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食道癌の早期診断マーカーとしての抗p53抗体の有用性について [医療のトピック]

こんにちは。

六号通り診療所の石原です。

今日から診療所はいつも通りの診療に戻ります。
朝からレセプト作業を少しして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗p53抗体メタアナリシス.jpg
PLOS ONE誌に昨年12月に掲載された、
食道癌の早期診断のための血液検査についての論文です。

食道癌は早期診断がその予後に直結するという意味で、
簡便で患者さんにご負担が少なく、
正確性のある早期診断の方法が、
強く求められている癌の1つです。

先日歌舞伎の勘三郎さんが、
食道癌の手術後の合併症を契機として、
亡くなられたという報道がありました。
その一方で、
歌手の桑田佳祐さんは2010年に早期の食道癌が見付かり、
その年の暮には活動を再開しています。

報道の内容を事実とした場合の話ですが、
桑田さんは年に2回の検診をしていて、
勘三郎さんは2年ぶりの検診で、
癌が発見されています。

そして、
勘三郎さんの癌は発見の時点でリンパ節の転移があったので、
抗癌剤の治療を優先させてその後の手術の方針となり、
桑田さんの癌は、
内視鏡で粘膜を切除する手術を行ない、
おそらくは完治しています。

このようにその進行度と発見のタイミングによって、
その予後や治療の方針が大きく違うのが、
食道癌の怖さです。

その診断は現時点では胃カメラ以外にはなく、
特に食道癌のリスクが高い方では、
慎重にその粘膜の所見を観察し、
早期癌を見落とさないようにしなければいけません。

通常の粘膜の状態であれば、
1年に一度の検査で問題はありませんが、
前癌病変が疑われたり、
粘膜の炎症などの変化が強い場合には、
3か月~半年くらいの間隔で、
慎重に経過を観察する必要があります。

海外では日本ほど胃カメラは普及していませんから、
より安価でスクリーニングに使用出来るような、
食道癌の早期診断の検査が、
より求められる、
ということになります。

その1つの候補が、
この抗p53抗体です。

p53というのは癌の抑制遺伝子で、
この遺伝子の変異が、
多くの癌に認められ、
発癌のメカニズムの重要な因子の1つと考えられています。

通常p53の遺伝子産物を、
血液中で測定することは出来ませんが、
細胞が癌化し、
この遺伝子の変異が起こると、
遺伝子産物の半減期が延長し、
より安定して血液などにも存在するようになります。

そうして集積した蛋白質に対して、
身体は抗体を作るので、
p53の変異が起こると、
抗p53抗体が血液で検出されるようになります。

ここにおいて、
この抗体を一種の癌のマーカーとして、
血液で測定することが、
癌の早期診断に有用ではないかと、
考えられるようになったのです。

抗p53抗体は、
食道癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌など、
多くの癌で上昇するので、
それほどの特異性はありません。

また、
この抗体が陽性であると、
膀胱癌や肝臓癌、頭頸部癌や膵臓癌などの、
悪性度が高く予後が悪いということを、
示唆するデータも得られています。

ただ、現時点でその診断における可能性が、
一番期待されているのは、
早期の食道癌です。

そこで今回の文献においては、
これまでの抗p53抗体に関する文献を、
まとめて解析し、
その食道癌のマーカーとしての有用性を、
検討しています。

その結果…

食道癌のない人と比較すると、
食道癌のある人でのこのマーカーの陽性率は、
10倍程度は高い結果になっています。
ただ、このマーカーは他の癌でも上昇するので、
スクリーニングや癌検診に、
単独で利用出来るような感度はありません。
どの測定値を越えれば癌の可能性が高いのか、
といった点については、
まだ報告によっても様々で、
より精度の高い検討が、
今後必要となるだろう、
という内容になっています。
論文の著者らの見解としては、
癌の早期診断よりも、
癌の再発のマーカーとして、
その意義が大きいのではないか、
という判断のようです。

この検査は、
日本での研究が多く、
そのためか健康保険の適応にもなっています。

診療所でも測定をしていますが、
正直食道癌の診断のマーカーとしての、
有用性はそれほど高くないように思います。

また、このマーカーのみが上昇していて、
検索を行なっても、
特に癌の見付からない方も多く、
そうした点についての、
臨床的に有益な情報がないかと読んでみたのですが、
あまりそうした情報を、
得ることは出来ませんでした。

今日は食道癌の早期診断のマーカーについての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 11

taka

あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いいたします
by taka (2013-01-05 23:03) 

たけ

新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
腫瘍マーカーはある程度有効である・・という事ですね。でも胃カメラも必須と。
私事ですが、膠原病疑いで年に一度は癌検診受診を勧められております。まだ一度も受けていないので、なんだか背中を押された気分になりました(笑)。ありがとうございます。
by たけ (2013-01-05 23:38) 

fujiki

taka さんへ
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
by fujiki (2013-01-06 12:53) 

fujiki

たけさんへ
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
by fujiki (2013-01-06 12:55) 

半田哲郎

私はこの腫瘍マーカーに翻弄されました。 PETでも、何も発見されません。

腫瘍マーカー anti-p53  (基準値 : 1.4以下)
半田 哲郎

2009.1.30 4
3.17 4.55
6.16 5.99
7.14 6.32
10.27 6.81
2010.1.05 7.9
6.08 6.68
9.07 2.18
2011.1.13 2.3
6.01 1.75
2012.7.06 1.55
2013.9.02 1.49


by 半田哲郎 (2013-10-05 00:00) 

fujiki

半田哲郎さんへ
コメントありがとうございます。
抗P53抗体のみ上昇していて、
検査をしても問題はない、
という方は私も複数経験があり、
経過を観察していて問題のないことが殆どです。
体質的な要素もありそうですが、
現時点で明確な説明はないようです。
by fujiki (2013-10-07 08:34) 

まい

先生

私もp53抗体陽性です。31歳女のまいと申します。宜しくお願い致します。
大変悩んでおりインターネット検索をしてこちらのブログをみせていただきました。

p53抗体が8月に6.0 12月は10.2でした。
腹部エコー、乳癌検診、子宮がん検診、上部下部カメラ、様々な腫瘍マーカーを含む血液検査、肺X線をしましたがp53抗体のみの異常でした。
体の中で何が起こっているのか不安で毎日悩みながら生活しています。今後どのように経過をみていけばよいでしょうか。宜しくお願い致します。
by まい (2014-12-22 06:08) 

fujiki

まいさんへ
P53抗体のみの異常で、
他の検査で問題がなければ、
ほぼご心配はないと、
考えて頂いて良いと思います。
念の為定期的検査はした方が良いと思いますが、
おそらくは体質的なもので、
癌そのものとの関連は殆どないと、
考えて頂いて良いように思います。
by fujiki (2014-12-22 08:30) 

まい

先生

早速のお返事ありがとうございました。すぐにお返事をさせていただいたのですがうまくアップ出来なかったようです。遅くなり申し訳ありませんでした。
先生のおかげでなんだか安心することが出来ました。実は数値が上昇したこともあり大変気持ちが落ち込んでおりました。先生はp53抗体が陽性の方を診察のご経験がおありでいらっしゃるんですね。
今後は年に一度は健康診断をきちんと受けたいと考えております。p53抗体については検査の頻度はどうすればよいと考えられますでしょうか。
お忙しいところおそれいりますが、宜しくお願い致します。

by まい (2014-12-25 13:21) 

fujiki

まいさんへ
正解はないと思うのですが、
個人的にはまず3ヶ月後に1回測定し、
変化がなければ次は半年後、
それでも変化がなければ、
次は1年後で良いように思います。
by fujiki (2014-12-27 08:35) 

まい

先生

あけましておめでとうございます。
先日はお返事ありがとうございました。
先生にいただいたアドバイス通りやっていきたいと思います。
今年も宜しくお願い致します。
by まい (2015-01-06 20:04) 

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