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スタチンによる糖尿病発症リスクとメバロチンの再評価について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンと糖尿病.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
スタチンというコレステロール降下剤の、
新規糖尿病発症リスクについての論文です。

この話題については、
これまでにもメタ解析を含めて、
多くの論文があり、
ブログでも過去に何度か記事にしています。

スタチンと呼ばれる薬があります。

商品名ではメバロチンやリポバス、
リピトール、クレストール、リバロ、
などがそれに当たります。
以上は先発品の商品名ですが、
今では多くのジェネリック薬品も発売されています。

その主な働きはコレステロールの合成を、
肝臓で抑えることで、
そのことにより血液のコレステロールを、
強力に減少させます。

メバロチンの創薬は、
正に画期的なことでした。
コレステロールが高いことが、
動脈硬化を進め、多くの病気の原因となることは、
分かっていたにも関わらず、
それまで有効にコレステロールを低下させるという、
薬剤が存在しなかったのです。
多くの臨床家には無念の思いがあったのです。
その多くの医師の夢が、
ここに叶うことになったのでした。

そうした薬剤がその後次々と発売され、
動脈硬化を予防する時代が始まりました。

スタチンの治療が、
多くの患者さんの、
特に病気の再発予防に、
大きな貢献をしたことは、
これは紛れも無い事実です。

ただ、こうした薬の効果が劇的であったので、
あまりに安易にその使用が拡大した、
という面があったことは事実です。

そしてその効果ばかりでなく、
スタチンの持つ問題点が、
最近指摘されるようになりました。

その中で、
最近注目されているものの1つが、
スタチンに糖尿病の発症を、
増やすような作用があるのではないか、
という指摘です。

2008年にロスバスタチン(商品名クレストール)の、
動脈硬化性疾患の予防効果を検証した、
JUPITER試験と呼ばれる大規模な臨床試験が発表されました。
この結果の解析により、
偽薬と比較した時に、
ロスバスタチンを使用している患者さんにおいて、
新規の糖尿病の発症が相対リスクで27%増加していた、
というびっくりするような知見が報告されました。

引き続きそれ以外のスタチンの臨床試験においても、
アトルバスタチン(商品名リピトール)や、
シンバスタチン(商品名リポバスなど)と、
矢張り新規の糖尿病の発症との関連性が報告されました。

一方で世界最初のスタチンである、
プラバスタチン(商品名メバロチンなど)では、
そうした結果は殆ど報告されていないばかりか、
WOSCOPS試験と呼ばれる大規模臨床試験の解析においては、
偽薬と比較して、
プラバスタチンを使用している患者さんでは、
新規の糖尿病の発症を、
相対リスクで30%低下させた、
という全く逆の結果が報告されています。

その後多くのメタ解析の論文が発表されました。

2010年の2月の英国の医学誌「Lancet 」の論文は、
以前ブログでご紹介したことがありますが、
どのスタチンを使用した場合においても、
若干の血糖値の上昇が認められ、
4年間のスタチンの治療により、
255名に1名の比率で、
糖尿病が発症する、という結論でした。
ただ、これは心臓病のリスクのある患者さんに使用する上においては、
その心臓病予防のメリットを上回るものではなく、
コレステロール低下療法自体のメリットを、
否定する内容とはなっていません。

日本で現在使用されているスタチンは、
プラバスタチン(商品名メバロチンなど)から始まって、
シンバスタチン(商品名リポバスなど)、
フルバスタチン(商品名ローコールなど)、
アトルバスタチン(商品名リピトール)、
ピタバスタチン(商品名リバロ)、
ロスバスタチン(商品名クレストール)まで、
6種類があります。

これ以外に海外では、
製品発売がプラバスタチンより早い、
ロバスタチンがありますが、
日本では未発売です。

全てのスタチンを一括りにして、
糖尿病の発症リスクを同じように増加させる、
と言って良いのでしょうか?

個別の文献を読む限り、
プラバスタチンは別箇のようにも考えらえます。

動物実験においては、
プラバスタチンは
インスリン感受性を高め、糖新生を抑制するとされています。
つまり、糖尿病に対しては、
良い作用が期待されます。
その一方でロバスタチンとアトルバスタチンは耐糖能を低下させ、
シンバスタチンはインスリンの分泌を抑制する、
という可能性が示唆されています。

こうした基礎実験のデータから見ても、
スタチンによって、
その糖尿病発症リスクには違いのある可能性があります。

しかし、
これまでの多くの臨床データは、
個別のスタチンの臨床試験の結果か、
それをまとめたメタ解析のもので、
個々のスタチンの影響を、
直接比較するのには不充分な性質のものが、
殆どでした。

そこで今回の論文においては、
カナダのオンタリオ州において、
処方や病名の登録データを元に、
一定期間のスタチンの使用と、
その間に新規に発症した糖尿病との関連性を、
そのスタチンの種別毎に検討しています。

1つのデータにおいて、
多くのスタチンの影響を比較検討している点が、
今回の研究の最も大きな特徴です。

対象となっているのは、
66歳以上で1997年~2010年の間に、
スタチンの処方が行われた、
47万人余の糖尿病の既往のない患者さんです。

使用されているスタチンは、
プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、
ロスバスタチン、ロバスタチンの6種類で、
処方数はアトルバスタチンが圧倒的に多く、
フルバスタチンとロバスタチンは最も少ない処方となっています。

スタチン使用中の新規糖尿病発症リスクを、
プラバスタチンを対照として検討すると、
アトルバスタチンは1.22倍、
ロスバスタチンは1.18倍、
シンバスタチンは1.10倍、
それぞれ有意に発症リスクを増加させました。
フルバスタチンとロバスタチンについては、
有意なリスク上昇は認めませんでした。

これは実際の比率としては、
アトルバスタチンにおいて、
年間1000人の処方当たり、
31人の新たな糖尿病の発症があるのに対して、
プラバスタチンでは23人の発症に留まっている、
ということになります。

今回の結果においては、
直接比較において、
矢張りプラバスタチンが、
最も糖尿病発症リスクとの関連性が少ない、
という結果が得られています。

上記の文献で取り上げられているスタチン以外に、
日本で創薬されたピタバスタチン(商品名リバロ)があり、
この薬は肝臓の薬物代謝酵素CYPの代謝とは無関係で、
血糖を上昇させる作用はない、
と製薬会社では説明しています。

しかし、
実際には海外の臨床であまり使用されていないので、
検討に値するようなデータに乏しく、
現時点ではリスクに関連があるとも、
無関係ともどちらとも言えません。

それでは今日のまとめです。

スタチンはコレステロール降下剤として、
その心臓病の予防や再発予防効果は、
確立している薬剤ですが、
原因はまだ十全には解明されていないものの、
血糖を上昇させ糖尿病の発症リスクを増加させる、
という有害事象があります。

この糖尿病の発症リスクの増加は、
プラバスタチンでは明瞭ではなく、
フラバスタチンとロバスタチンは、
最近の症例数が少ないので、
はっきりした結果が得られていませんが、
アトルバスタチン、シンバスタチン、ロスバスタチンには、
明確に存在しています。
その影響は概ねその用量に依存しているようですが、
用量を設定してリスクを検証するような、
精度の高い試験は行われていないので、
その真偽のほどは明らかではありません。

今後そのメカニズムはもとより、
どの程度の期間でこの現象が生じ、
スタチンの中止によりどの程度改善するものなのか、
それともしないのか、
本当に一次予防においても、
糖尿病の発症リスクを、
スタチン使用のメリットが凌駕しているのか、
糖尿病の発症リスクを事前に予測することは出来ないのか、
といった点について、
より詳細な検討が、
不可欠なように思います。

アメリカのFDAはこうした知見により、
2012年からプラバスタチンを除く全てのスタチンのラベルに、
糖尿病のリスク上昇への注意喚起を記載することを求めています。
しかし、
日本では現行アトルバスタチンのみに、
糖尿病の悪化の怖れあり、
という注意喚起を載せているだけです。
この差も早急に埋める必要があるのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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モカ

石原先生こんにちは。
今日も興味深い論文のご紹介ありがとうございます。

スタチンは肝臓でのLDL受容体の発現を増やすお薬ですね!

私のパートナーは高血糖と高コレステロールの両方があり、リバロを飲んでいます。
(他にも高血圧、高尿酸もセットで持っています)

ピタバスタチンは血糖値に影響が少ない(ない?)ということで安心しました。
主治医の先生はそこまで考えて処方してくれたのですね!
by モカ (2013-05-30 14:23) 

fujiki

モカさんへ
スタチンは基本的には、
コレステロールの合成阻害剤です。
リバロは確かに糖尿病発症増加のデータはないのですが、
世界的な処方自体が少ないので、
現時点では何とも言えないと思います。
by fujiki (2013-05-30 22:35) 

モカ

石原先生ご返事ありがとうございます<(__*)>

スタチン(HMG-CoAレダクターゼ阻害剤)は

1) 肝細胞中でのコレステロールの生合成を阻害
2) 肝細胞がコレステロール不足になる
3) それを補うために、遺伝子レベルで肝細胞中のLDLレセプターの発現が誘導される
4) 肝細胞表面のLDLレセプターが増加
5) 血中から肝臓へのLDLの取り込みが増加
6) 血中コレステロール値が下がる

という機序だったと思います。
(間違えていたらすみません!)
(僭越な書き込みすみません!)

リバロはまだデータが少ないためになんとも言えないのですね。

いつもほんとに石原先生のブログは勉強になります。
ありがとうございます!
by モカ (2013-05-31 13:19) 

fujiki

モカさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
慌ててレスしたので、
何か非常に素っ気無い文面に、
なってしまったことをお詫びします。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-05-31 19:07) 

モカ

石原先生
ご返事ありがとうございます。
いえいえ、こちらこそ僭越なコメントすみません。
ほんとに先生のブログはいつも勉強になっています。
医学と全く関係ない記事も大好きです。
これからも是非よろしくお願いいたします。
by モカ (2013-06-01 21:59) 

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