寺山演劇の方法論 [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
さっき家に火災報知器を付けに業者の方が来て、
午後はワーグナーの「神々の黄昏」を聴きに行きます。
ごめんなさい。
今日はちょっと遊ばせて下さい。
さて、上のチラシは先週上演された、
寺山修司の「盲人書簡」です。
勿論寺山修司は亡くなっているので、
彼の残した戯曲を、
彼の戯曲を連続上演している、
「演劇集団池の下」という若手の劇団が、
改めて上演したものです。
寺山戯曲の上演は、
彼の劇団「天井桟敷」で演出助手や音楽を長く勤めていた、
J・Aシーザーが主催する、
「万有引力」が主に行なっていて、
他に彼の生前から交流のあった、高取英や、
共同台本を書いていた、
岸田理生らが絡む、というのが多いパターンです。
僕はまだ寺山の生前に、
岸田理生の演出した舞台を観ましたが、
それはほぼ寺山演出のコピーに近いものでした。
また、寺山没後すぐに、
結成された「万有引力」の旗揚げ公演も実見しましたが、
この公演は新高恵子や若松武ら数名が抜けただけで、
ほぼ天井桟敷のそのままのメンバーの公演だったにも拘らず、
明らかに寺山生前とは違う、
緊張感の乏しい舞台で、
非常に失望を感じたのを覚えています。
つまり、様式のコピーをしても意味がなく、
寺山演劇の本質は、
その様式を何処まで徹底出来るかという、
ある種の忍耐力にこそあるのです。
寺山演劇の表も裏も知り抜いている、
J・Aシーザーという存在が、
却って寺山演劇の「形」だけを現在に伝え、
その精神の部分が欠落しているように、
僕には思えてなりません。
僕はそれでも何度かは万有引力の公演に足を運び、
との都度失望を味わい、
それでも寺山演劇はもう、
大袈裟に言えばそれだけ存在すれば、
食事もしなくても充分生きていける、
というくらいに好きな世界でもあるので、
どうしても騙されて時々は、
無理しても見に行ってしまいます。
今回の池の下の公演は、
彼らが寺山戯曲の連続上演を続けていて、
それなりに評価を受けている、
ということもあったので、
今回は無理して先週足を運びました。
結果は正直、またちょっと騙されたな、
という感じで、万有引力の役者さんが、
出演していることでも分かるように、
「万有引力」系列の「在りし日の寺山演出」の、
かなり劣化したクローンというイメージでした。
「盲人書簡」という戯曲は、
舞台と客席が「完全な闇」に包まれ、
上演時間の半分以上は常に闇の中で進行します。
寺山による初演時には、
舞台の後半で観客に3本のマッチが配られ、
観客に見る場面を選ぶ、
という趣向が凝らされました。
それで暗闇の場面でマッチをする観客というのも、
実際にはいなかった、と思いますが、
こうしたちょっとワクワクする趣向が、
寺山修司の大きな魅力です。
今回の上演では、
マッチは配られませんでした。
これがまず駄目ですね。
消防法とか、色々とハードルはあるのでしょうが、
イミテーションでもマッチは配らなければ、
この作品を上演する意味がありません。
また、完全な闇が劇場内に出現しなければ、
この戯曲は意味がないのですが、
この点も今回の上演は不徹底で、
場内は暗くはなりましたが、
肝心の舞台上に、
役者の目印のための蛍光テープが残っていて、
それが発光してしまうのです。
これでは何のためにこの芝居をやっているのか分かりません。
寺山修司が終生拘ったのが、
「完全暗転」で、
これは劇場内が完全な暗闇になるものです。
僕は天井桟敷の「レミング」以来、
一度も「完全暗転」を体験したことはありません。
万有引力の公演でも、
必ず何処かに光の洩れが残り、
完全な闇は実現しません。
でも僕の意見ではこの「完全暗転」こそ、
寺山演出の本質の1つであって、
それがない上演は、
「寺山修司作」という名を冠するには当たらない、
というように思えるのです。
僕の考えでは、
もっと別の演出が寺山戯曲にはある筈で、
「演技している瞬間以外の役者の人間性を見せない」
「完全暗転を実現する」
というポイントさえ守れば、
他の要素は幾らでも変更可能だと思います。
それがなかなか達成出来ずに、
中途半端な天井桟敷のコピーもどきになるのは、
天井桟敷の残党の良からぬ影響が、
あるのではないかな、という気がします。
僕はでもまたそのうち騙されて見に行くのかな、
という気はします。
好きなんだから、仕方はないですね。
でも、誰か完全暗転を実現して下さい。
それからカーテンの仕掛け付きの、
「疫病流行記」や、
マッチを配って、見る場面を選ばせる、
「盲人書簡」もね。
如何なる犠牲を払っても観に行きます。
本当にワクワクする趣向が再現されない、
というのが残念でならないのです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2010-03-21 11:49
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