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コクトー作 三谷幸喜演出「声」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は祝日で診療所は休診です。

昨日福井まで行って、今帰って来たところです。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
声.jpg
ジャン・コクトー作の女性の1人芝居を、
三谷幸喜が演出して鈴木京香が主演した舞台が、
渋谷のスパイラルホールで上演中です。

今年最後の三谷幸喜さんの舞台は、
翻訳劇で笑いの要素はほぼ皆無の意表を突いたもので、
告知も慌ただしい感じでしたし、
期間も短いので、
急遽決まった感じの企画なのかも知れません。

鈴木京香さんは三谷さんのお気に入りで、
ドラマや映画では三谷作品にお馴染みですが、
舞台は「巌流島」があるだけです。
これは「笑いの大学」と同じ時期に初演され、
台本が遅れて初日が延び、
小次郎役の陣内孝則が降板するなど、
ドタバタの公演でした。

今回は1人芝居で、ドラマで見る京香さんは、
どちらかと言えばモノトーンの芝居ですから、
それで1人だけの舞台空間を、
どのように持たせることが出来るのかに興味がありました。

実際の舞台はかなり微妙なところで、
昔のTPTを思わせる、
センスはあっても面白さや色彩感には乏しい舞台空間で、
まだ単調で生硬い感じの演技を見聴きすることは、
短い時間とは言え、
かなり忍耐を要する作業になりました。

京香さんのコアなファンか、
三谷作品は全て観る、
というお暇と時間の余裕のある方以外には、
あまりお薦めは出来ません。

以下ネタばれがあります。

中央に絨毯を敷いてベッドを置き、
そこを部屋に見立てて、
その両側に階段上の客席が設置されています。

そこにネグリジェ姿で、
別れた恋人からの電話を待っている女が1人いて、
最初何度かの間違い電話が掛かった後、
その恋人と電話が繋がり、
そして切なく壮絶な彼女の格闘が、
1時間余りノンストップで続きます。

これはかなり意地悪で難しい作品です。

基本的には1人芝居なのですが、
受話器の向こうの目に見えない恋人の姿が、
浮かぶように演じないといけません。
それほどの展開が用意されている訳でもなく、
観客が緊張を抜けるようなダレ場もありませんから、
本当に純粋に演技力と俳優自身の魅力だけで、
1時間を持たせないといけないのです。

三谷幸喜さんの演出は、
基本的に正攻法で、
いつもの笑いもありません。
オープニングとエンディング以外は音効もなく、
照明もオープニングとエンディングで絞り込まれるくらいで、
変化らしい変化はありません。

一方に置かれた窓に掛けられたカーテンのそよぎと、
恋人を象徴する皮手袋が印象的に使用されていますが、
単にアクセントのレベルに留まり、
それで舞台が膨らむ、という訳ではありません。

しかも、客席を2つに分けた趣向も、
あまり成功しているとは言えません。
客席の床がギスギスと音を立てるのですが、
開演後に入場する観客が多く、
いちいち音を立てるので、
それだけでも舞台に集中出来なくなるのです。

そこで展開される鈴木京香さんの演技は、
申し訳ないのですが、
全編極めて単調でよくように乏しく、
台詞にリズムがないので、
舞台演技として成立していませんでした。

ただ、十全に稽古を重ねる時間があったとも思えませんし、
映像での京香さんの演技を見れば、
舞台経験も少ないのですから、
これ以上の頑張りが期待出来たとも思えません。

こんなに女優さんに意地悪をして、
結局何がしたかったのか、
正直三谷さんの意図を疑問に思います。

最近の三谷幸喜さんの作品の裏テーマは、
夫婦の仲たがいと別れで、
自分の私生活への思いが、
ベースにはあるのだと思いますが、
その意味ではこの作品はそのものズバリで、
見えないもう1人の相手役は三谷さんだと考えれば、
辻褄が合うのかも知れません。

三谷作品の魅力の多くはアンサンブルにあるので、
以前の戸田恵子さんの1人芝居もそうでしたが、
1人芝居というのはどうも勝手が違うのか、
あまり盛り上がる感じにはなりません。
今回も申し訳ないですが、
明確な失敗だと思います。

次回は「国民の映画」の再演で、
このところ試行錯誤の感じが続く三谷さんですが、
個人的にはひねくれた悪意に満ちた、
アンサンブルの妙味が光るコメディを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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Vermeer

久しぶりにコメントさせて頂きます。

御存知の通り、同じ台本にプーランクが付曲したモノオペラがありますが、録音で聴く限り非常に魅力的な作品なのですが、実際に劇場で聴くとなると難しいかも知れませんね。先の10月トゥールーズでの『マノン』公演をもってオペラの舞台から引退を表明したらしいデセイに、演じてもらえないかな(ついでにオネゲル『火刑台のジャンヌ・ダルク』も)、と妄想を抱いていたこともありました。
by Vermeer (2013-12-24 18:44) 

fujiki

Vermeer さんへ
デセイ様は、
矢張り今回は完全にオペラ引退なのでしょうか?
非常にブルーですが、
来年は歌曲での来日もあるので、
それだけを心の支えにして、
詰まらない日々を送りたいと思います。
by fujiki (2013-12-25 08:10) 

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