マグネット機器による胃食道逆流症の治療について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
胃食道逆流症に対する、
新しい治療法とその効果についての論文です。
胃酸が口まで上がって来て、
胸焼けなどの症状がある方は、
多くいらっしゃると思います。
こうした症状は、
胃の中で分泌された胃酸が、
胃の入り口から逆流し、
時に口まで上がって来ることにより起こります。
こうした症状は不快なばかりではなく、
食道は胃の粘膜と違って、
酸から守られていませんから、
頻繁な逆流は食道に炎症などの変化をもたらしますし、
高齢者においては、
食べものが逆流することで、
誤嚥性の肺炎の原因にもなります。
こうした病的なレベルの胃酸の逆流による変化を、
胃食道逆流症と呼んで、
治療や予防の対象としています。
胃酸の逆流による食道の炎症を、
逆流性食道炎と呼んでいます。
胃酸の逆流は何故起こるのでしょうか?
肥満などにより、
胃に外側から圧力が加わるような場合や、
胃の動きが悪く、
長時間食物が胃の中に停滞するような場合、
また何らかの要因で、
胃の入り口の筋肉に、
弛みが生じた場合などが考えられます。
肥満の患者さんであれば、
体重を落とすような指導が有効と考えられますし、
なるべく遅い時間の食事を避け、
食べてからすぐに横にならないなどの生活指導も、
一定の有効性があると考えられます。
しかし、
臨床試験などのデータとしては、
胃食道逆流症の治療や予防に、
明確に生活指導が効果がある、とする、
信頼の置けるデータはあまり存在しません。
現時点で、
慢性の胃食道逆流症に対して、
有効性が確認されている治療は、
胃酸を抑える薬、
特にプロトンポンプ阻害剤と呼ばれる薬の、
継続的な使用だけです。
ただ、この効果も実際には限定的なもので、
上記の文献によれば、
プロトンポンプ阻害剤を使用しても、
患者さんの4割では症状のコントロールは不充分だ、
と書かれています。
実際診療所においても、
胃食道逆流症と診断し、
プロトンポンプ阻害剤の治療を行なっている患者さんのうち、
半数余は矢張り使用により症状の改善は見られても、
それが充分ではない、
というご訴えがあるという印象です。
胃カメラで分かるような、
所謂食道炎や食道の潰瘍については、
しっかりとした治療を行なえば、
胃カメラの所見としての炎症は改善します。
しかし、
それで症状が取れるかと言うと、
必ずしもそうではなく、
胸焼けやもたれ感などの不快な症状は、
プロトンポンプ阻害剤の継続治療によっても、
継続されることがしばしばあるのです。
問題は、
そうした患者さんの症状を取るような治療はないのか、
ということと、
仮にプロトンポンプ阻害剤を継続的に使用していれば、
症状がコントロール出来ているとしても、
薬を長期間のみ続けるということに、
弊害はないのか、
という点にあります。
胃酸の出が強いのであれば、
薬により一定レベル胃酸を抑制することは、
理に適っていると思います。
しかし、
胃酸を抑え過ぎてしまえば、
食事の消化も悪くなり、
胃酸の殺菌作用が失われれば、
胃腸の細菌感染症などのリスクも増加します。
カルシウムの吸収が抑えられて、
骨粗鬆症になり易いのでは、
というような報告も存在します。
従って、
特に物理的に逆流が生じ易いようなタイプの患者さんでは、
プロトンポンプ阻害剤ではなく、
別個の逆流防止のための治療が、
本来は望ましい、
ということになるのです。
これまでにも、
胃食道逆流症の手術治療は存在しましたが、
手術法の進歩は見られるものの、
基本的には食道の通る穴を縫い縮めてしまうので、
逆流はし難くはなっても、
今度は食事が通り難くなる嚥下障害が生じたり、
嘔吐することが困難になるなどの弊害が、
少なからず生じることになります。
そこで、
改良版の物理的な治療として、
現在アメリカなどで治験が行なわれているのが、
今日ご紹介する「食道平滑筋磁気デバイス」を用いる方法です。
こちらをご覧下さい。
これが使用される器具です。
一種の磁気リングのようなもので、
弱い磁気で自然と閉まるようになっています。
このリングを、
腹腔鏡を用いた手術で、
患者さんの食道の出口付近に挿入します。
すると、
通常の状態では、
弱い磁気の働きで胃の入り口が閉まっているので、
胃酸の逆流が起こり難くなります。
そして、
実際に食事を飲み込んだ時には、
その圧力によって胃の入り口が開くので、
これまでの手術のように、
胃の入り口が僅かしか開かない、
ということはなくなる仕掛けです。
これまでの手術では、
自然に嘔吐することは困難でしたが、
今回の手法では、
胃の圧力が高まれば、
これも自然に胃の入り口が開くので、
嘔吐も可能となるのです。
もう1つのこの方法の利点は、
問題があればリングを取り出すことも可能だ、
という点にあります。
摘出はおそらく開腹手術になると思いますが、
少なくともリングによる弊害は、
解除が可能です。
臨床試験において、
アメリカとオランダの計100名の患者さんが、
この手術を受け、
5年間の経過観察期間を置いていて、
その3年間時点での中間解析の結果が、
今回の文献になっています。
その結果…
手術後1年の経過で、
pHモニターによる胃酸の逆流量は、
64%の患者さんで、
術前の半分以下に低下していました。
93%の患者さんでプロトンポンプ阻害剤の使用量は、
術前の半分以下に減り、
92%の患者さんで,
症状による生活のし難さも、
術前よりスコア化された数値として、
定められたレベル以上に改善していました。
問題は有害事象ですが、
術後するには嚥下障害が、
68%の患者さんに発症していました。
ただ、経過と共にその比率は低下し、
1年後には11%、
3年後には4%になっています。
要するに手術後には、
スムースに食事が通らない、
という症状がかなりの比率で出現するのですが、
身体の慣れもあり、
徐々に適応が起こって、
症状は改善に向かうようです。
ただ、
4人の患者さんではデバイスの摘出手術が行なわれていて、
そのうちの3名は嚥下障害が改善しないことによるもので、
摘出により症状は改善しています。
残りの1例では原因のはっきりしない嘔吐が持続したために、
矢張り摘出手術に至っています。
有害事象として多かったものは、
この嚥下障害以外には、
お腹の張りと腹痛です。
このように、
この方法はこれまでの手術と比較すれば、
格段に優れていることは間違いがありませんが、
それでも以前の手術療法と同様の問題点は、
少ないながらも認められていて、
今後こうした治療が適応される際には、
その適応を慎重に見極める必要があるように思います。
個人的には、
胃や食道の手術後の、
食事の逆流などの弊害に対して、
こうした手法の応用がなされれば、
通常の胃食道逆流症より、
遥かに有意義なものなのではないか、
と思います。
現時点で日本での治験は、
行なわれてはいないと思いますが、
確認をした訳ではありません。
今後の臨床試験の結果を、
注視したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
胃食道逆流症に対する、
新しい治療法とその効果についての論文です。
胃酸が口まで上がって来て、
胸焼けなどの症状がある方は、
多くいらっしゃると思います。
こうした症状は、
胃の中で分泌された胃酸が、
胃の入り口から逆流し、
時に口まで上がって来ることにより起こります。
こうした症状は不快なばかりではなく、
食道は胃の粘膜と違って、
酸から守られていませんから、
頻繁な逆流は食道に炎症などの変化をもたらしますし、
高齢者においては、
食べものが逆流することで、
誤嚥性の肺炎の原因にもなります。
こうした病的なレベルの胃酸の逆流による変化を、
胃食道逆流症と呼んで、
治療や予防の対象としています。
胃酸の逆流による食道の炎症を、
逆流性食道炎と呼んでいます。
胃酸の逆流は何故起こるのでしょうか?
肥満などにより、
胃に外側から圧力が加わるような場合や、
胃の動きが悪く、
長時間食物が胃の中に停滞するような場合、
また何らかの要因で、
胃の入り口の筋肉に、
弛みが生じた場合などが考えられます。
肥満の患者さんであれば、
体重を落とすような指導が有効と考えられますし、
なるべく遅い時間の食事を避け、
食べてからすぐに横にならないなどの生活指導も、
一定の有効性があると考えられます。
しかし、
臨床試験などのデータとしては、
胃食道逆流症の治療や予防に、
明確に生活指導が効果がある、とする、
信頼の置けるデータはあまり存在しません。
現時点で、
慢性の胃食道逆流症に対して、
有効性が確認されている治療は、
胃酸を抑える薬、
特にプロトンポンプ阻害剤と呼ばれる薬の、
継続的な使用だけです。
ただ、この効果も実際には限定的なもので、
上記の文献によれば、
プロトンポンプ阻害剤を使用しても、
患者さんの4割では症状のコントロールは不充分だ、
と書かれています。
実際診療所においても、
胃食道逆流症と診断し、
プロトンポンプ阻害剤の治療を行なっている患者さんのうち、
半数余は矢張り使用により症状の改善は見られても、
それが充分ではない、
というご訴えがあるという印象です。
胃カメラで分かるような、
所謂食道炎や食道の潰瘍については、
しっかりとした治療を行なえば、
胃カメラの所見としての炎症は改善します。
しかし、
それで症状が取れるかと言うと、
必ずしもそうではなく、
胸焼けやもたれ感などの不快な症状は、
プロトンポンプ阻害剤の継続治療によっても、
継続されることがしばしばあるのです。
問題は、
そうした患者さんの症状を取るような治療はないのか、
ということと、
仮にプロトンポンプ阻害剤を継続的に使用していれば、
症状がコントロール出来ているとしても、
薬を長期間のみ続けるということに、
弊害はないのか、
という点にあります。
胃酸の出が強いのであれば、
薬により一定レベル胃酸を抑制することは、
理に適っていると思います。
しかし、
胃酸を抑え過ぎてしまえば、
食事の消化も悪くなり、
胃酸の殺菌作用が失われれば、
胃腸の細菌感染症などのリスクも増加します。
カルシウムの吸収が抑えられて、
骨粗鬆症になり易いのでは、
というような報告も存在します。
従って、
特に物理的に逆流が生じ易いようなタイプの患者さんでは、
プロトンポンプ阻害剤ではなく、
別個の逆流防止のための治療が、
本来は望ましい、
ということになるのです。
これまでにも、
胃食道逆流症の手術治療は存在しましたが、
手術法の進歩は見られるものの、
基本的には食道の通る穴を縫い縮めてしまうので、
逆流はし難くはなっても、
今度は食事が通り難くなる嚥下障害が生じたり、
嘔吐することが困難になるなどの弊害が、
少なからず生じることになります。
そこで、
改良版の物理的な治療として、
現在アメリカなどで治験が行なわれているのが、
今日ご紹介する「食道平滑筋磁気デバイス」を用いる方法です。
こちらをご覧下さい。
これが使用される器具です。
一種の磁気リングのようなもので、
弱い磁気で自然と閉まるようになっています。
このリングを、
腹腔鏡を用いた手術で、
患者さんの食道の出口付近に挿入します。
すると、
通常の状態では、
弱い磁気の働きで胃の入り口が閉まっているので、
胃酸の逆流が起こり難くなります。
そして、
実際に食事を飲み込んだ時には、
その圧力によって胃の入り口が開くので、
これまでの手術のように、
胃の入り口が僅かしか開かない、
ということはなくなる仕掛けです。
これまでの手術では、
自然に嘔吐することは困難でしたが、
今回の手法では、
胃の圧力が高まれば、
これも自然に胃の入り口が開くので、
嘔吐も可能となるのです。
もう1つのこの方法の利点は、
問題があればリングを取り出すことも可能だ、
という点にあります。
摘出はおそらく開腹手術になると思いますが、
少なくともリングによる弊害は、
解除が可能です。
臨床試験において、
アメリカとオランダの計100名の患者さんが、
この手術を受け、
5年間の経過観察期間を置いていて、
その3年間時点での中間解析の結果が、
今回の文献になっています。
その結果…
手術後1年の経過で、
pHモニターによる胃酸の逆流量は、
64%の患者さんで、
術前の半分以下に低下していました。
93%の患者さんでプロトンポンプ阻害剤の使用量は、
術前の半分以下に減り、
92%の患者さんで,
症状による生活のし難さも、
術前よりスコア化された数値として、
定められたレベル以上に改善していました。
問題は有害事象ですが、
術後するには嚥下障害が、
68%の患者さんに発症していました。
ただ、経過と共にその比率は低下し、
1年後には11%、
3年後には4%になっています。
要するに手術後には、
スムースに食事が通らない、
という症状がかなりの比率で出現するのですが、
身体の慣れもあり、
徐々に適応が起こって、
症状は改善に向かうようです。
ただ、
4人の患者さんではデバイスの摘出手術が行なわれていて、
そのうちの3名は嚥下障害が改善しないことによるもので、
摘出により症状は改善しています。
残りの1例では原因のはっきりしない嘔吐が持続したために、
矢張り摘出手術に至っています。
有害事象として多かったものは、
この嚥下障害以外には、
お腹の張りと腹痛です。
このように、
この方法はこれまでの手術と比較すれば、
格段に優れていることは間違いがありませんが、
それでも以前の手術療法と同様の問題点は、
少ないながらも認められていて、
今後こうした治療が適応される際には、
その適応を慎重に見極める必要があるように思います。
個人的には、
胃や食道の手術後の、
食事の逆流などの弊害に対して、
こうした手法の応用がなされれば、
通常の胃食道逆流症より、
遥かに有意義なものなのではないか、
と思います。
現時点で日本での治験は、
行なわれてはいないと思いますが、
確認をした訳ではありません。
今後の臨床試験の結果を、
注視したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-02-25 08:23
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