした関連がなくなる、
ということを示しています。

このデータでは、
尿中のカリウムの排泄量と血圧との関連も、
同時に解析しています。

カリウムは腎臓においてナトリウムと拮抗する働きを持ち、
このためカリウムを多く摂取すると、
ナトリウムの排泄が促される、という関連があります。

カリウムの排泄量が多いほど、
収縮期血圧は低下していて、
その相関は矢張りナトリウムと同様、
高齢者や高血圧の患者さんで顕著な傾向がありました。
注目すべき点は、
ナトリウムの排泄量の多い人では、
カリウムの排泄量が少ない場合に、
より血圧の上昇も顕著になる、
という関連があることです。

血圧をコントロールする上での減塩の有効性は、
1日12グラムを越えるような食生活では、
大いに意義がありますが、
7グラム未満のような塩分摂取の食事においては、
それほど大きな影響を与えなくなります。
むしろ適度には塩分を摂り、
カリウムの摂取も心掛けた方が、
実現可能な指導の指針である、
という言い方が可能かも知れません。

今回のデータにおいては、
アメリカの塩分摂取量の基準を満たしているのは、
対象者の4%に満たない人数であったからです。
極端な減塩は、その有効性もそれほど高いものではなく、
実際には実現や維持の困難な、
ある種の絵に描いた餅なのです。

ここまでが研究の前段階で、
実際の病気の発症リスクとナトリウム排泄との関連については、
同じ紙面に載ったもう1編の論文にまとめられています。

それについては、
明日引き続いてご紹介したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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コメント 5

モカ

石原先生こんにちは。
いつも楽しく拝見しています。

塩分と高血圧ですが、個人差や人種差はどうなのでしょうか。
日本人は食塩非感受性が半分位あるというデータも見たことがあります。

http://mocamoca.com/harablog/archives/2014/03/post_3131.html

しかし、外食や総菜などで非常に塩辛いことがよくあります。
全体的に塩気が強い方がうけがいいのでしょうか。

by モカ (2014-08-20 14:02) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
確かにそういうものがありましたね。
今回のデータは4割以上が中国の登録者で、
人種差よりも、
年齢や高血圧の有無の因子が大きく影響している、
という考え方だと思います。
塩分感受性が高ければ、
高血圧になり易い訳ですから、
尿中のナトリウムとカリウムおよび血圧の情報があれば、
そこからある程度の判断をして、
シンプルには良いように思います。
塩分感受性の話は、
尿酸の排泄低下型と産生過剰型の話と一緒で、
区分けすることに、
それほどの意義がないように、
現時点では思います。
実際その考えによる治療の選択など、
今の時点ではガイドラインなどにも、
全く反映はされていません。
by fujiki (2014-08-21 06:19) 

モカ

石原先生、丁寧なお答えありがとうございます。

>尿中のナトリウムとカリウムおよび血圧

が大切なのですね。

減塩に気をつけたら「適度には塩分を摂る」というレベルになるのかなと思いました。
「カリウムの摂取も心掛け」は野菜をたくさん食べたいと思います!

また次の論文も楽しみにしています。
by モカ (2014-08-21 10:22) 

ボルボックス

はじめまして。ボルボックスと申します。
本記事を拝見させていただきました。そこで、1点お聞きしたいことがあります。記事中のナトリウム排泄量を食塩摂取量に換算されていますが、この値はどのように計算をしたのでしょうか?計算方法(式)をご教授いただければと存じます。ご多忙かとは存じますが、何卒よろしくお願いいたします。
by ボルボックス (2015-07-07 15:53) 

fujiki

ボルボックスさんへ
これは2.54を掛けただけです。
排泄されたナトリウムに見合った量が、
ほぼ摂取量に等しいというざっくりとした推定です。
by fujiki (2015-07-07 16:59) 

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