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CTによる肺癌検診のフォローアップをどう考えるか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
低線量CTの肺癌検診の過剰診断.jpg
今年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
低線量CTの肺癌検診における、
「過剰診断」の比率を検討した論文です。

肺癌の癌検診をどうするべきかについては、
色々な意見があります。

胸のレントゲン検査と痰の検査とを組み合わせた検診が、
診療所のある渋谷区では行なわれていますが、
こうした検診の意義は、
世界的には必ずしも評価されていません。

いや、
端的に言えば、
あまり意味がない、
という評価が一般的です。

肺癌の精密検査と言えば、
肺のCT検査がもう1つの選択肢になります。

CTを肺癌検診として活用する、
という考え方は、
実は日本から始まったのですが、
その時点では海外では、
そうした検診の意義はあまり評価されていませんでした。

それは1つには、
当時のCT検査の放射線の被爆量が、
かなり大きなものだった、
という点もありました。

それが最近の進歩により、
低線量のCT検査の導入で、
CT検査の被爆量は、
格段に低下しました。

ただ、そうは言っても、
通常のレントゲン撮影と比べれば、
遥かに被爆量の多い検査であることは、
間違いがありません。

そこで、
肺癌検診にCT検査を導入するためには、
その検診により、
確実に肺癌の死亡が減少した、
という臨床試験結果が必要です。

以前一度記事にしましたが、
アメリカでヘビースモーカーを対象として、
低線量CTを用いた、
肺癌検診の効果を検証した、
NLSTと呼ばれる大規模な臨床試験が行なわれ、
その結果が一昨年に報道され、
昨年論文化されました。

これによると、
5万人を超える対象者の、
5年間の解析の結果として、
肺癌の死亡率が20%、
肺癌を含めた総死亡が、
7%低下した、
という結果でした。
これは勿論相対リスクの低下です。

つまり、
大規模な臨床試験としては初めて、
低線量CTを用いた肺癌検診が、
有効なものとして確認されたのです。

同様の検討はヨーロッパでも行なわれていて、
これも以前にデンマークにおける研究の結果を、
記事にしたことがあります。

デンマークの研究においては、
肺早期癌の発見率は増加しましたが、
例数が少ないこともあって、
肺癌の死亡や総死亡に対しては、
5年の観察期間で明らかな効果が示されませんでした。

こうした肺癌検診の問題は、
常に過剰診断が少なからず存在している、
ということです。

過剰診断とは何でしょうか?

肺癌検診の場合、
そのしこりの組織は癌であっても、
その大きくなる速度は、
非常に緩やかである、
ということがあります。

増殖速度が非常にゆっくりしたものである場合、
それが癌であっても、
その人の一生の間に、
その癌は特にその人の健康に影響を与えない、
ということが往々にしてあるのです。

こうした場合、
それは癌ではあっても、
特に治療する必要はありません。

しかし、
実際には検診でそうしたしこりが発見されれば、
肺癌として手術などの治療の対象になります。

それが肺癌検診である以上、
命に関わらない癌であっても、
精密検査や治療は行なわれることになるのです。

こうした結果的には特に治療の必要のない癌が診断されることが、
すなわち過剰診断です。

それでは、
どのくらいゆっくりとした進行の癌の発見を、
過剰診断とするべきでしょうか?

上記の文献の著者らの見解としては、
癌の体積倍化時間(volume-doubling time)、
腫瘍倍化時間と呼ばれることもありますが、
この指標が400日以上599日以下がゆっくりとした進行の癌で、
600日以上は殆ど進行しない癌、と判断し、
その両者を過剰診断の肺癌と見做しています。

この体積倍化時間というのは、
以前何度か実例で記事にしたことがありますが、
そのしこりの体積が、
倍になる時間のことです。

非常に悪性度の高い肺癌は、
概ね1カ月で体積が倍になるくらいのスピードを持っています。
つまり体積倍化時間が30日くらいです。
以前の診療所の検討では、
概ね倍化時間が90日未満であると、
毎年1回レントゲンを撮っていても、
手術が困難な状態まで、
進行して見付かることがあります。

そして、
体積が倍になるのに1年以上掛かる癌は、
かなりゆっくりとした進行の部類になります。

それでは、
低線量CTで肺癌検診を行なった場合、
どのくらいの割合で、
過剰診断が生じるのでしょうか?

今回の論文では、
イタリアでヘビースモーカーの健康追跡調査のデータを元に、
肺癌の低線量CT検診で見付かった肺癌のうち、
どの程度が過剰診断であったのかを、
経過観察時の体積倍化時間を元に検証しています。

その結果、経過観察中に診断された肺癌120例中、
25.8%は体積倍化時間が400日以上の肺癌で、
過剰診断の可能性が高いと考えられました。

つまり、
CTによる肺癌検診で見付かる癌は、
その4分の1は実際には治療しなくても、
問題のないものだった可能性がある、
ということになります。

一方で現在では死亡リスクの減少効果はないとされる、
レントゲンのみか、それに痰の検査を加えた肺癌検診では、
体積倍化時間が400日以上の肺癌は、
5%に留まると考えられています。

つまり、精度の高い検診をすればするほど、
本来治療の必要のない癌が、
治療される率も増えるのです。

ここに癌検診というものの持つ、
大きな矛盾があるように思います。

こうした無用な治療を防ぐには、
CTでの経過観察を行ないつつ、
体積倍化時間が400日未満のものに限って、
精密検査や治療を行なう、
という方法が考えられます。

ただ、それはそれで、
CTの撮影回数は増え、
対象者もより長期間に渡り、
検査を続ける必要がある、
というジレンマがあります。

日本においても、
CTによる肺癌検診をスタンダードなものにする、
という流れがありますが、
その検診デザインをどのようにするかは、
非常に難しい問題で、
安易な導入は、
過剰診断を増やすだけで、
肺癌の死亡を減らすことには繋がらない可能性があることを、
僕達は常に考える必要があるのではないかと思います。

今日は肺癌検診の過剰診断についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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