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ニューキノロンによる血糖変動のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ニューキノロンによる血糖異常.jpg
今月のClinical Infectious Diseases誌に掲載された、
ニューキノロンというタイプの抗生物質による、
血糖の変動のリスクについての文献です。

昨日の記事でも話題にしましたように、
ニューキノロン系の抗生物質は、
飲み薬の抗生物質としては効果が強力で、
非常に幅広い病原体に、
その効果を示すので、
僕のような末端の臨床医にも安易に使用され、
その乱用が心ある感染症の専門医の、
憂えるところとなっています。

ニューキノロン系の抗生物質には、
多くの副作用や有害事象が報告されていますが、
頻度はそれほど多くはないものの、
時に問題になるのが、
重篤な高血糖や低血糖の副作用です。

ニューキノロンにも多くの薬剤がありますが、
これまでのところ低血糖などの報告が多いのは、
レボフロキサシン(商品名クラビットなど)と、
ガチフロキサシン(商品名ガチフロなど)です。
このうちクラビットについては、
2010年に記事にしました。
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2010-04-02
クラビットの使用量は海外と同等のものに改められ、
その後日本においても低血糖の副作用は増えているのです。

それ以外の薬剤に対するデータは限られたものですが、
これがニューキノロン全般に同じように関係するものなのか、
それとも特定のニューキノロンに限ったものなのかは、
臨床医の立場としては重要な情報です。

この問題に新たな知見を加えるため、
今回の研究では台湾において、
抗生物質の使用を受けた糖尿病の患者さん、
トータル78433人を発端者として、
その使用した抗生物質毎に、
その後の低血糖や高血糖の有害事象のリスクを、
検証しています。

その結果…

高血糖のリスクは、
マクロライド系抗生物質で、
患者さん1000人当たり1.62人で、
第2世代のセフェム系抗生物質であるセファロスポリンで2.07人であったのに対して、
ニューキノロンのモキシフロキサシン(商品名アベロックス)では、
1000人当たり6.87人、
レボフロキサシン(商品名クラビット)で3.91人、
シプロフロキサシン(商品名シプロキサンなど)で3.98人、
という高率でした。

一方で低血糖のリスクについては、
マクロライドが患者さん1000人当たり3.72人、
セファロスポリンで3.20人であったのに対して、
モキシフロキサシンで9.95人、
レボフロキサシンで9.26人、
シプロフロキサシンで7.88人という高率でした。

つまり、ニューキノロンの使用が、
他の抗生物質の使用と比較して、
糖尿病の患者さんにおいて、
血糖の変動を起こし易くする、
ということは間違いのないことのようで、
薬剤毎に差はありますが、
それでも多くのニューキノロンに、
同様の傾向のあることは確かなようです。

ここでポイントは、
頻度は多くても1000人に数例で、
そのため薬の発売前の臨床試験においては、
見逃される可能性が高い、
ということです。

上記の文献には血糖変動のメカニズムについては、
全く記載はありませんが、
インスリンの濃度の変動によるという推測が、
有力な仮説のようです。

一臨床医の立場としては、
特に糖尿病の患者さんへのニューキノロンの使用は、
血糖の変動のリスクを若干ながら伴うという観点から、
慎重に考えて必要最小限に留めるよう、
日々の診療で心掛けてゆきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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