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男性更年期をどう考えるか?(2012版) [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は以前も何度か取り上げた、
男性更年期についての話です。

男性にも更年期があり、
治療により性欲減退のみならず、
うつ病や筋力低下、不眠など、
多くの症状が改善することがある、
という話は、
何年か前に盛んにテレビの健康番組などで、
紹介がされました。

ただ、それに対して批判的な意見も多くあり、
特に男性ホルモン剤の使用に関しては、
健康番組などで取り上げられ、
宣伝されている割には、
実際に行なっている医療機関は、
それほど多くはないようです。

先日この男性更年期に対するホルモン療法を、
推奨されている泌尿器科の先生の講演を、
久しぶりに聞く機会がありましたが、
そのトーンは以前より消極的なものになっていて、
時代の移り変わりのようなものを感じました。

今日はそうした流れも踏まえた上で、
現時点での男性更年期に対する考え方と、
特にその日本と欧米との考え方の違いを、
まとめておきたいと思います。

男性更年期障害のうち、
実際に男性ホルモンの数値が病的に低下し、
それに伴う症状が出現しているものを、
現在LOH症候群と呼んでいます。
LOHとはlate-onset hypogonadismの略で、
これは中年以降の年齢において、
性腺機能低下症が生じる、
という意味合いです。

LOH症候群の診断には、
従って男性ホルモンの測定が不可欠です。

ただ、その基準値が必ずしも定まってはおらず、
日本と海外でもその測定法も基準値も、
同一ではない、という点が、
LOH症候群の大きな問題点です。

男性ホルモンは、
その95%は精巣で作られるテストステロンで、
残りの5%は副腎で作られる、
DHEAやアンドロステンジオンなどから成っています。

この男性ホルモンは、
いずれも年齢と共に低下しますが、
問題になるのは主にはテストステロンです。

ただ、このテストステロンは、
そのうちの98%が性ホルモン結合グロブリンか、
もしくはアルブミンという、
蛋白質に結合した形で存在し、
残りの数%のみが、
蛋白とは結合しない、
所謂遊離テストステロンという形で、
存在しています。

ここで、
男性ホルモンとしての活性を持っているのは、
遊離テストステロンと、
アルブミン結合型のテストステロンの、
2種類で、
それ以外の性ホルモン結合型のテストステロンは、
活性はないと考えられています。

通常簡単に測定が可能なのは、
全部をひっくるめた総テストステロンの血液濃度と、
遊離テストステロンの濃度です。

ただ、
これはどちらも活性のあるテストステロンそのものとは、
意味合いが違う、
という点に注意が必要です。

総テストステロンは、
活性のない物質を多く含んでおり、
一方で遊離テストステロンは、
活性のあるホルモンの一部に過ぎません。

海外では総テストステロン単独か、
それに遊離テストステロン及び、
性ホルモン結合型テストステロンを測定し、
そこから活性型のホルモンの総和を計算する、
という方法が使われていますが、
日本ではもっぱら遊離テストステロンのみが、
使用されています。

これは2007年に作成された、
日本のLOH症候群のガイドラインで、
遊離テストステロンの数値が、
診断基準として用いられているためで、
その基礎となるデータにおいては、
総テストステロンは日本人においては年齢と相関せず、
遊離テストステロンは相関の見られたことから、
決められています。

ただ、
これに関しては、
海外のデータと比較して、
あまりに差が大きいので、
再度検証が必要であるように思います。
日本で使用されている遊離テストステロンの測定は、
例によって海外では、
あまり使用されていないからです。

通常日本のみの診断基準においては、
遊離テストステロンの数値が、
8.5pg/mlを下回る場合を、
治療の適応としています。

アメリカにおいては一時期、
この男性更年期障害に対するホルモン治療が、
盛んに行なわれたのですが、
臨床データにおいては、
あまり有効性が確認出来ず、
現在ではあまり推奨される治療にはなっていません。

ただ、先日講演をされた、
泌尿器科の教授も話されていましたが、
ホルモン治療により、
体調が著明に改善した、
という患者さんが少なからずいることは事実で、
僕も実際にそうした事例の経験があります。
これは特定の症状が改善する、
というよりも、
「どうも最近疲れ易く、体調が全般的に悪い」
というような状態が、
治療により全体的に改善する、
というような印象なので、
それを数値化して評価することは、
なかなか難しい性質のものなのです。

また、
前立腺癌の治療などでは、
男性ホルモンをゼロにするような、
ホルモン療法が行なわれますが、
この時に体調不良を訴える方は、
ご高齢の方でもかなり多く、
この事実は、
バランスを欠いた男性ホルモンの低下が、
多くの症状の原因となることを示しています。

更には近年、
男性ホルモンの低下による、
筋肉量の減少が、
脂肪細胞へ影響を与えて、
インスリン抵抗性を惹起し、
動脈硬化の進行を来たすようなメカニズムも、
注目されるようになって来ています。

従って、
適切な形での男性ホルモンの補充は、
非常に有益な治療行為となる可能性があります。

しかし、
一方でその弊害もあります。

LOH症候群の治療は、
原則40歳以上とされていて、
これは精巣の活動が充分な時期に、
外的にホルモンを補充すると、
精巣が萎縮して、
精子が産生され難くなる弊害があるからです。

従って、
40歳以上であっても、
お子さんをご希望される場合には、
この治療には注意が必要です。

前立腺癌は男性ホルモンに反応する癌なので、
ホルモン療法が癌を誘発する可能性は、
ほぼ否定されているようですが、
仮に前立腺癌が存在すれば、
それが増大するリスクはあります。
そのため、
この治療を継続する際には、
PSAの定期的なチェックが不可欠です。

海外で指摘されているリスクとしては、
多血症と睡眠時無呼吸症候群、
そして65歳以上の年齢で使用した際の、
心疾患のリスクの上昇が、
報告されています。
従って、
こうした病気のリスクのある患者さんでは、
使用を避けるのが賢明です。

従って、
そうした点に注意を払いながら、
男性ホルモンの補充療法は行なう必要がありますし、
この治療には諸刃の刃の部分があるということを、
常に認識する必要があるように、
僕には思えます。

今日は男性更年期とその治療についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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