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ジェネリック医薬品をめぐる理不尽 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は雑談です。

先日ある患者さんから、
ビックリするような話を聞きました。

その患者さんは慢性のご病気を持っていて、
毎日薬を服用されています。

僕が処方したのは先発品でしたが、
調剤薬局では、ジェネリックにすればこれだけ安くなりますよ、
というような話があり、
患者さんの同意の上でジェネリック薬品が処方されました。

ある時診療所の処方箋を薬局に持って行くと、
いつもより高い金額を請求されました。

薬の変更は特になかったので、
患者さんは不思議に思って薬剤師さんに聞くと、
「今月から薬の値段が上がりました」
という返事です。

同じ薬の値段が急に上がるのはおかしいと思い、
より突っ込んで事情を聞くと、
次のようなことが分かりました。

処方されている薬の成分にはそれまでと違いはありません。

しかし、ジェネリック薬品の会社が変わったのです。
薬局の取引先が変更されたのです。
そして、その変更された会社の同じ製品は、
元の会社の製品より高い値段が付いているので、
処方箋は全く同じであるのに、
支払う金額は上がることになったのです。

それでは、前の薬に戻して欲しい、と言うと、
今は取引をしていないので出来ません、
という返事です。

患者さんは何か釈然としない気分で、
薬局を後にしました。

新薬が開発され販売されてから、
概ね10年位の一定期間が過ぎると、
特許切れとなるので、
他のメーカーも同じ成分の薬を、
販売することが可能となります。

これがジェネリック薬品で、
元の新薬より安い値段が付きます。

この仕組み自体は世界中にあるものですが、
日本の特殊性は新薬の値段も国が決め、
ジェネリックの値段も国が決めていて、
その価格でしか販売することを許していない、
という点にあります。

国はジェネリック薬品の使用を推進しています。
これは医療費の削減のためです。

そのための方策として、
僕が先発品での処方箋を出しても、
薬局ではそれをジェネリック薬品に変更して、
良いことになっている訳です。

しかし、実は同じ成分の薬のジェネリックにも、
複数の価格が存在しています。

たとえば、
ランソプラゾールという薬があります。
新薬としての名称はタケプロンで武田製薬の薬です。
通常量の15ミリグラムの薬価は、1錠89.3円です。
この同一成分の沢井製薬という大手ジェネリックメーカーでの薬価は、
1錠50.6円に設定されています。
確かに先発品より安い価格です。
しかし、その一方で同じジェネリック大手の共和薬品での価格は、
1錠34.8円とより安く設定されているのです。

もう1つの例を出します。
エバスチンという抗アレルギー剤があります。
先発品の名称はエバステルで、
5ミリグラム1錠の薬価は76.0円です。
この同一成分のジェネリック大手沢井製薬の薬価は、
1錠が48.40円です。
これが最近ジェネリックに参入した、
先発でも大手メーカーのファイザーの薬価は、
1錠が29.9円となっています。

ついでにもう1つ出します。
認知症の治療薬として有名なアリセプトですが、
先発品の5ミリグラム1錠の薬価は334.7円です。
この同一成分のジェネリック大手沢井製薬の薬価は、
1錠が193.5円です。
これが先発でも大手の田辺三菱系列のジェネリックの薬価は、
同じ用量で1錠155.4円になっているのです。

このように概ね売れ筋の商品のジェネリックは、
販売の時期や薬価改訂のタイミングその他の理由により、
2種類の価格が付いていることが多く、
中には3種類の価格が付いているものもあります。

実例は高コレステロール血症治療薬のシンバスタチンで、
10ミリグラム錠の先発品の薬価は221.8円ですが、
そのジェネリックには1錠62.6円、87.6円、124.0円という、
3種類の価格が存在しています。
先発品の高額であることにもビックリですが、
同じジェネリックであるのに、
価格差が2倍もあると言うことにもビックリです。

つまり、同じジェネリックの扱いで、
同じように優遇されていながら、
その価格は会社によって違うのです。

僕はこの辺りの裏事情は知らないので、
敢くまで推測になりますが、
何となく利益誘導の仕組みがあるように思えます。

参入の時期や卸値の調査など、
調べれば理屈はあれこれと書いてあるのです。
薬剤師さん対象のQ&Aなどにも、
もっともらしい理屈や、こう説明すれば良いのだよ、
というような偉い先生の蘊蓄が書かれています。

しかし、卸値が反映されると書かれてある一方で、
一律に薬価を強制する算術が書かれているなど、
じっくり読むと矛盾がゴロゴロ出て来ます。
そもそも医療費を下げるために導入された仕組みである筈なのに、
それが二重価格になっていて、
患者さんにその選択権が事実上ない、
という理不尽さが何故放置されているのか、
その本質的な疑問の答えが、
何処にも書かれていません。

専門家たるもの、
理不尽な仕組みには、
シンプルに「これはおかしい」と言うべきではないでしょうか?
それを全くしないでおいて、
「患者さんの言いくるめ方」
のような指南をするようなことは、
少なくとも専門家のするべき仕事ではない筈です。

皆さんが医者から処方箋をもらい、
それを調剤薬局に持って行くと、
この薬にはジェネリックと言って、
もっと安い薬があるのでそれに替えましょうと、
半ば強制的な指導が行なわれます。
ただ、これは薬局の意思と言う訳ではなく、
国家の意思であり指導であるのです。
その時にジェネリックに替えると、
これだけ負担が安くなりますよ、
と言う説明がされますが、
その際に全てのジェネリックの価格が、
説明されることはまずありません。

調剤薬局が採用しているのは、
概ね1種類のジェネリックだけです。
それはそうで、
複数のジェネリック薬品を同時に採用すれば、
在庫の管理が非常にややこしいことになるからです。

そして、そのジェネリックがより安い価格のものであるかと言うと、
必ずしもそうしたことはないのです。

仮にジェネリック薬品という国のお墨付き
(実際にはただの書類審査です)
が全て正しいものであり、
国の説明に誤りが何もないとすれば、
全てのジェネリック薬品の製品の質には、
何ら差はないということになります。
それであるのに価格に結構な差があるとすれば、
当然全ての薬局は最も安い価格のジェネリックを、
採用するのが理の当然であり、
そうなれば何処かの大手メーカーのように、
他より高い値段の製品ばかりを売っているジェネリックメーカーは、
潰れるのが必然ということになります。

しかし、実際にはそうしたメーカーが莫大な利潤を上げ、
多くの薬局がわざわざ高いジェネリックを採用して、
患者さんにそれをあたかも最低価格の製品であるかのように、
販売しています。

調剤薬局の皆さんの理屈も分かります。
取引の継続性や流通の問題もあり、
そうせざるを得ないのです。
しかし、それを分かった上で敢えて言いたいのですが、
これは消費者たる患者さんに対して、
フェアなあり方でしょうか?

本来ジェネリック薬品が、
国家の言うように医療費削減のために存在しているのなら、
ジェネリックに複数の価格があり、
どれを選ぶかによって患者さんの負担も変わるような、
そんな仕組みを作るべきではありません。
ジェネリック薬品の価格は一律であるべきで、
そうでなければ色々な意味で、
不公正なことが起こることになるからです。
医師会も薬剤師会も、
その理不尽を強く主張するべきではないでしょうか?

しかし、実際には平然とそうしたことが行なわれているのです。

ジェネリック薬品とは誰のためのものでしょうか?

それは本当に医療費削減のために存在しているのでしょうか?

それなら何故、
一部のメーカーが得をして、
より利潤を上げるような仕組みがあるのでしょうか?

そこに何の意味があるのでしょうか?

皆まで言うことは出来ませんが、
それが何故であるかは、
皆さん先刻ご承知なのではないかと思います。

ジェネリック薬品とはこうした胡散臭い部分のあるものなのです。
そのことを、是非皆さんにも分かって頂きたいと思います。

念のため補足しますが、
上記の内容は薬局や薬剤師さんを非難するようなものではなく、
ジェネリックが二重価格になっているという、
そのシステム自体が理不尽であるという趣旨のものです。
文句を言うべきで責任があるのは、
厚生労働省や、
この奇怪なシステムを容認している、
業界の一部の権力をお持ちの方であって、
調剤薬局や薬剤師さんに存在する性質のものではありません。

ただ、かつて薬の多くを医療機関で出していた時には、
製薬会社からのマージンが常態化していたように、
消費者を無視した不公正なシステムは、
必ず不公正な取引の温床となることもまた事実です。
そうしたことが分かっていながら、
そうしたシステムを作り、
暗に「お前らはこのグレーゾーンで儲けろよ」
と指南するのが行政なのです。

不公正で儲かるシステムを作っておいて、
マスコミにつつかれたりすると、
自分の責任は何処吹く風に、
平気でそれを非難するのがお役所なのです。
騙されて口車に乗ってはいけません。

僕の言いたいことは、
とっととジェネリックの価格を一定にすればそれで良く、
薬価が大きく引き下げられている昨今では、
新薬の値段を下げればジェネリックも不要で、
適正な価格が同一成分で1つになれば、
よりシンプルで公正なものになる、
ということです。
以前でしたらそうした考えは絵に描いた餅でしたが、
新薬の薬価は定期的に引き下げられ、
大手の開発を手掛けるメーカーが、
自前で他社のジェネリックを、
最低価格で販売している現在では、
すぐにでも実現可能なことなのです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

オレンジ

ジェネリック医薬品に複数の価格が存在するとは全く知りませんでした。たまに医者にかかると、院外薬局で薬を処方していただきますが、ジェネリックを薦められたり、説明を受けたりしたことは1度もありません。処方箋に書かれたとおり、処方されたものを受け取るだけです。
by オレンジ (2014-08-18 09:42) 

AF冠者

総合病院を2か月に1回、かかりつけ医に月1受診しておりますが、最近は院外処方の時は薬の名前でなく系統的な薬品名で例えばオメプラゾール、とか、ラベプラゾールナトリュウムと言う風に書かれており私は(先)にこだわって指定しております。一般的にジェネリックの評判は良くなく、また、全く無頓着か無知です。
by AF冠者 (2014-08-18 10:26) 

複雑な仕組みですね

ジェネリックを勧められてもいつも断ります。
効果に差のないジェネリックなら使ってもいいですが、素人なのでわからないからです。
いろいろ価格が存在するとか、薬局によって処方できない薬があるなら、薬ごとに処方箋を分けて、薬局の言いなりにならなくてもいいようにしてくれてもいいのではと思います。
きっと、えらい面倒な人と思われて、嫌な顔をされるでしょうね。
まあ実際、そこまで使い分けるなんて面倒すぎてやらないと思いますが。
結局、院内で処方して下さるのが、患者には一番楽です。
by 複雑な仕組みですね (2014-08-18 11:06) 

テツ

僕はジェネリックを信用していません。
かかりつけの胃腸科が院外処方になってから、ひと月の病院代+薬局代が3000円も高くなりました。
調剤薬局は薬を出すだけで十分な説明などはないです。
なのに、明細を見ると、薬剤管理料うんぬんとあります。
薬局はもうけ過ぎじゃないでしょうか?
病院で診察後、会計終了までの時間短縮はありがたいですが・・・。
あと、薬局によっては「ジェネリック加算」で儲けてるところもありました。ここで薬をもらうのは高くなるのでやめました。
by テツ (2014-08-18 18:44) 

元MR

先生、こんばんは。
いつも示唆に富むエントリーをありがとうございます。

私は、新卒から製薬会社に勤め、医療用医薬品業界に身を置いて長く経ちます。

「患者さんは先発とGEのいずれかを決めることができる一方で、
同じ薬剤の複数のGEの中から希望するものを選ぶことができない」という状況に、
何ら疑問を持つことができなかった自分を恥ずかしく思います。

ご指摘の点はごもっともだと思います。

一つの先発と価格が異なる多くのGE。
生物学的にも、薬力学的にも、溶出性も同等あることが証明され、いずれのGEも、ある先発品のGEとして存在するのならば、その価格差の根拠はどこに求めればいいのでしょうかね。

患者さんが複数のGEから選択できるのがもっともよいはずですが、
ご指摘の通り、調剤薬局において、ある先発品の後発品を複数揃えることは難しいです。

そうであれば、
最安値のGEであっても、そうでなくとも、薬局はそのGEを選び、備えている理由を患者さんに説明する義務を背負っているはずです。

専門家ならば、その説明義務に矜持を感じる必要はあると思います。
by 元MR (2014-08-19 00:19) 

ひでほ

幸いかな小生の地元病院でゾロが処方されることはめったにありません。いろいろ勉強になりました。
by ひでほ (2014-08-19 09:02) 

ドクトロイドK

毎日勉強させていただいております、ありがとうございます。
老健施設に勤めています、特養などと違って、医療費は入所費用の中に含まれてますので、使っている薬剤はほぼジネリックです。

それぞれで価格が違うのは、おそらく製造方法が違うからだろうと想像してます。錠剤をつくる際の結合剤、潤滑剤、コーティングの成分などが微妙に違うのではないでしょうか。ジェネリックで、吸収率が異なる場合があるという話を聞いたことがあります(聞きかじりですので正確な所はわかりません)。まあ、あまり極端な差はないのでしょうが、そういったデータが十分に出ていない気はしてます。

ただ、ジェネリックが増えて、薬剤名が成分薬品の一般名に変わってきた事は歓迎しています。同じ成分の薬なのに製薬会社によって全く別の名前が付けられていたり、全く逆の作用薬なのに非常に似た名前の物があったりするのは、困り者ですから。
by ドクトロイドK (2014-08-19 17:37) 

サク

いつも先生のブログを楽しく拝見し、また勉強になり感謝しております。
本当にジェネリックの薬価は同じであるべきです。そうした場合、薬局は、流通が安定していて、信頼のおけるメーカーを選び、そして先発品と見た目がそっくりなものを選んでます。できれば、主役は先発で、胃薬やビタミン剤などの脇役はジェネリックで。
患者さんには、薬代に気をとられない為にも、同じ成分のジェネリックは同じ薬価であってほしいです。
by サク (2014-08-19 23:48) 

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