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慢性腎臓病(CKD)の治療による効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
CKDの治療介入.jpg
Annals of Internal Medicine誌に今年の4月に掲載された、
慢性腎臓病の検診及び治療の効果についての論文です。
これは治療方針の叩き台として、
アメリカの研究グループが、
これまでの知見を集計してまとめた、
レビュータイプの文献です。

CKDという言葉が、
一般向けの書籍や報道などでも、
使用される機会が最近増えています。

CKDはChronic Kidney Diseaseの略で、
要するに慢性腎臓病というくらいの意味合いです。

腎臓という臓器はソラマメのような形をして、
背中に近い位置に2つあり、
その主な働きは、
身体に不要な物質や老廃物を、
おしっことして体外に排泄すると共に、
身体の水分や電解質などの量を、
適切に調節することにあります。

この腎臓の働きは、
他の臓器と同じように、
年齢や、高血圧・糖尿病など他の病気の影響で、
次第に低下してゆきます。

この働きが高度に低下した状態が腎不全で、
こうなると身体は老廃物を排泄することが出来ないので、
そのままでは死に至ります。
そして、高度に進行した腎不全において、
死を回避する方法は、
腎移植を除けば、
透析により人工的に老廃物を除去するしかありません。

しかし、
透析の治療は患者さんにも大きな負担になりますし、
社会生活も大きく制限を受けると共に、
高額な医療費が掛かるために、
医療経済的にも大きな問題となっています。

特に日本においては、
超高齢化社会が目の前に迫っていて、
透析が必要となるような、
高度の腎不全の患者さんも急増が予想され、
社会保障制度の存続のためにも、
大きな問題の1つになることは避けられません。

CKDという概念自体はアメリカで始まったものですが、
より早期の段階で腎臓病の管理を行なうことにより、
透析が必要となるような患者さんの数を減らし、
医療費の削減を期待しようという考え方は、
現在の日本ではよりその意義が大きく、
事態はより切迫しているように思います。

こうした背景があるので、
報道などでもCKDの話題が、
しばしば取り上げられるようになりましたし、
僕のような末端の医者に対しても、
CKDを見落とさずに適切な管理を行ない、
一定以上進行した場合には、
速やかに専門医へ患者さんを取り次ぐように、
という指導が行われているのです。

CKDの概念は比較的シンプルです。

腎機能の低下は、
GFR(糸球体濾過量)という数値で表現され、
その数値が平均の体表面積当たり、
60ml/min という数値を切った状態が、
3ヶ月以上持続する場合に、
CKDがあると判断されます。

もう1つの要素はおしっこの所見で、
おしっこにアルブミンという蛋白が検出される状態が、
これも3ヶ月以上持続すれば、
GFRが60を超えていても、
CKDがあると診断されるのです。

CKDはその進行度によって、
1~5までのステージに分かれ、
概ねGFRの数値によって区分けされます。

1は90以上で、
2は60~89まで、
3は30~59で、
4は15~29、
そして5は腎不全でGFRは15未満となっています。

GFRは推算GFRとして、
血液のクレアチニンという数値から、
年齢と男女差のみから算定されます。

たとえば、
55歳の男性で血液のクレアチニンが1.5mg/dl の場合、
概算でeGFRは36.0ml/minとなり、
これは進行度ではCKDのステージ3になる、
という訳です。

こうした指標を導入する意味は、
ステージ3以下の進行度が比較的軽い状態で、
CKDを診断し、
その後の進行を遅らせて、
透析になるような事態を回避する方策を取る、
というところにあります。

それでは、
実際に腎機能をチェックする検診で、
その後の腎機能の低下が阻止されたり、
特定の治療により、
その後の患者さんの予後が改善する、
というようなデータが、
どの程度存在しているのでしょうか?

上記の論文は、
その点を検証したものです。

まず、検診で腎機能を測定することが、
その後の腎機能低下の進行を、
食い止めることに役立つかどうか、
と言う点については、
現時点でその効果を証明したような、
信頼性の高いデータは存在しません。

つまり、
検診の効果は未知数です。

次にCKDに対する治療で、
その有効性が確認されたものがあるかどうか、
と言う点についてですが、
現時点で比較的信頼の置ける、
臨床的なデータがあるのは、
ACE阻害剤とARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)と呼ばれる、
血圧の薬の効果と、
β遮断剤と呼ばれる薬の効果、
そしてスタチンと呼ばれるコレステロール降下剤の効果に、
ほぼ限定されています。

このうち、
ACE阻害剤というタイプの薬剤は、
最も有効性が高く、
偽薬と比較して、
ステージ3以下のCKDの患者さんが、
腎不全(通常終末期腎疾患という名称を用いています)
に進行するリスクを、
35%有意に低下されています。
また、おしっこにアルブミンが検出され、
心疾患の既往があったり、
糖尿病のある方に限定したデータでは、
死亡のリスクも21%低下させています。

ARBという現在最も広く使用されている、
血圧の薬では、
矢張り腎不全に進行するリスクを、
偽薬と比較して、
23%程度低下させています。

心不全のあるCKDの患者さんでは、
β遮断剤に一定の有効性があり、
コレステロールの高いCKDの患者さんでは、
スタチンというコレステロールを下げる薬に、
一定の有効性が認められます。

しかし、
現時点でしっかりとしたデータがあるのは、
概ねここまでです。

CKDでは日本でもガイドラインが発表され、
それに沿った治療と経過観察とが推奨されています。

ただ、
本当にそれに沿った治療をすることで、
腎不全の患者さんを減らすことが出来るのか、
と言う点については、
検診の有効性と共に、
まだ未知数の部分が多く残っており、
そうした点も踏まえながら、
個々の患者さんにとって、
最善の治療を目指して、
日々努力だけは続けてゆきたいと思います。

今日はCKDの治療介入の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

今野祥山

お心使いの記事には感謝いたします。この記事の例と同じステージ3と指摘されていますので、自分で出来る事の対策とその効果についてはおよその覚悟は出来たつもりです。
6ヵ月後の結果は未知数ですが御報告したいと思います。
定期検診を毎年受けていても、その結果に対する医師の忠告をいい加減に聞いていた事の始末は高く付きそうです。

by 今野祥山 (2012-07-06 11:34) 

fujiki

今野祥山さんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
by fujiki (2012-07-07 08:36) 

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