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ダイエットで糖尿病の心筋梗塞は防げるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病のダイエットによる心血管疾患予防効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
糖尿病の生活改善の効果についての論文です。

数年前からメタボ健診が、
国を挙げて行なわれています。

この健診の主な目的は、
肥満が誘因となるタイプの糖尿病を予防し、
リスクの高い方には、
保健指導を行なうことにより、
その進行を未然に防ぐ、
という点にあります。

こうした健診が意味あるものとされている背景には、
肥満を生活指導により改善すれば、
糖尿病の予防と治療に有効である、
という考えが元にあります。

この考えは、
短期的には確かに確認されています。

肥満で糖尿病の予備軍のような方に、
減量の指導を行なうと、
短期的にはその糖尿病への移行が抑制され、
2型糖尿病で肥満の患者さんに、
減量の指導を行なうと、
血糖値は改善します。

しかし、
そうした減量の長期的な健康への影響については、
長期間の減量指導の試験というものが、
実際には困難であることもあって、
あまり精度の高い研究結果が存在していませんでした。

糖尿病の予防や治療の目標は、
血糖値そのものを下げることではなく、
その命に関わるような合併症を予防することです。

糖尿病には様々な合併症がありますが、
その中で糖尿病の患者さんの予後に、
最も影響を与えているのは、
心筋梗塞や脳卒中などの、
所謂心血管イベントの発症です。

しかし、
実際には長期間の減量を含む生活指導により、
心筋梗塞や脳卒中の発症が減る、
という明確なデータは存在しませんでした。

今回の研究はその点を明らかにすることを目標としたもので、
Look AHEAD試験と名付けられています。

アメリカの16の専門医療機関において、
肥満を伴う2型糖尿病の患者さん、
トータル5145名をくじ引きで2つの群に分け、
一方は通常の糖尿病の治療のみを行ない、
もう一方は一定のプログラムに基づいて、
カロリー制限と運動指導を行ない、
少なくとも7%の体重減少を目標とします。

観察期間は最大13.5年という、
長期間に渡り、
主に心筋梗塞や脳卒中の発症やそれによる死亡を、
両群で比較します。
患者さんの多数は白人で、
アジア系の方は少数しか含まれてはいません。

その結果…

試験は平均観察期間が9.6年の段階で打ち切られました。

これは、
それ以上観察期間を延長しても、
結果が変動することはないことが、
確実視されたためです。

体重減少は、
通常治療群で平均3.5%であったのに対して、
強化指導群では平均6.0%と、
目標の7%には達していませんが、
明瞭な効果のあったことは確かです。

開始後1年の時点では、
通常治療群で平均0.7%の減少に対して、
強化治療群で平均8.6%と、
この時点でより明瞭な差が付いています。

これは一種のリバウンドとも言えますが、
試験のデザイン自体、
開始後半年は念入りな指導が行なわれ、
その後は指導の間隔は空くことになるので、
デザイン自体にもやや問題があるように思います。

体重減少に伴い、
強化指導群では血糖コントロールは有意に改善しましたが、
悪玉コレステロール値のみは、
通常治療群と変化がなく、
肝心の心血管イベントの発症については、
両群で有意な差が付いていません。

細かく見ると、
重篤な心筋梗塞に関しては、
やや強化群で少ない、
という傾向が認められましたが、
例数自体も少ないため、
有意な差は付いていません。
比較的軽症な事例を含めれば、
殆ど差は見られません。

つまり、
今回の結果を見ると、
2型糖尿病の治療において、
積極的にあ体重減少のための、
保健指導を行なっても、
長期的な心筋梗塞や脳卒中の予防には、
あまり効果のない可能性が高い、
ということになります。

ただし…

今回の研究においては、
生活指導以外の糖尿病の治療については、
全て主治医の判断に委ねられているので、
その治療の影響が、
無視出来ない影響を与えている可能性があります。

投薬治療自体にも、
心筋梗塞や脳卒中の予防効果があるので、
それにより明瞭な差が出なかった、
ということも考えられます。

また、
指導開始後1年に、
減量の効果は集中して現れ、
その後はむしろ減弱しているので、
必ずしも長期の減量の効果を見ている、
というようには言い切れない面もあります。

つまり、
減量には心血管イベントの予防効果が、
ある可能性が否定された訳ではないのですが、
それは従来想定されていたものより、
かなり限定的なものなので、
他の条件をもう少し厳密に同一にするか、
例数を更に増やさないと、
その効果を科学的に実証することは、
困難な可能性が高いように思われます。

ダイエットには勿論多くの健康上のメリットがありますが、
こと2型糖尿病の患者さんに限っては、
他の治療との両輪で考えるべきで、
ダイエット単独の効果を、
期待し過ぎるのは誤りであるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

モカ

石原先生。
今回もとても興味深く拝見しました。

血糖値が改善されたにもかかわらず心血管イベントの発症には有意差が出なかった、ということは、他の方法(薬、運動、糖質制限食など)によって血糖値を下げても同じ結果になるのでしょうか。
それとも「ダイエット」自体に何か副作用があるのでしょうか。

心血管イベント以外の高血糖の合併症には差が出たのでしょうか。

日本人は肥満でなくても糖尿病を患っている人が少なくないようです。
その場合はどうなるのでしょう。

いろいろと考えてしまいました。
ありがとうございます。
by モカ (2013-07-16 13:55) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
これはまだ詳細は不明の点が多くて、
ご指摘の点の多くについては、
今後まだサブ解析のようなものが、
発表されることになるのではないかと思います。

血糖値の低下により、
網膜症や腎症のような合併症が、
抑制されることはほぼ確実ですが、
心血管イベントについては、
血糖を低くし過ぎると、
却って死亡リスクが高まる、
というような知見もあり、
その関連はさほど明確ではないと思います。
by fujiki (2013-07-17 08:18) 

モカ

石原先生

ご返事ありがとうございます<(__*)>
ご質問した内容については今後に期待いたします。

血糖値を低くしすぎて死亡リスクが上がるという知見も、低血糖自体がいけないのか、血糖値を下げる時に何か他の悪影響が出るのか興味深いです。

血糖値コントロールをしていない人の血糖値による心血管イベントの起きる頻度なども調べてみると面白いかもしれないと思いました。

いつもありがとうございます。
by モカ (2013-07-17 10:58) 

安井美由紀

人はそれぞれなので、ダイエットもそれぞれですね。ダイエットというより自分にぴったりの生活リズムを見つけて、健康にいいものを食べたり、少しでも運動したり幸せに暮らせばいいですね。
by 安井美由紀 (2013-11-04 00:10) 

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