野田地図 第18回公演「MIWA」 [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
在宅診療に行って、
その後買い物をしてから、
戻って来て今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
野田秀樹の作・演出によるプロデュース劇団、
NODA・MAPの新作公演が、
今池袋で上演中です。
これは美輪明宏の生涯を、
野田流に描いた作品で、
勿論本人公認です。
野田秀樹と美輪明宏は共に長崎の出身で、
美輪さんは長崎で原爆に被爆をされていますから、
何となくいつもの路線で、
評伝劇とは名ばかりに、
反米と反天皇制のアジテーションの芝居なのかしら、
と覚悟をして観に行ったのですが、
確かに被爆の話と反米の話はあるのですが、
トータルにはかなり真面目に、
美輪さんの評伝劇の形式を守っていて、
特に前半はかつての遊眠社を彷彿とさせる、
遊び心に溢れた世界で、
結構懐かしい気分で観ることが出来ました。
後半がややお涙頂戴で、
森光子の「放浪記」みたいな感じになるのが閉口ですが、
トータルには最近の野田秀樹の作品としては、
一番好きだと言っても良いですし、
キャストのアンサンブルも悪くなく、
舞台の質自体も高かったと思います。
特に昔の野田芝居のファンにはお薦めです。
以下ネタばれがあります。
作品は人間に男と女の性別のラベルを貼る、
天上界の様子から始まります。
そのラベル貼りが一種の踏み絵になっていて、
それが美輪さんの前世とされる、
天草四朗に繋がる、という趣向です。
美輪さんの魂は、
男と女の踏み絵を拒否して誕生し、
その時に男でも女でもなく、人間でもない異形の魂が、
同時に美輪さんの人間としての肉体に入ります。
つまり、
美輪さんは2つの魂を持っていて、
それを宮沢りえと古田新太が分けて演じるのです。
古田新太は人間のデモーニッシュな部分、
それでいて藝術の源泉のような部分を象徴しているのですが、
ラストにはその魂は美輪さんの肉体を離れて、
最後は他人として死んでしまいます。
美輪さんは自分の半身を失い、
赤木圭一郎(劇中では名前はちょっと変えています)との愛にも敗れ、
自分の理解者であった、
野田秀樹演じる三島由紀夫とも死別しますが、
それでも藝術家として生きることを誓うところで、
幕が下ります。
美輪さんの生涯は波乱万丈で、
しかも長崎の原爆や、
赤木圭一郎で代表される戦後の映画の黄金時代、
三島由紀夫の自決事件などと、
しっかり絡みがあるので、
戦後史の総ざらいとしてもネタが豊富です。
中では矢張り被爆の問題が重いのですが、
以前の「パンドラの鐘」のように、
天皇の戦争責任に収斂させるようなことはなく、
基本的には美輪さんという個人が受けた被害として描いているので、
野田作品としては、バランスが良かったように思います。
前作の「エッグ」もそうでしたが、
前半部は意図的にかつての遊眠社の演出を踏襲していて、
台詞が回文になるなどの言葉遊びもありますし、
井上真央が演じるマリアが、
聖母マリアであると同時に、
美輪さんの母でもあり、
死に変わり生き変わり、
次々と人格を変えて現れたり、
天上界と人間界が対比されてリンクしたりと、
昔のファンには懐かしい趣向が多く見られます。
ただ、「妄想」が「もうそうするしかない」
と変化するのは、
「小指の思い出」そのものなので、
ちょっと芸がないな、とは思いました。
前半と後半では少しタッチが変わり、
後半はより通常の評伝劇に近付きます。
ただ、お母さんが働く場面に、「よいとまけの歌」を被せたり、
最後に「愛の賛歌」で背中を見せ、
思い入れたっぷりに終幕になったりするのは、
如何にも平凡で、
おそらくは美輪さん公認の舞台、
という限界もあるのだと思いますが、
ちょっと毒がなさすぎるように思いました。
遊眠社の前半に、
「エディット・ピアフ物語」の後半が、
強引にくっついているような印象です。
キャストはいずれも好演で、
宮沢りえも古田新太も池田成志もさすがの存在感ですが、
僕は特に井上真央が、
昔の円城寺あやのような役処を、
過不足なく演じて感心しました。
こういうフレッシュな感じは、
絶対に舞台なれしたベテランには出せません。
通訳で自分の言葉を持たない、
戦後の文化人の戯画のような役を演じた、
小出恵介も良かったと思います。
NODA・MAPではいつも1人は、
足を引っ張るキャストがいるのですが、
今回はそうした役者がいなかったのが、
成功した大きな理由だと思います。
野田秀樹は三島由紀夫の「もう1つの魂」を演じていて、
これまでにも一度は登場させたくて、
仕方がなかったのだと思いますが、
もっとおちょくるのかと思いの外、
意外におとなしい描写でした。
美輪さんを慮って、
抑えたのかも知れません。
いずれにしても最近の野田秀樹作品の中では、
僕は最も好きな1本で、
特に前半1時間は、
とても楽しい気分で観劇しました。
両隣のおじさんが、
いずれもお酒の匂いがプンプンであったことが、
心残りでなりません。
お酒は観劇後に、
たっぷりと飲んで欲しいですね。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
在宅診療に行って、
その後買い物をしてから、
戻って来て今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
野田秀樹の作・演出によるプロデュース劇団、
NODA・MAPの新作公演が、
今池袋で上演中です。
これは美輪明宏の生涯を、
野田流に描いた作品で、
勿論本人公認です。
野田秀樹と美輪明宏は共に長崎の出身で、
美輪さんは長崎で原爆に被爆をされていますから、
何となくいつもの路線で、
評伝劇とは名ばかりに、
反米と反天皇制のアジテーションの芝居なのかしら、
と覚悟をして観に行ったのですが、
確かに被爆の話と反米の話はあるのですが、
トータルにはかなり真面目に、
美輪さんの評伝劇の形式を守っていて、
特に前半はかつての遊眠社を彷彿とさせる、
遊び心に溢れた世界で、
結構懐かしい気分で観ることが出来ました。
後半がややお涙頂戴で、
森光子の「放浪記」みたいな感じになるのが閉口ですが、
トータルには最近の野田秀樹の作品としては、
一番好きだと言っても良いですし、
キャストのアンサンブルも悪くなく、
舞台の質自体も高かったと思います。
特に昔の野田芝居のファンにはお薦めです。
以下ネタばれがあります。
作品は人間に男と女の性別のラベルを貼る、
天上界の様子から始まります。
そのラベル貼りが一種の踏み絵になっていて、
それが美輪さんの前世とされる、
天草四朗に繋がる、という趣向です。
美輪さんの魂は、
男と女の踏み絵を拒否して誕生し、
その時に男でも女でもなく、人間でもない異形の魂が、
同時に美輪さんの人間としての肉体に入ります。
つまり、
美輪さんは2つの魂を持っていて、
それを宮沢りえと古田新太が分けて演じるのです。
古田新太は人間のデモーニッシュな部分、
それでいて藝術の源泉のような部分を象徴しているのですが、
ラストにはその魂は美輪さんの肉体を離れて、
最後は他人として死んでしまいます。
美輪さんは自分の半身を失い、
赤木圭一郎(劇中では名前はちょっと変えています)との愛にも敗れ、
自分の理解者であった、
野田秀樹演じる三島由紀夫とも死別しますが、
それでも藝術家として生きることを誓うところで、
幕が下ります。
美輪さんの生涯は波乱万丈で、
しかも長崎の原爆や、
赤木圭一郎で代表される戦後の映画の黄金時代、
三島由紀夫の自決事件などと、
しっかり絡みがあるので、
戦後史の総ざらいとしてもネタが豊富です。
中では矢張り被爆の問題が重いのですが、
以前の「パンドラの鐘」のように、
天皇の戦争責任に収斂させるようなことはなく、
基本的には美輪さんという個人が受けた被害として描いているので、
野田作品としては、バランスが良かったように思います。
前作の「エッグ」もそうでしたが、
前半部は意図的にかつての遊眠社の演出を踏襲していて、
台詞が回文になるなどの言葉遊びもありますし、
井上真央が演じるマリアが、
聖母マリアであると同時に、
美輪さんの母でもあり、
死に変わり生き変わり、
次々と人格を変えて現れたり、
天上界と人間界が対比されてリンクしたりと、
昔のファンには懐かしい趣向が多く見られます。
ただ、「妄想」が「もうそうするしかない」
と変化するのは、
「小指の思い出」そのものなので、
ちょっと芸がないな、とは思いました。
前半と後半では少しタッチが変わり、
後半はより通常の評伝劇に近付きます。
ただ、お母さんが働く場面に、「よいとまけの歌」を被せたり、
最後に「愛の賛歌」で背中を見せ、
思い入れたっぷりに終幕になったりするのは、
如何にも平凡で、
おそらくは美輪さん公認の舞台、
という限界もあるのだと思いますが、
ちょっと毒がなさすぎるように思いました。
遊眠社の前半に、
「エディット・ピアフ物語」の後半が、
強引にくっついているような印象です。
キャストはいずれも好演で、
宮沢りえも古田新太も池田成志もさすがの存在感ですが、
僕は特に井上真央が、
昔の円城寺あやのような役処を、
過不足なく演じて感心しました。
こういうフレッシュな感じは、
絶対に舞台なれしたベテランには出せません。
通訳で自分の言葉を持たない、
戦後の文化人の戯画のような役を演じた、
小出恵介も良かったと思います。
NODA・MAPではいつも1人は、
足を引っ張るキャストがいるのですが、
今回はそうした役者がいなかったのが、
成功した大きな理由だと思います。
野田秀樹は三島由紀夫の「もう1つの魂」を演じていて、
これまでにも一度は登場させたくて、
仕方がなかったのだと思いますが、
もっとおちょくるのかと思いの外、
意外におとなしい描写でした。
美輪さんを慮って、
抑えたのかも知れません。
いずれにしても最近の野田秀樹作品の中では、
僕は最も好きな1本で、
特に前半1時間は、
とても楽しい気分で観劇しました。
両隣のおじさんが、
いずれもお酒の匂いがプンプンであったことが、
心残りでなりません。
お酒は観劇後に、
たっぷりと飲んで欲しいですね。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2013-10-13 15:17
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