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「夕日観音」への道 [仏像]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日も診療所は休診です。
午前中は家でゆっくりして、
午後は妻の病院へ行く予定です。

一昨日から昨日一泊で奈良に行きました。
一泊の旅行は今年は初めてです。
(ちなみに2泊以上の旅行は、
10年以上したことがありません)

前日に不意に思い立ってJTBに行き、
奈良ホテルのシングルが空いていたので予約をしました。

行きは12時過ぎ東京発ののぞみです。

目的は「夕日観音」を拝観することです。
夕日観音様は奈良市の西方、
旧柳生街道の山道近くに彫り込まれた、
僕の信じる世界一の石仏で、
20年近く前に一度拝んだだけなのです。

京都から近鉄に乗り継いで、
近鉄奈良駅に着いたのが、
午後の4時前でした。
駅前でタクシーを拾い、
ホテルでチェックインを済ますと、
すぐにその足で、
柳生街道へと向かいました。

県道80号線に沿って、
奈良市内を東に向かいます。

ひたすらに2キロほど真っ直ぐの道を歩くと、
右手に新薬師寺への曲がり道の看板があり、
そこを更に進むと、
道はそのまま山道へと繋がります。
その山道に入ったのが、
5時頃のことでした。
春日山原生林.jpg
これがその山道です。
しめしめ、この調子なら、
夕日観音まで5時半には着けるぞ、
と思ってのんびりと山道の写真を撮りました。
その写真がこれです。

このような山道をずんずんと進みました。
ご高齢のハイカーの方が数人いましたが、
その人達を追い越すと、
その後は僕1人の世界です。

鼻歌混じりで山道を登りましたが、
行けども行けども石仏がありそうな気配はありません。
それどころか、道はゆっくりとカーブを切りながら、
上へ上へと山裾を登って行きます。

さすがにおかしいぞと思ったのは、
確実に1.5キロは登った時です。

そう言えば、20年前もこんな風に迷ったのです。
これは柳生街道ではなく、
春日山の原生林のハイキングコースだぞ、
とようやく気が付きました。

何処かで道を間違えたのです。

それで殆ど走るようにして道を引き返し、
山道の入り口に戻りました。

もう1本更に南寄りの道を東に辿ると、
とても良い雰囲気の住宅街があって、
そこからそのまま街外れで山道に繋がります。

こちらが本物の柳生街道でした。
鬱蒼とした山林に昼尚暗く、
(実際にはもう夕暮れでしたが)
そこにゴツゴツとした石畳の古道が姿を現わします。
それがこちら。
柳生街道の石畳.jpg
趣があるでしょ。
これでなくてはいけません。
ただ、この時点でもう6時になろうというところです。

それからまたひたすらに石畳を進みます。

20年前には結構スイスイと登った記憶があるのですが、
どうもその時とは勝手が違います。
もう24時間は雨は降っていない筈なのに、
土は湿り気を帯び、
所々はぬかるみになっています。
ゴツゴツとした石畳には何度も足を取られます。

それで30分くらい登ると死にそうになりましたが、
それでもまだ夕日観音には辿り着きません。

もう今日は帰ろうかな、と思い掛けた時、
最初の石仏の標識が現われました。
「寝仏(ねぼとけ)」です。
それがこちら。
寝仏.jpg
街道の左側の方に、
大きな石が転がっています。
赤い矢印の先に、
彫り込まれた石仏のお顔が見えます。
左を上にして横になっているのです。
大日如来だとされています。
元々は岩盤に縦に彫られていたのが、
岩が崩れ落ちて、
このように横になってしまったのです。

ここから夕日観音までは僅かの距離の筈です。

希望に燃え、更に山を登りました。

すると…

「夕日観音」と書かれた標識が、
道の左手に現われます。

左手には大きな岩山が、
苔や木々に埋もれるようにして、
そそり立っています。

夕日観音遠景1.jpg
その岩山の全景がこちら。

夕日観音様が何処にいらっしゃるか分かりますか?

容易には分かりません。

その上、幾つかのトラップがあります。

実はこの岩山の中腹に、
別の2種類の石仏が彫り込まれていて、
人間の目の特性からして、
そちらの方がまず目に入るように出来ているのです。
その別の石仏の表示は何もないのですから、
これは非常に意地悪なのです。

その1つ目がこちら。
四方仏.jpg
これが岩山正面の中腹です。
矢印の先にお顔があるのが分かりますか?
地蔵菩薩のお顔です。
室町時代前期の作と言われていて、
その両側に阿弥陀如来と釈迦如来と薬師如来とが刻まれていて、
さっきの寝仏は、この石仏群から転がり落ちた、
と考えられています。
つまり、大日如来に阿弥陀如来、釈迦如来に薬師如来、
地蔵菩薩が同時に並んでいる訳で、
辻褄は合わない気がしますが、
民間の信仰の1つの形態を表すと考えられています。
まあ、これだけ揃えば何でもありです。
これを「四方仏」と呼びますが、
写真では地蔵菩薩様しか分かりませんね。
肉眼でも、辛うじて見えるかどうか、という程度です。

撮影の問題なのかも知れませんが、
後から見ると、菩薩様の上に、
精霊のような物が映っているようにも見えます。

さて、トラップはこれだけではなく、
この岩山の横手には、
更にもう1体の仏様が刻まれています。

これはまず解説書の写真をお見せしましょう。

地蔵磨崖仏写真.jpg
なかなか見事な地蔵菩薩様の造形です。
街道から最も良く見える石仏と書かれています。

では、実際はどうだったのでしょうか?

地蔵磨崖仏1.jpg

これが実際の写真です。
何処に地蔵菩薩様がおられるのか、
分かりますか?

僕は初日の夕暮れには分からず、
翌日の朝に再度訪れて、
その時にようやく分かりました。
次をご覧下さい。
地蔵磨崖仏2.jpg
矢印の先にあるのが、地蔵菩薩様のお顔です。
これは位置的にこれ以上近づけないのです。
平成4年頃に石仏巡りをされた方が、
サイトに写真を出されていて、
非常にクリアに撮れているので、
その頃にはもっと周囲が奇麗だったものと思われます。
現在は草が周囲を覆っていて、
そのお姿は、半分以上草の中に隠れているのです。

このような石仏はおそらく、
この周辺にはもっと多く存在する筈で、
人間の目からは隠されているのです。
この地蔵菩薩様も、
長く苔と雑草の中に埋もれていたのを、
昭和40年代に清掃されて、その姿を現わしたのです。
それがまた、静かに自然の風景の中に消えつつあります。

さて、それでは夕日観音様が何処におられるのかを、
見て頂きます。

夕日観音遠景2.jpg
矢印の先に本当に夕日の中、
金色に輝いているのです。

見付けた時は何と言うか、
本当に心が震えました。

それから道のない岩山を10メートル以上よじ登り、
夕日観音様の間近に立ちました。

勿体ぶる訳ではありませんが、
そのお姿を明日はたっぷりとお見せします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 4

yuuri37

お帰りなさい。足の調子はいかがですか、心配です。

今日、私はお休みなので、家族でのんびりしています。
リビングでノートPCを開いて、先生の記事を見ていると、
ちょっと、入れ込み過ぎて、感情移入し過ぎて・・・
息子に「ママ、どうしてその山が悲しいの?」
「悲しいんじゃないよ」
「じゃあ、何で泣いてるの?」
「泣いてるんでもないんだなあ・・・ママは、このお写真をとってきた人と一緒にこの山に行った気分になっちゃって、心が震えちゃったんだよ」
「変なの・・・」
「そうだね、ママは変かも」

石原先生、ありがとうございました。
明日を楽しみにしています。


by yuuri37 (2010-08-15 11:44) 

a-silk

お久しぶりです。
木の幹の右手の観音様、すぐに姿がわかりました。

ここは思い出の場所でしたね?
「本当に重要な何かを、」観音様は教えてくれましたか?
石原先生を恨めしそうに見た、運命の方の回復を、心から祈るばかりです。

by a-silk (2010-08-15 21:36) 

fujiki

yuuri37 さんへ
熟読ありがとうございます。
写真は一杯撮って来たので、
気に入って頂けると嬉しいのですが。
by fujiki (2010-08-15 22:14) 

fujiki

a-silk さんへ
コメントありがとうございます。
僕にもお母様の健康を祈念させて下さい。
by fujiki (2010-08-15 22:17) 

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