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タトゥーインクによる非結核性抗酸菌症の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

昨日病院で診察を受け、
肘の骨折はほぼ治りましたが、
左手首の靭帯が切れていて、
もう1か月様子を見た上で、
改善がなければ10月22日に手術の予定になりました。

今は固定も取れたので快調ですが、
手術となるとその後はまたギブス固定になるので憂鬱です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
タトゥーインクの感染論文.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
アメリカで最近問題になった、
タトゥーによる皮膚の集団感染の事例の報告です。

ファッションとしての入れ墨は、
アメリカでは近年急速に広がっていて、
成人の21%がそうした入れ墨(タトゥー)を入れている、
という統計もあります。

驚きの比率です。

これに伴い、
皮膚の感染の事例が、
しばしば問題になるようになっています。

日本においては、
過去のトラディショナルな刺青では、
高率にウイルス肝炎の発症がありましたが、
最近のファッション感覚のものでは、
そうした事例はあまりないようです。

一方でアメリカにおいては、
土や水の中に生育し、
結核菌に似た性質を持つ、
非結核性抗酸菌という病原体による、
皮膚の感染症の発症が、
問題になっています。

今回の事例は、
2011年の10月から12月に掛けて、
同じタトゥーショップでタトゥーを入れた19人に、
施術後3週間以内に、
次々と皮膚に赤い結節を伴う湿疹の症状が出現し、
その部位の生検で、
Mycobacterium chelonae という非結核性抗酸菌が、
検出された、
というものです。

湿疹の画像がこちらになります。
タトゥーインクの感染画像.jpg
これまでにも、
この病原体によるタトゥーインクによる感染は、
アメリカで報告があります。
また、2004年には顔面の美容整形手術の際、
マーキングに使用されたインクの水溶液による、
同様の感染症が問題になったこともあります。

これまでの事例は、
概ね原液を水で溶いた際に、
感染したものが大半でしたが、
今回の事例においては、
まだ薄める前の原液の未開封のボトルからも、
同病原体が検出されていて、
事態はより深刻なものと考えられています。

日本でも同じ病原体による皮膚の感染症は、
報告されていますが、
もっぱら破傷風のように、
土などの汚染を受けた器物からの、
感染の事例が多く、
医療器具やインクなどからの感染の事例は、
調べた範囲ではあまり報告はないようです。

アメリカでインク等の事例が多いのは、
どうも何か特定の理由がありそうです。

治療は抗生物質と病変部の外科的な処置ですが、
通常の細菌による皮膚感染と比べると、
難治性で厄介になります。
また、こうした病気を想定していないと、
診断がなされず、
無意味に効果のない抗生物質の治療を継続して、
経過の長くなるケースもあります。

対岸の火事と思うことなく、
その可能性は常に念頭に置きながら、
日々の診療に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(補足)
ご指摘を受け用語を修正しました。
(2012年9月19日午前8時34分修正)
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コメント 8

kuro

こんにちは。とても勉強になるブログなので、よく拝見させていただいております。(私も医師です。)今日のブログで非定型抗酸菌とありましたが、今は非結核性抗酸菌に正式名称が変っているので、とりあえず連絡を、と思いコメントいたしました。今後もタメになるこのブログをお願い致します。
by kuro (2012-09-19 08:23) 

a-silk

腕の怪我では内視鏡の操作など、いろいろ不自由があることでしょうね。
1日も早く回復されることを願っています。
by a-silk (2012-09-19 08:36) 

fujiki

kuro さんへ
ご指摘ありがとうございます。
取り急ぎ修正しました。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2012-09-19 08:36) 

fujiki

a-silkさんへ
お気遣いありがとうございます。
ギブスが憂鬱ですが、仕方がありません。
気長に治そうと思います。
by fujiki (2012-09-19 08:39) 

pekiko

初めて拝見させていただきました。
今年初めに胃腸炎のような症状で下痢をし、病院にいかず市販のビオフェルミンで様子を見ていたところマシになっていたので、そのままにしていたのですが、(その頃は便秘でずっと便秘薬を飲み続けていました。)
その後も便秘薬を飲んでおりましたが、1ヶ月程経った頃、排便後には引いていた腹痛がなかなか引かなくなり、便秘薬を飲まなくなった今でも軟便状態が改善されません。
便秘薬など飲まなければ腹痛もさほどありません。
しかし先日便の出が悪かったので便秘薬を少量飲んでみると、食後に
腹痛を催すようになり大変後悔しています。。
もう5日程になりますが、ブスコパンで様子を見ているところです。
大腸検査はしていないのですが、今通っている病院の先生も胃腸炎を引き金に過敏性腸症候群を引き起こしている可能性があると言ってます。
先生のおっしゃる抗生物質を飲んでみたいと申し出たのですが、急性の時でないとあまり意味がないようなことを言われ出してもらえませんでした。
今はミヤBMを飲み続けています。
私のような場合でも抗生物質で治る可能性は充分あるでしょうか?
コメント頂ければ幸いです。
by pekiko (2012-09-19 11:12) 

Pekiko

去年の1月の記事を見させていただきました。
こちらにコメント申し訳ありません!
by Pekiko (2012-09-19 11:16) 

fujiki

pekiko さんへ
感染をきっかけとして、
過敏性腸症候群が発症した場合、
そのベースに小腸の、
異常な細菌増殖の問題がある、
という可能性はあり、
そうであれば、
抗生物質の使用が、
有効なケースはあると思います。
文献的には4週間の投与は必要なことが多いようです。
ただ、全ての過敏性腸症候群が、
そうしたメカニズムで発症する、
という訳ではなく、
その証明も現時点では困難です。
経験的には、
効果のある患者さんでは、
大腸の細菌検査で、
病原性大腸菌などが、
持続的に検出される事例が多く、
僕自身は治療をする際の1つの参考にしていますが、
理屈から言えば、
小腸の細菌叢とは別物なので、
診断的な意義はあまりないかも知れません。

また、
現時点で抗生物質の長期間の使用が、
推奨される治療になっている、
という訳ではありません。

従って、
先生によっては不必要な治療だ、
という見解もあり、
主治医の先生の言われることが、
誤りという訳ではありません。

私見ですが、
もう少しそのままご様子を見て頂き、
それで回復しないようであれば、
一度抗生物質の使用は、
試みてみても、
悪くはないと考えます。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2012-09-19 22:37) 

pekiko

コメント本当に有難うございました。
検便をしてみて病原性大腸菌が見付かれば、抗生物質投与も有効かもしれないということですね。

ネットなど見ていると、感染性胃腸炎がきちんと治ってない場合、慢性腸炎に移行するケースがあると見かけるのですが、これは感染をきっかけとした過敏性腸症候群とは別のものなのでしょうか?

また今回飲んでしまった便秘薬によって食後腹痛が続いていますが、刺激が強すぎて腸が荒れた状態なのでしょうか?
ミヤBMで便秘薬を飲む前の状態に(せめて)戻る可能性はありますでしょうか?
過敏性腸症候群とは本来腸が荒れた状態にあるものなのですか?

荒れた腸壁を修復するようなお薬はありますか?

質問ばかりしてしまい申し訳ありません!


by pekiko (2012-09-20 08:38) 

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