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長塚圭史「音のない世界で」 [演劇]

こんにちは。

六号通り診療所の石原です。

今日から1月4日まで、
診療所は年末年始の休診になります。

ただ、今日はレセプト作業のため、
診療所で仕事をして戻ったところです。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
音のない世界で.jpg
長塚圭史が新国立劇場の委嘱により新作を書き、
自分を含む個性的な4人のキャストが、
愛すべき小品といった感じの、
童話のような芝居に仕上げています。

長塚圭史さんは、
非常にラジカルで暴力的で、
治り掛けた傷口に指を突っ込んでこじ開けるような、
「痛い」芝居が本領で、
独特のクールな演出技法も冴えていましたが、
2008年にイギリス留学してから、
その作風は欧米の抽象的な前衛劇のようなスタイルに一変し、
その後はどうもまだ、
新たなスタイルを、
自分のものには出来ていないように思えます。

文体も別役実に似たものに変容しましたが、
別役実がもう1人いても仕方がないのですから、
長塚圭史さんなりの、
独自の前衛劇の文体を確立するべきではないかと思いますが、
それもまだ道半ば、
という感じです。

個人的には、
欧米流の前衛劇が、
そのままの形で日本語に移殖可能とは思えず、
別役実の芝居も、
初期のバリバリの前衛劇の時期より、
その後の侘び寂びの、
日常世界にちょっとした不条理を持ち込んだ辺りで、
初めて本物になった、
という気がします。

今回の芝居は、
別役実も何度も手懸けた、
子供向けの童話としての不条理劇で、
それをダンス畑の近藤良平と首頭康之、
作・演出を兼ねた長塚圭史と、
紅一点の松たか子の、
4人のキャストがそれぞれ何役も演じる、
という趣向です。

結論的には、
そう悪くはありませんでした。

ただ、
「こどもに開かれた」という割には、
客席には僕の観た日には子供は1人もいなくて、
妙に平均年齢の高い、
淀んだ客席でしたし、
こうした芝居ではいつものことですが、
ダンス系のお2人が、
中途半端な演技で納得がゆかず、
その作品世界も含めて、
もう少し何かがあって良さそうだ、
という感じが最後まで抜けませんでした。

以下ネタばれがあります。

何処ともどの時代とも付かない、
童話的な世界で、
松たか子と首頭康之が演じる、
貧しい労働者の夫婦が、
あるクリスマスの夜に、
蓄音機の鞄を、
怪しい動物の顔をした兄弟に、
奪われてしまいます。

その蓄音機には不思議な力があり、
その時から、
外の世界でも、
「音楽」が失われて、
そのために人々が不幸になってしまいます。

小鳥はさえずりをしなくなり、
指揮者は指揮棒が何のために存在するのかを忘れ、
鼓笛隊は演奏の出来なくなった楽器を武器にして、
戦争を始め、
羊飼いは角笛の音がなくなったので、
羊と一緒に仕事をせずに、
呑んだくれてしまいます。

松たか子演じる妻は、
鞄を探す旅の中でそうした困った人達に逢い、
その妻を夫は探し、
最後には鞄を取り戻すと、
鳥のさえずりが何処かから聞こえて来ます。
それでお終い。

登場人物を入れ替わり立ち代り、
4人のキャストが全て演じます。

大きなフクロウが出現したり、
演出の仕掛けも地味ですが悪くはありません。

お話もシンプルで微笑ましく、
それがなくなると争いや悲しみが出現する、
「音」とは何だろう、
と少し考えさせるのも悪くありません。

ただ、悪くはない、
というレベルで、
何となく全てが物足りなく、
今更これはなあ、
という欲求不満の気分になることも事実です。

特にダンス系の2人が、
芝居も特に上手くはなく、
動きも特別超絶技巧を披露するということもないので、
色々な役を演じられても、
目を奪うようなところがありません。

これは概ねこうしたもので、
こうした多くの役を少人数で演じるタイプの芝居では、
ダンサーを使って、
ちょっと踊ってもらったりして、
変化を付けようとするのですが、
多くの場合には、
バレーダンサーはギリギリの超絶技巧を演じるところに、
その肉体の魅力があるので、
普通の日常動作は、
むしろ生粋の役者さんの方が、
魅力のあるものなのです。

今回も、
唯一魅力的だったのは、
松たか子の芝居で、
主人公役は勿論、
呑んだくれの羊飼いも、
戦争をする鼓笛隊も、
さすが高麗屋の血脈を感じさせて、
目が話せない出来栄えでした。

そんな訳で、
愛すべき小品ではありますが、
長塚圭史の本領発揮とはとても言い難く、
個人的にはやや不毛で徒労に終わるのではないかと思われる、
彼の愚直な新局面探求の旅は、
まだその道半ばにあるように思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 6

☆ acco ☆

長塚圭史さんと言えば、
学生劇団風 手作り感満載な
阿佐スパ時代の印象しか・・・。

なんか手の届かない所に
行ってしまったなぁ・・・。
by ☆ acco ☆ (2012-12-30 00:40) 

まみしゃん

石原先生、今年もいろいろとありがとうございました。
どうぞ、ゆっくりのんびりとお休みを満喫されてくださいね。
奥様も、お大事になさってください!
by まみしゃん (2012-12-30 10:09) 

ゆうのすけ

今年も一年お疲れさまでした。
そしてお世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。^^
御身体御自愛下さり 御家族皆様と 良い年をお迎え下さいね。☆
by ゆうのすけ (2012-12-31 00:19) 

fujiki

acco さんへ
僕はあまり昔のものは観ていないので、
逆に羨ましく思います。
今年もよろしくお願いします。
by fujiki (2013-01-04 16:00) 

fujiki

まみしゃんさんへ
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
by fujiki (2013-01-04 16:01) 

fujiki

ゆうのすけさんへ
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
by fujiki (2013-01-04 16:02) 

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