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MRIの造影剤による腎性全身性線維症の発症について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は健診説明会出席のため、
午後の診療は5時で終了とさせて頂きます。
ご迷惑をお掛けしますがご了承下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
デンマークにおける腎性全身性線維症.jpg
2013年のPLOS ONE誌に掲載された、
MRIの造影剤によって起こる副作用についての文献です。

MRI検査は磁気を利用して体内の構造を可視化する検査で、
CTと共にその有用性から、
臨床に幅広く使用されています。

CT検査は放射線を使用するので、
そのリスクが問題となりますし、
造影剤として使用するヨードには、
重度のアレルギーのリスクがあることが知られています。

それと比較すると、
MRI検査には被ばくのリスクはありませんし、
造影剤として主に使用されるガドリニウムは、
ヨードのようなアレルギーを生じることは稀です。

ところが…

このガドリニウムの造影剤を使用した患者さんが、
使用後数日から数ヶ月、時には数年という期間を置いて、
以下のような症状が進行性に生じることが稀にあることが、
近年明らかになりました。

まず、足や手の皮膚が赤く脹れるような症状や痛みによって発症し、
次第に進行して皮膚は硬く厚くなり、
ハンドバックの表面の革のような感触に変化します。
病変は全身に生じますが、
首より上には起こらず、
左右対称性に起こるのが特徴です。

こちらをご覧下さい。
腎性全身性線維症の皮膚所見2.jpg
上記文献にある画像ですが、
この病気の患者さんの足の皮膚の変化を示しています。
皮膚は硬く厚くなっています。

こうした皮膚を生検して調べると、
皮膚の線維化という変化が起こっています。
弾力のある皮膚が、
かさぶたのようなものに姿を変えているのです。
病状が進行すると、
筋肉や筋にまで線維化が起こるので、
手足の関節は硬くなり、
皮膚の下には石灰化を伴ったしこりが、
ボコボコと出来ます。

こちらをご覧下さい。
腎性全身性線維症の皮膚所見1.jpg
これも上記の文献にある画像です。
上の画像は皮膚の硬化と関節の変形を示しています。
下の画像は皮下の石灰化を伴うしこりが沢山出来て、
皮膚がデコボコになっていることを示しています。

この進行性の線維化を来す病態を、
腎性全身性線維症(Nephrogenic systemic fibrosis)と呼んでいます。

この腎性全身性線維症が、
初めて報告されたのは1997年のことです。
しかし、この時点では原因不明の難病の扱いでした。
それが、ようやく2006年になって、
MRIのガドリニウム造影剤との関連性が認識されたのです。

同時に造影剤使用後に腎性全身性線維症を起こした、
ほぼ全ての患者さんで、
腎機能の低下が認められたことも明らかになりました。

それでは、何故安全と考えられたガドリニウム造影剤で、
このような副作用が生じたのでしょうか?

そのメカニズムは完全には明らかになっていませんが、
概ね以下のような想定がされています。

ガドリニウムはレアアースの1つで、
磁性体としての性質からMRIの造影剤として使用されています。
このガドリニウムそのものには強い毒性があるので、
ガドリニウムをキレート化して使用し、
そのまま腎臓から排泄されるように改良したのです。

ほぼ100%そのまま腎臓から排泄されるので、
毒性の問題はクリアされたと考えられていました。

ところが腎機能の低下があって排泄が大幅に遅延すると、
血液中に蓄積したガドリニウムが遊離し、
一種の重金属中毒を来す可能性が指摘されたのです。

その後より安定性の高い、
つまり遊離され難いガドリニウム造影剤が使用されるようになると、
その後は腎性全身性線維症は、
殆ど発症しなくなったので、
この知見からはガドリニウムの遊離が、
病態に大きく関連していることが強く示唆されます。

ただ、腎性全身性線維症は、
ガドリニウムの重金属中毒ではありません。
それでは発症までに時間の掛かることが説明出来ませんし、
病変部位にガドリニウムが沈着している、
という訳でもないのです。

おそらくは遊離したガドリニウムが、
リン酸ガドリニウムのような、
別個の形態を取ることで、
身体に異物として認識され、
それが全身の慢性の炎症を惹起して、
線維化の進行やカルシウムなどの沈着に至る、
というメカニズムが想定されます。

膠原病の1種である強皮症は、
この病気とよく似た病変を形成していて、
同様の慢性炎症のメカニズムが、
両者に存在するという推論も提示されています。

この病気の頻度は少ないので、
国レベルのまとまった統計のようなものは、
あまり存在していません。

そこで今回の文献では、
国民総背番号制を取るデンマークにおいて、
この病気の頻度と病態の特徴を解析しています。

デンマークにおいては、
2003年から2010年に掛けて、
トータル65名の腎性全身性線維症の患者さんが確認されています。
頻度的には人口100万人当たり12人ということになります。
2011年以降は新たな患者さんは確認されていません。
こちらをご覧下さい。
ガドリニウム造影剤の推移デンマーク.jpg
主なガドリニウム造影剤の使用量の、
年毎の推移を見たものです。
紫で書かれたマグネビストと、
緑で書かれたオムニスキャンは、
2005年まで非常に使用頻度の高い商品でしたが、
いずれもガドリニウムの遊離が起こり易い構造と考えられていて、
その使用により多くの腎性全身性線維症は発症しています。
それがより安定性の高い製剤に入れ替わることと、
そして何より腎機能の低下した患者さんにおいて、
こうした造影剤の使用が行なわれなくなることで、
この病気の発症は殆ど見られなくなりました。

日本においても頻度は不明ですが、
この病気の報告事例はあり、
海外と同様、より安定性の高い製剤への移行と、
腎機能低下時の使用を控える対策が取られています。

ただ、2011年の医薬品・医療機器等安全性情報を見ると、
その時点までにオムニスキャンで13例、マグネビストで8例の、
この病気の発症が報告されていますが、
そのうち7例では薬剤との因果関係が否定されています。
そうなると、
薬剤以外の原因でこの病気が発症したということになり、
そうした報告は世界的にも殆どないので、
非常に奇妙なことですが、
これが日本のシステムなのかも知れません。

現時点では、
この病気は腎機能の低下した患者さんに、
ガドリニウム造影剤を使用したケースに限って、
発症するものと理解されています。

しかし、最近では脱毛の薬であるミノキシジルのの飲み薬で、
有害事象としてこの病気の報告がアメリカでされていて、
その診断も確定的なものとは言えませんが、
ガドリニウム造影剤も、
使用開始の時点では、
腎機能低下時も安全に使用出来る薬剤と、
考えられていましたから、
この病気を単純にガドリニウムのみで起こるものと、
即断することもまた危険なように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 2

ひでほ

年数回プリモビストは受けていますが、ガドリニウムは受けていないはずなので、少し安心しましたが、何でもいろいろリスクはあるものなのですね。
by ひでほ (2014-07-14 09:35) 

fujiki

ひでほさんへ
コメントありがとうございます。
これは基本的に高度の腎機能低下のある場合の話なので、
腎機能が正常であれば、
殆ど問題はないと、
考えて頂いて良いと思います。
by fujiki (2014-07-15 08:16) 

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