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甲状腺のしこりの大きさと癌リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺のしこりの大きさと予後.jpg
今年のJournal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌に掲載された、
甲状腺のしこりの大きさと、
それが癌であるかどうかの推定についての論文です。

甲状腺癌の一般的な診断の手順は、
まず超音波検査で甲状腺のしこりの有無と、
その大きさや性状をチェックし、
その所見から癌を否定出来ない時や、
積極的に癌を疑う場合には、
甲状腺に細い注射針を刺して、
しこりから細胞を採取し、
その細胞の性質を見る、
穿刺吸引細胞診を行ないます。

細胞診の結果で癌の可能性が強く疑われる場合や、
細胞診では確定でなくとも、
その他の所見から癌が否定出来ない時には、
手術などの治療が考慮されます。

最終的な診断が確定するのは、
手術後、ということになります。

甲状腺のしこりが癌であるかどうかの診断は、
従って手術の前には常に推測でしかないのですが、
細胞診で甲状腺乳頭癌に、
比較的特異的な所見が得られれば、
その正診率はかなり高いものになります。

しかし、
実際には細胞診で特徴的な所見が、
得られないこともありますし、
それ以前の問題として、
超音波検査で見付かった、
全てのしこりに穿刺による細胞診を行なうことは、
現実的ではありませんから、
どのようなしこりに対して、
細胞診を行なうべきか、
という判断の指標も必要になります。

ここにおいて、
しこりの辺縁の不整像や微小な石灰化、
周辺への浸潤を疑わせる所見などと共に、
そのしこりが癌ではないか、
という疑いを持つ1つの指標として、
使用されているのが、
そのしこりの大きさです。

単純にイメージとしては、
小さなしこりより大きなしこりの方が、
癌である可能性が高そうに思います。

多くの癌の病期が、
その癌の大きさを1つの指標にしているのは、
癌が大きくなればなるほど、
その予後も良くない、
という考え方があるからです。

これが肺や副腎のしこりでは、
それが大きいほど癌の可能性が高い、
というデータが存在しています。

しかし、
甲状腺のしこりの場合には、
必ずしもそうした知見が確立されている、
という訳ではありません。

2008年のSurgery誌の論文では、
1000人を越える甲状腺のしこりの患者さんを分析した結果、
良性のしこりの平均の大きさが4.4センチだったのに対して、
癌のしこりの平均の大きさは3.3センチで、
悪性のしこりの方が良性のしこりより小さい、
というびっくりするような結果が報告されています。

2012年のThyroid誌の論文でも、
1センチから3.9センチの甲状腺のしこりが、
悪性である確率は19.3%であったのに対して、
4センチを超えるしこりが悪性である確率は、
より低い14.3%に留まっていました。

こうしたデータを見る限り、
甲状腺のしこりにおいては、
その大きさが小さい方が、
より癌の確率は高い、
という不思議な結果が得られています。

何故このようなことが起こるのでしょうか?

今回の研究においては、
アメリカの甲状腺疾患専門の単独の医療施設において、
1995年から2009年に掛けて超音波検査で診断された、
甲状腺の大きさが1センチを超えるしこりについて、
その大きさと最終的な診断との関係を詳細に検証しています。
4955名の患者さんの、
のべ9339個の甲状腺のしこりが対象となっています。

この分野においては、
これまでで最も大規模な検討の1つだと思います。

9339個のしこりのうち、
78%に当たる7348個が穿刺吸引細胞診の対象となり、
結果として4955名の患者さんのうち、
16%に当たる813名が臨床的に甲状腺癌と診断されました。
7348個のしこりのうち、
最終的に手術後に組織所見で癌と診断されたのは、
13%に当たる927個です。

このうち86%は乳頭癌で、
8%が濾胞癌、
残りは未分化癌やリンパ腫などそれ以外の組織型です。

細胞診による術前診断においても、
術後の組織診断においても、
1~1.9センチまでのしこりと、
2センチ以上のしこりとを比較すると、
2センチ以上のしこりの方が、
有意に癌である確率は高いものになりました。
術後の診断においては、
2センチ未満のしこりのうちの癌の確率は10.5%であったのに対して、
2~2.9センチでは13.5%、
3~3.9センチでは16.3%、
4センチ以上では15.0%でした。

つまり、
2センチ未満のしこりでは、
癌の比率はそれより大きなしこりより少ないけれど、
2センチを超えるしこりに関しては、
大きさが大きくなっても、
癌の確率は増えていない、
ということが分かります。

これを癌の組織型で検討してみると、
2センチ未満では乳頭癌が圧倒的に多いのに対して、
2センチを超えるしこりでは、
大きさが大きくなるに従って、
濾胞癌の比率が多くなっていることが分かりました。

つまり、
2センチ未満の大きさでは、
甲状腺のしこりが癌である確率は少ないのですが、
たとえば4センチを超える大きさのしこりでは、
濾胞癌の可能性の方が高くなり、
この場合には必ずしも大きさと、
癌の確率とが平行はしない、
ということになる訳です。

これは感覚的にはその通りで、
大きなしこりは嚢胞の部分を含むことが多く、
その中には良性の嚢胞も多いので、
必ずしも大きさが大きいから、
それだけ悪性の可能性が高い、
とは言えないのです。
しかし、嚢胞性の部分がない、
純粋に充実性のしこりで、
かつ単純な腺種ではない所見を伴う時には、
その大きさと癌の可能性とは、
比例する可能性が高いように思います。

肺のしこりのような場合には、
その大きさと癌の可能性はほぼ比例しますが、
甲状腺の場合は乳頭癌と濾胞癌とで、
その性質が異なるため、
それをひとまとめに考えると、
そうした比例関係は成り立ちません。

しかし、
それでも1センチ未満のしこりは、
癌の確率は低く、
2センチを超えるしこりは、
それより小さなものと比較すれば、
癌の確率は高くなり、
特に乳頭癌を疑うケースでは、
2センチを超えるかどうかの線引きは、
そのしこりの性質を考える上で、
1つの重要な因子ではあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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