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向精神薬を制限すれば自殺が減るのか? [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から色々とやることがあるのですが、
何となくやる気が出ず、
いつもより早くPCに向かっています。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻ります。

サッカーは惜しかったですね。
僕は前半だけ見て、後は録画して寝ました。
相手はオランダと同じくらいは強そうでしたから、
順当な結果だったのだと思います。
でも、今回の日本は抜群に良いチームだったと、
素人ながらに思ったので、
もっと試合を見たかったですね。

余談はこれくらいで今日の話題です。

まず、昨日こんなニュースがありました。

【向精神薬過量服薬対策、厚労省が表明 省内にPT】
医療機関で処方された向精神薬を飲んで自殺を図る人が増えている問題で、厚労相は29日、向精神薬の過量服薬による自殺や自殺未遂を防ぐ対策づくりに乗り出すことを表明した。(中略)具体的には、1回の処方量を14日までに限定していた向精神薬の一部が08年度の診療報酬改定で30日分に緩和されたことについて、患者が薬をため込みやすくなったとの指摘があり、この措置の見直しなどが課題となりそうだ。

2日前の記事で指摘した事項が、
検討の運びになるようです。
多分ぶら下がりで担当者から聞いた情報なのでしょうから、
プロジェクトチームを立ち上げる、
というのは名ばかりで、
どうするかの青写真は、
もう既に出来ているのでしょう。

一昨日にはそんな報道は何処にもなかったのですから、
結構僕も先見の明があるでしょ。

すいません。
ちょっと自慢でした。
嫌らしいですね。
忘れて下さい。

さて…

先週の報道は馬鹿で無知な末端の医者が、
無駄に多くの薬を出して、
患者さんの自殺を後押ししている、
という「医者=悪」という図式一色だったのですから、
処方の規則の問題へと、
ちょっとニュアンスが変化した訳です。

この見直しが速やかに行なわれるとすれば、
それ自体は望ましいことだと思います。

ただ、色々と問題はあります。

まず、診療報酬の改定の責任の問題です。

僕は2年前の当初から、
睡眠剤の処方の14日以内という制限の撤廃に、
絶対反対の立場でした。

その点については記事を書きました。
それがこちらです。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-05-08
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-05-09
まだあまり読者のいない頃だったので、
ちょっと文章が過激に流れて、
やや下品な文面になっていることをお許し下さい。

しかし、僕が記事を書いたその時点で、
「この制限撤廃はおかしい」というような声があったでしょうか?

調べて頂ければ分かりますが、
メディアの報道を含めて、
皆無だったと思います。
むしろ、わざわざ睡眠剤の処方のために受診回数が増えずに済み、
利便性が増した、というような意見が見られました。

この方針は行政が決めたのです。

この方針を提示した責任者は存在する筈ですし、
その方針に賛成した専門の委員もいる筈です。
議事録だって、残っている筈です。

仮にこの記事が示唆するように、
睡眠剤の処方制限が撤廃され、
一度に30日分の処方が可能となることにより、
「患者が薬をため込みやすく」なり、
そのことによって自殺者が増えたのだとすれば、
その責任は多くを行政が負う、
ということになる筈です。

しかし、そうしたお詫びの言葉が、
何処かに聞かれるでしょうか?

記事にあるのは「薬漬けの医療が悪い」
「無知で金儲け主義の医者が悪い」
といったニュアンスの言葉だけです。
メディアも医者は散々に非難しても、
行政の方針はその責任には、
全くその矛先を向けようとはしません。

こんな馬鹿なことがあるでしょうか?

「向精神薬の過量服薬」という言い方も、
はなはだ不正確で疑問です。
確かに先週発表された、
向精神薬の調査の結果が、
この行政の動きに繋がっているのでしょうが、
2日前の記事で説明しましたように、
向精神薬というのは極めて曖昧な分類で、
多くの矛盾を孕んでいます。

現状過量服薬で主に問題になるのは、
抗うつ剤と睡眠導入剤、抗不安薬と抗精神病薬、
そして抗痙攣剤というところだと思いますが、
このうち向精神薬という法律上の区分に含まれるのは、
睡眠導入剤と抗不安薬の一部だけです。

従って、「向精神薬の過量服薬」などという言い回しは誤解の元です。
処方制限の議論をするのであれば、
過量服薬の原因となり易い、
薬剤全体をその対象とするべきです。

そして、僕が最も言いたいことは、
処方制限を元に戻したとしても、
それで自殺者が減ったり、
患者さんの過量服薬が減ったりすることは、
絶対ないだろう、ということです。

こう言うと、
それでは何故お前は、
睡眠導入剤の処方を制限するべきだと思うんだ?
という疑問を持たれるかも知れません。

それは、睡眠導入剤は依存性のある薬であり、
その使用は必要最小限度の期間に留めるべきだ、
と思うからです。
こうした薬剤は勿論ご病気によっては、
数年に渡る使用が必要となることもあります。
しかし、最初から30日分の処方を出し、
30日は自由に飲んで良いですよ、
というような処方をするべき薬剤ではありません。
処方医のそうしたメッセージとして、
こうした薬剤は14日以内の処方に留めるべきなのです。

依存性があるから短期間の処方にするべきなのであって、
自殺の道具に使われるからそうするべきだ、
ということではありません。

そもそも上の記事の前提は何でしょうか?

最近過量服薬による自殺や自殺未遂が増えている、
という見解です。

その見解の根拠は何でしょうか?

それは2日前の記事でご紹介した、
厚労省の研究班の報告です。
ただ、その報告というのは、
76人の自殺者の遺族への調査で、
そのうちの半数が精神科などを受診し、
更に受診した方の57.8%が自殺時に、
向精神薬などを過剰に服用していた、
というデータです。

非常に曖昧な書き方ですが、
逆算すると調査した76名のうち、
半数の38名が精神科などの通院歴があり、
そのうちの22名が何らかの過量服薬があった、
ということのようです。
ただ、その中には薬を飲んだ後で頚を吊ったり飛び降りたりした、
というような事例があることにも注意が必要です。

このデータだけを元にして、
どうして最近向精神薬の過量服薬による、
自殺が増えている、などという結論になるのでしょうか?

そんなことが言える訳がありません。

過量服薬というのは問題行動の一種で、
リストカットなどと関連の深い、特殊な行動様式です。
その中には勿論自殺を目的として、
つまり命を絶つことを目的として、
そのための道具として多量の薬を使用する場合もありますが、
むしろそれは少数でしょう。
大半は衝動的な行為であるか、
溜まったストレスをある意味放出する行為です。
自殺の前に薬を飲むケースもありますが、
それはお酒を飲むのと似通った、
精神状態を変容させようとする行為で、
薬がその場にあったから使用しただけのことで、
なければお酒を飲んでも、
同じ行為に及んだ筈です。

自殺と何かとの関連性を見るとすれば、
睡眠剤の処方がそれほど大きなファクターであるとは思えません。
それを言うなら不景気や派遣切りのような社会状況の方が、
遥かに大きな比重を占めるでしょう。

問題は中に自殺を決意し、
それからその道具として、薬剤を求め、
そのために医療機関を受診する、
という意図的な受診行為が存在することです。

そうした患者さんに不用意に多くの処方をしない、
というのは非常に重要なことです。

しかし、それは過量服薬の一面であるに過ぎません。

過量服薬=自殺であり、処方を減らせば自殺も減る、
というような考え方で対策を立てることは、
僕は物事の本質を誤るものだ、
と思うのです。

薬は自殺の道具の1つに過ぎません。
トイレの洗浄剤の販売を制限すれば、
確かにそれを使った硫化水素による自殺は減るでしょうが、
自殺全体には何の影響もないのと一緒です。

確かに未熟な医者が不用意な処方をしたり、
無駄な処方をしたり、
薬の副作用で却って患者さんを苦しめることはあるでしょう。
しかし、そうした医者も、
金儲けのためだけに薬を出したのではなく、
患者さんに資するだろう、という思いがあったから出したのです。
それは皆さんにも是非信じて頂きたいと思います。
最近の報道の論調では、
あたかも医者が向精神薬を処方したために、
自殺が増えているのだと言わんばかりです。

しかし、それはあんまりではないでしょうか?

医者も行政も患者さんもそれ以外の皆さんも、
自殺を減らしたいという思いだけは一緒の筈です。
一緒の思いがあるなら同じスタートラインに立って、
同じ目標に向かっての議論が出来る筈です。

メディアの役割は悪党のレッテルを貼り、
そいつを袋叩きにすることだけではない筈です。

上の記事にある、
「患者が薬をため込みやすくなる」
という表現はどうでしょうか?

如何にも患者さんを信用しない、
という嫌な言い回しですよね。
人間を信用しないところに、
自殺を減らすような対策が生まれるのでしょうか?
そんなことは決してないと僕は思います。

過量服薬の全てが、
自殺に結び付くものではありません。

それでは過量服薬をどのように考え、
どのように対応するべきなのでしょうか?

大変難しい問題ですが、
明日はその点について、
僕なりに格闘したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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スマイル

おはようございます
サッカーがんばってくれましたね。日本中が一つになり
喜びを共有出来ました。それは、サムライジャパンが良いチーム
だったからですね。久々に明るいニュースで嬉しい悲鳴でした。

私も、鬱の診断を受けて、お薬をいただいたことがあります。その頃丁度NHKで薬の弊害についての報道があり、薬は服用しませんでした。なんでも最近は、鬱と診断がくだり、余分な薬な薬が出されているのも事実だと思います。もちろんお医者様は患者の為と思っておやりになってるのは、私の主治医に関しては間違いないと思います。しかしお薬をいただくほどでもなかったかなと思います。しばらく通院して状況をお話すると、明らかに先生は、過大にご心配になり、その状況だと衝動的に自殺をする人がいるんだよ。だから抑える薬をだそうと・・・私は、そこまで重傷ではないことを自分で自覚していましたので、先生を大丈夫かと思ってしまいました。その病院は内科です。近くてお世話になっているものですから、軽い気持ち伺いました。その後専門の心療内科に行きましたら、まずはカウンセリングを受けながら、様子を見て診察、薬のことも考えようと。そしてカウンセリングを受けましたが、実に冷静な対応で眠れなくても、他に支障がないなら、睡眠薬に頼らず、本来の人間の要求に任せようよと。眠くなるまでまてばいいという姿勢でした。重傷の方には、こうはいかないのでしょうけれど。後者は個人にあった診療ができるところなのではと思いました。薬は一切使用せず、考え方を変えるだけで取り越し苦労、私はまともと気がつくことができました。前者は病気を大げさに自覚させられ、さらに深刻化の一途をたどらされたなという感想を持ちました。TVでも薬が悪く働き8年も苦しんだ方などの例がいくつか紹介されていました。ブログの方のお薬のお話も、素人で危険な考えかもしれませんが、本当にそのお薬や診断は大丈夫なの?と思ってしまいます。ピントがずれていたら申し訳ありませんが、そうような事があったことを記させていただきました。
by スマイル (2010-06-30 09:19) 

スマイル

※誤字脱字あり、ごめんなさい☆
by スマイル (2010-06-30 09:22) 

yuuri37

先生は、すごい。
今朝、出勤すると、上司からスットップがかかり、血液検査をすることになりました。上司も昨夜勉強してくれたみたいで・・・
マイコプラズマ抗体価・百日咳菌抗体価を測定。なんとマイコプラズマが陽性判定でしたよ~~ん。
上は大騒ぎでした。(あ、まずいかな!?最近、色々いじめられていて)
先生のブログを呼んで、マイコプラズマに関する知識を得ることができて、集団感染を防ぐことができました。ありがとうございます。なれと思い込みは怖いですね。
内科のアドバイスで、ジスロマップを1日2錠ではなく、朝晩、1錠ずつ
4日間と変更しました。苦しいほどの咳ではないので、薬の追加はなく、後は我々の処方通りでいいとのこと。出停ダヨ~~~~~ルンルン
v^^v(あ、これも言ってはマズイ!?)神様のプレゼントなり
家族は、これから全滅になるかも・・・なぜか息子ではなく、夫が咳をしていました。恐縮ですが、何かアドバイスがありましたらよろしく!!
by yuuri37 (2010-06-30 15:11) 

もも

私は当事者なんですが、初発から考えると
「マイスリ―」を処方して戴くために、わざわざ
通院していた時代があります。
今は体調が安定していれば、3週間分「アモバン・レンドルミン」
処方してもらっています。ただし、「ワイパックス」に関しては、
頓服10回分しかしてもらえません。定時のワイパは同様に3週間
処方です。
法律があれこれ施行しても、薬をため込んでしまう患者もいるでしょうし
それ自体が病的な症状なのですから、難しい問題ですね・・・
by もも (2010-07-01 08:03) 

fujiki

スマイルさんへ
コメントありがとうございます。

難しい問題ですね。
NHKの番組はかなり一方的な内容で、
それでいて影響力が極めて強く、
非常な無力感に囚われます。
視聴料など払うのは、
直ちに止めたいのですが、
オペラの中継は見たいし、
そんなものを一緒くたにしているのはずるいな、
といつも思います。
by fujiki (2010-07-01 09:10) 

fujiki

yuuri37 さんへ
勿論検査をした方がより良いのですが、
ご主人は抗生剤を早めに飲んでも、
悪くはないと思います。
ゆっくりお休みが出来ればいいですね。
by fujiki (2010-07-01 09:13) 

midori

少しずれたコメントで恐縮ですけど,
薬を貯められるってことは飲まなくても済む日があるということだから,
それはそれでなんとなくうらやましい気もします.


by midori (2010-07-01 10:33) 

fujiki

ももさんへ
コメントありがとうございます。

記事のニュアンスから言うと、
アモバン、レンドルミンは、
2週間処方に戻る形になるかも知れません。
by fujiki (2010-07-01 14:57) 

fujiki

midori さんへ
過量服薬がある種の目的化すると、
殆ど飲まないでためているような方もいます。
本来は改善して薬なしでも問題がなくなっているのですから、
本末転倒にも思えるのですが、
多分無意識に治ることを拒絶する心理と、
何処かで結び付いているのかも知れません。
by fujiki (2010-07-01 15:00) 

Liz

わたしは現在, 昼はレキソタン5mg錠を半分に割り=1/2錠服用し、
様子をみて,場合により残りの1/2錠を服用いたしますよ。

夜の処方は、マイスリー1錠 & レンドルミン2錠ですが、
ベッドに入って2・3時間経っても眠れない場合に限り
マイスリー1錠 & レンドルミン1錠だけ服用するか、若しくは
レンドルミンを半分に割り1/2錠にして服用 or マイスリー1錠だけの
時もあります。

しかし、最近は横になれば自然に寝れる日が殆どです。

基本的に14日処方ですが、次回の診療予約は3週間後です。

以前に診療を受けていた,大学病院付属の投薬クリニックに比べ、
現在の方が精神的には大分楽になりました。
ちなみに、その(大学病院付属)クリニックの場合、
主治医が居る場合に限り診療なしでも処方箋を貰うことが可能でした。

何よりも『抗精神薬』の依存性を身をもって知るきっかけと
なりましたから、結果的には良かったと思ってます。
by Liz (2010-07-01 19:15) 

fujiki

Liz さんへ
コメントありがとうございます。

矢張り安易に処方を増やしてはいけないのだ、
ということは最近痛感しています。
by fujiki (2010-07-02 08:28) 

精神医学=犯罪者集団

言い訳すんなよ悪徳 ビジネスマンが


てめぇら 医者の名を騙る 薬物中毒生産機じゃねぇか
by 精神医学=犯罪者集団 (2010-07-04 04:00) 

fujiki

精神医学=犯罪者集団さんへ
御一読ありがとうございます。

改めて読み直してみますと、
そういう意図はなかったのですが、
全体に医者を擁護しているようなニュアンスが、
感じられるようにも思えます。

もしお薬で体調を崩し、
当該記事をお読みになり、
ご不快に思われたのでしたら、
大変申し訳なく思います。

行政の対応とその無責任さに、
憤る気持ちがあったのですが、
その思いが上滑りしてしまったのかも知れません。

もっと真意をご理解して頂けるような記事を書けるように、
精進したいと思います。
by fujiki (2010-07-04 05:42) 

fujiki

Liz さんへ
おはようございます。
朝は5時半起きなので、
夜は本当は10時は寝るのが理想なのですが、
11時を過ぎると翌日はきついです。

by fujiki (2010-07-04 09:00) 

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