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リポ蛋白分画と悪玉コレステロールの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

今日は以前取り上げた、
「悪玉コレステロール」とは何か?
という記事の続編のような話です。

悪玉コレステロールと善玉コレステロール、
という言葉がありますね。

その実体は果たして何でしょうか?

コレステロールというのは、
人間の身体の細胞の膜に存在する脂ですが、
それが血液の中を移動するには、
アポ蛋白という蛋白質と、
一体になって存在する必要があります。
血液は水ですから、
脂がそのままでいれば、
「水と油」で分離してしまうからです。
また、人間の身体にあるもう1種類の脂である、
中性脂肪も、同じようにアポ蛋白と一緒に存在しています。
つまりコレステロールと中性脂肪と、
アポ蛋白という蛋白質が一体となった塊が、
血液の中を常に運ばれているのです。

この塊のことを、リポ蛋白、と呼んでいます。

リポ蛋白には、幾つかの種類があります。

大雑把に言うと、
肝臓で作られた大きさの割に軽いリポ蛋白が、
血液の中で分解されて、
より小さく重いリポ蛋白に変化します。

この重さの順に、リポ蛋白を分類すると、
一番軽いのがVLDL(very low density lipoprotein)で、
次がLDL(low density lipoprotein)、
そして、一番重いのが、
HDL(high density lipoprotein)です。

そして、LDL に含まれるコレステロールを、
悪玉コレステロールと呼び、
HDL に含まれるコレステロールを、
善玉コレステロールと呼んでいます。

これを実際に測ってみると、次のようになります。



これは診療所の患者さんで、
リポ蛋白の分画を測定したものです。
リポ蛋白を分離する最も正確な測定法とされているのは、
「超遠心法」と呼ばれる方法です。
元々この分類は、比重で分けたものなのですから、
そうするのが理に適っています。
ただ、実際にはこの方法は時間が掛かり、
血液の量も沢山必要なので、
現在殆ど行なわれていません。

その代わりに施行されているのが、
「電気泳動法」と呼ばれている方法で、
これは比重の代わりに、
リポ蛋白の組成の差に基く、
その電気的な性質の違いで、
似通った分類をする、
という方法です。

この図はその「電気泳動法」による、
リポ蛋白の分類です。
これはほぼ正常のパターンを示しています。

向かって左側の山が、HDL を示し、
真ん中がLDLで、その右側がVLDLです。

見て頂くと分かるように、
HDL は明瞭に1つの山として区分出来ますが、
LDL とVLDL は、くっつくようにして存在しています。
つまり一部は一体化しているように見え、
はっきりは区分されていません。

では次をご覧下さい。

これは糖尿病の患者さんの、
リポ蛋白の分画を測定したものです。

この方はコレステロールの値自体は、
正常の範囲に入っています。
しかし、そのリポ蛋白のパターンは違います。
LDL の山とVLDL の山が、
くっついたようになっていて、
その中央に広がりが見えます。

これはLDL とVLDL の中間型とでも言うべき、
IDLというリポ蛋白が、
異常に多くなっていることを示しています。

正常の状態でも、IDL は存在するのですが、
中間型は速やかに分解され、
LDL になってしまうのです。
これが異常に多いという事実は、
リポ蛋白の分解が、
スムースに行なわれていない、
ということを示しています。
そして、分解されないリポ蛋白は変性して、
動脈硬化の原因となる、
と推測されています。

つまり、個々の数値を見ることより、
そのパターンを見ることの方が、
動脈硬化のリスクを見るには、
役立つ場合があるのです。

では次をご覧下さい。


この方は中性脂肪が1000を超える、
という脂質異常を持つ方です。
見て頂くと、リポ蛋白のパターンが、
正常と全く違っているのが、
お分かり頂けるかと思います。

まずVLDL が極端に高い山になり、
HDL がこれも極端に小さな山になっています。
そしてLDL ははっきりと2つの山に別れ、
IDL の山がはっきりと姿を現わしています。

中性脂肪が異常に上昇することで、
リポ蛋白のパターンが変化し、
動脈硬化の危険性が、
非常に高い状態になっているのです。

現在健診などで一般的に測られている、
LDL コレステロール、という検査は、
ある比重の範囲にあるリポ蛋白を、
その性質によって特殊な試薬で分離し、
その分離した中のコレステロールの量を、
測ったものです。

その数値を元に、
「あなたは悪玉コレステロールが高いので、
脳梗塞や心筋梗塞の危険性が高い」
などと指導がされているのです。

ただ、実際にはその理屈は、
あくまで正常のリポ蛋白のパターンを、
その裏付けとしています。

しかし、上の図で見て頂くと分かるように、
脂質異常症の状態では、
リポ蛋白の区分自体が変わってしまいます。
つまり、そうした方でLDL コレステロールを測っても、
実際に何を測っているのか、
良く分からない、ということになります。
元々のLDL という物自体が、
一定の比重の範囲に含まれるリポ蛋白、
というものに過ぎず、
LDL コレステロールというのは、
その曖昧な区分の中に含まれるコレステロール、
というだけの意味だからです。

同じことはHDL コレステロールにも言えるのですが、
上の図でもお分かりのように、
HDL は常に他のリポ蛋白とクリアに分離されているので、
その直接測定は、
それなりの意味を持つのです。

リポ蛋白分画は比較的安価な検査のため、
僕は最近ではこの検査を行なう代わりに、
悪玉コレステロールの直接測定を、
あまり行なわない方針に転換しています。

現在測られている悪玉コレステロールは、
脂質異常症の状態では、
値が不正確になるため、
国際的には認められていない方法です。
その事実も、
そもそもLDL という区分自体が、
かなり恣意的な指標であるという事実も、
多くの方に知らされないまま、
コレステロールの指導や治療が行なわれている、
という現在の状況は、
色々と事情はあるにせよ、
問題ではないかと僕は思います。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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シロ

今ちょっと疲れ目気味なので、ブルーベリーのサプリメントを飲もうと思っているんですが、ドグマチール、レキソタン、ビオフェルミン、アリーゼと一緒に飲んでも大丈夫でしょうか?

あと試供品でビタミンA、Dの入った疲れ目に効くと書かれたのも大丈夫でしょうか?
by シロ (2010-02-01 13:06) 

fujiki

シロさんへ
両方とも大丈夫です。
ご心配なく使って下さい。
by fujiki (2010-02-01 17:21) 

シロ

お返事ありがとうございました。
安心して飲めます。
これからも頼りにしています。
よろしくお願いします。
by シロ (2010-02-01 21:29) 

ルバーブ

突然の質問お許しください。
47歳 男性 糖尿病HbA1c6%
5ヶ月前と最近の血液検査で中性脂肪が以上に少なくちょっと心配なので質問させてください。
5ヶ月前 総コレステロール 296mg
     HDL     82mg
     LDL     201mg
     TG      30.4mg
今回の検査までコレステロールを下げることに留意したダイエットをしました。 
    総コレステロール 258mg
    HDL      76mg
    LDL     171mg
    TG      26.6mg

現在海外在住ですが、中性脂肪の下限の表示はなく、担当の医師からもその指摘は受けないていないのですが、日本ではどのような判断がされるか、知りたくて質問させていただきました。先生のご意見を賜れば幸甚でございます。
by ルバーブ (2010-04-14 20:21) 

fujiki

ルバーブさんへ
コメントありがとうございます。

中性脂肪の低値は、
基本的には体質的なもので、
特に気にする必要はないと思います。
それで脂質が不足して、
問題になるということも通常はありません。
ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-04-14 22:43) 

ルバーブ

 お忙しい中、早速ご返答いただきありがとうございました。
特に気にしなくて良いとお答えいただいてほっといたしました。
by ルバーブ (2010-04-15 20:27) 

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