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心機能が維持された心不全に対するカリウム保持利尿剤の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心不全へのスピロノラクトンの効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
躯出率と呼ばれる心機能の指標が、
それほと低下していない心不全の患者さんに対する、
スピロノラクトン(商品名アルダクトンAなど)の、
予後改善効果についての論文です。

心不全というのは、
心臓の働きが低下したことにより、
息切れや呼吸困難などの症状が起こり、
身体の浮腫みや肺に水が溜まるなどの兆候が見られる病態で、
多くの心臓の病気の進行したとして現れ、
生命予後にも直結する重症の病気です。

心不全の治療には、
血管拡張剤や利尿剤、
レニン・アンジオテンシン系の阻害剤などが、
多くの臨床試験においてその効果を確認されています。

しかし、
それは心機能の指標の1つである、
躯出率(ejection fraction)という数値が、
概ね45%未満に低下した場合のデータです。

躯出率と言う指標は、
心臓の左室という部分に溜まった血液の、
何%が全身に押し出されるのかを計算したもので、
%が少ないということは、
要するに心臓のポンプとしての働きが低下していることを示しています。

この指標は、
心臓の超音波検査で、
心臓の収縮期と拡張期の大きさを計測して、
そこから計算するのが一般的です。

心不全と言うからには、
躯出率は高度に低下していると推測されますが、
実際には心不全の症状を示す患者さんの半数は、
躯出率が45%以上あるとする報告があります。

つまり、
心不全というのは、
必ずしも躯出率だけでは決まらないのです。

ここで問題になるのは、
これまでに行なわれた多くの大規模臨床試験は、
躯出率が45%未満の患者さんを対象としているものが、
その殆どだと言うことです。

血管拡張剤の効果もレニン・アンジオテンシン系の阻害剤や利尿剤の効果も、
明瞭に確認されているのは、
躯出率が45%未満の重症の患者さんのみで、
より軽症の患者さんに対しての効果は、
実は全くと言って良いほど分かっていないのです。

2008年のNew England…誌に、
I-PRESERVE試験と名付けられた、
大規模臨床試験の結果が発表されました。

これはイルベサルタンというレニン・アンジオテンシン系の阻害剤(ARB)を、
躯出率が45%以上の心不全の患者さんに使用して、
死亡リスクや心不全の悪化による入院などのリスクを、
未使用の患者さんと比較したものですが、
結果としてイルベサルタンの有効性は確認されませんでした。

この結果は心不全の治療薬の効果が、
必ずしも全ての心不全の患者さんに対して、
同様に生じるとは言えない、
ということを示しています。

今回の研究では、
躯出率が45%未満の心不全に関しては、
その生命予後などへの有効性が確認されている、
カリウム保持利尿剤のスピロノラクトンに、
躯出率が45%以上の心不全においても、
同様の効果があるかどうかと検証したものです。

アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、ロシア、グルジアの、
6カ国の233の医療機関の患者さん3445名が対象となっています。

患者さんは50歳以上で、
息切れや浮腫みなどの、
心不全の症状や兆候があって、
躯出率は45%を越えており、
1年以内に心不全による入院歴があるか、
血液の心不全の指標である、
BNPもしくはNTpro-BNPという数値が、
前者は100pg/mL以上、
後者は360pg/mL以上、
それぞれ上昇しているかの、
いずれかを満たすことが条件となっています。

そうした患者さんをくじ引きで2つの群に分け、
一方にはスピロノラクトンを15mgから45mgで使用し、
もう一方は偽薬を、
患者さんにも主治医にも分からないように使用して、
その後平均3.3年の経過観察を行なっています。

患者さんの8割は、
ARBやACE阻害剤、利尿剤といった、
通常の心不全の治療薬を既に処方されています。
除外されているのは、
アルドステロン拮抗薬を使用している患者さんのみで、
通常の治療に上乗せの、
スピロノラクトンの有効性を見ているのです。

その結果…

観察期間中の心疾患による死亡リスクや、
心停止のリスクについては、
両群で差は認められず、
心不全による入院のみは、
スピロノラクトンの上乗せにより、
そのリスクが17%有意に低下していました。

要するに部分的な効果はあっても、
トータルには、
躯出率が45%以上の心不全においての、
スピロノラクトンの明確な上乗せ効果は確認されませんでした。

ただし…

この研究では入院歴のある患者さんと、
血液のBNPの高い患者さんとが、
別個に登録されているのですが、
サブ解析を行なうと、
入院リスクを低下させる効果は、
専らBNPの高い患者さんで得られています。

更にはロシアとグルジアからの登録患者さんでは、
入院歴による登録が多く、
若年で合併症の少ない患者さんが多い、
という偏りがありました。

これは要するに、
「心不全による入院」とされているものが、
実は心不全以外の原因によるもので、
そうした患者さんは元々心不全悪化のリスクは低く、
今回の試験の患者さんとしては、
適切ではなかった可能性がある、
ということになる訳です。

時節柄ロシアに点の辛い感じもしなくはありませんが、
同じ紙面の解説記事では、
BNPの上昇している患者さんのみを登録するか、
ロシアやグルジアの事例を除外すれば、
スピロノラクトンの効果がより鮮明となった可能性はあるのでは、
というニュアンスのものになっています。

今回の試験は、
ARBやACE阻害剤、利尿剤などが使用されている患者さんへの、
スピロノラクトンの上乗せですが、
それほど著明な効果はそもそも期待出来ないのですが、
そんな中でBNPが高値の群での心不全による入院に、
一定の予防効果が得られたことは、
決して否定的な結論とは言えないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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