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アバンディアとアクトスを巡るあれこれ [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

数日前に、こんなニュースがありました。

【米上院委員会、糖尿病治療薬の安全性を問題視】米上院金融委員会は20日発表した報告書で製薬大手グラクソ・スミスクラインが糖尿病治療薬「アバンディア」が心臓発作のリスクを高めることを知りながら長年情報を開示していなかったと指摘した。報告書は334ページあり、同薬品の安全性に関する懸念を見逃したとして、米食品医薬品局(FDA)の監督責任にも言及している。

皆さんはこの記事を読まれて、
どういう感想を持たれますか?

グラクソ社と言えば、
インフルエンザの治療薬のリレンザや、
喘息の吸入薬のフルタイド、
子宮頸癌予防ワクチンとされるサーバリックスなどで、
皆さんにもお馴染みの、
世界有数の製薬大企業で、
その本社はイギリスにあります。

この企業が発売した糖尿病の治療薬に、
心臓発作を起こす、という副作用があるにも関わらず、
そのリスクを国民に開示せず、
危険を放置した、というニュアンスです。

これが本当なら非常な問題であり、
「やれやれ、矢張り製薬会社というのは、
利益優先で安全をないがしろにする、
悪い体質を持っているのだな」
と思われるかも知れません。

確かにそうかも知れませんが、
ことはそれほど単純ではありません。

アバンディア(Avandia )という薬には、
色々といわくがあります。

この薬はインスリンの効きを良くする、
という新しいタイプの糖尿病の薬として、
1999年頃に登場しました。

発売当初から、この薬には、
心不全の患者さんには、使用するべきではない、
との注意書きがありました。

その理由を簡単に言えば、
この薬には塩分を、
身体に溜め込ませるような作用があるので、
塩分が過剰になる心不全のような状態では、
その心臓に更に負担を掛け、
心不全を悪化させる可能性があるのです。

ただ、心臓に問題のない患者さんにとっては、
問題のない薬である筈でした。

ところが…

2007年の5月にアメリカの医学誌、
New England Journal of Medicine 誌に、
アメリカの研究者の報告として、
これまでの42の大規模臨床試験の結果を解析したところ、
アバンディアを使用している患者さんの方が、
心筋梗塞のリスクが43%、心臓の病気で死ぬリスクも、
64%上昇する、という驚くべき結果が発表されたのです。

この報告によりアメリカ全土で騒ぎが起こり、
グラクソ社の株価は急激に下落しました。

すると、今度は矢張りアメリカの別の研究者が、
同年の9月に、同様の研究を発表。
これはイギリスの医学誌、Lancet に発表されます。

今度は元になるデータは若干異なるのですが、
同様の検討で、心不全のリスクは増加させたものの、
心臓の病気で死ぬリスクは増加しない、
という正反対に近い結論が出たのです。

そうした結果も受け、
FDAは条件付きでアバンディアの販売を継続。

世界的な糖尿病治療のガイドラインにおいても、
アバンディアは推奨すべき薬剤として、
その評価は維持されていました。

そんな中で今回の報道です。

CNNの報道を読む限り、
別に新たな研究結果が発表された、
というような性質のものではないようです。

グラクソ社が悪さをして、
国民の健康に悪影響を与えているのでは、
という予断の下に、
政治家が調査を行ない、
その結果として、
グラクソ社がこの薬についての、
全ての不都合な結果を、
適正に公表せず、
結果として国民を騙していたのでは、
という報告書を公表したのです。

その中には、明らかに代替薬である、
アクトスという薬の方が、
心臓死のリスクが低いのにも関わらず、
その結果を無視して危険な薬を承認し続けた、
というニュアンスも記載されています。

このアクトスというのは武田薬品の薬です。

同様のメカニズムを持つインスリンの効きを良くする薬には、
グラクソ社のアバンディアと、武田のアクトスの2種類があり、
アメリカではその両者がFDAで認可されていて、
日本ではアクトスのみが使用されています。

グラクソ社の見解としては、
両者のリスクは同じである、との立場なのに対して、
心不全のリスクは同じでも、
心臓死のリスクはアクトスの方が低いのでは、
という立場もある訳です。
当然のことですが、
日本の研究者は概ねそうした立場に立っていて、
今回の政治家の報告書も、
同じ立場に立っているのです。

これだけ考えると、
武田薬品の追い風になるような話に思われそうですが、
おそらくもうアメリカでは、
アクトスのジェネリックが登場する頃合いで、
そうなれば、ジェネリックの売り上げが9割のアメリカですから、
実際に利益を得るのは、
アクトスのジェネリックを販売する企業、
ということになる仕掛けです。
それがおそらくアメリカの国内企業なのでしょう。

トヨタいじめでも分かるように、
アメリカの現在のこうした政治圧力が、
とても公正中立なものとは思えませんから、
このアバンディアの一件も、
僕はおそらく裏のある話なのではないかと推察します。

何も信用の出来ない、
嫌な世の中になったものですね。

グラクソ社というのは、
アメリカにとってはトヨタのように、
なぶり者にしたい相手であるからです。

表面的に奇麗事を並べる、
アメリカや日本のような国より、
自らのエゴだけを貪欲に主張する何処かの国の方が、
むしろ清々しく思えてしまうのが、
本当に嫌になるところです。

明日は日本で発売されているアバンディアの代替薬、
アクトスのことについてまとめてみたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

kakasisannpo

実際のデーターよりも、自国の利益を優先にする政治家達を見ていると、日本の地方を擁護して、日本全体の利益を見ない政治家が多いのには、うんざりしますね

by kakasisannpo (2010-03-01 12:26) 

永遠の通りすがり

ご連絡
すみません。連絡の取りようがありませんので、このような形で。
用件が伝われば、削除して下さって結構です。

「出さない」ではなく、
「出せない」です。

どうも、この表現が周りの誤解を招いているようで。
by 永遠の通りすがり (2010-03-01 20:57) 

一歩前進

グラクソはパキシルでの酷い印象が強いので、
製薬企業としての存在意義を疑わしく考えますが、
これはちょっと・・・。
アメリカの保護貿易主義の露骨さだけではなく
拝金主義で自滅したことを、国民全体で反省していない
ことを象徴していると感じました。
問題を誰か自分以外の責任に転嫁してしまうほど
楽で恐ろしいことはないと自戒したいです。

by 一歩前進 (2010-03-01 22:25) 

fujiki

kakasisannpo さんへ
コメントありがとうございます。

アメリカと日本が今は政治が悪い双璧かな、
という気がしますね。
子供が使い道の分からないピストルを持って、
騒いでいるようです。
暴発しないように、
無力な僕達は祈るしかありません。

by fujiki (2010-03-01 22:57) 

fujiki

永遠の通りすがりさんへ

また明日電話します。

by fujiki (2010-03-01 22:58) 

fujiki

一歩前進さんへ
コメントありがとうございます。

何をいまさら、の感じの内容なので、
どうも意図的なものを感じてしまいます。
「リベラル」というのは非常に曲者ですね。
トヨタもそうですが、前政権と仲良しだったものを、
並べて吊るし挙げよう、ということなのかな、
と思います。
まあ、日本も同じですね。
もう少し建設的であって欲しいものです。
by fujiki (2010-03-01 23:03) 

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