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癌を予防するとはどういうことか? [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は診療所は休診ですが、
検案の実習があるので、
これから大塚の監察医務院まで出掛けます。

今日はちょっと雑談的な話です。

少し前に、こんなニュースがありました。

【子宮頸がん予防ワクチン接種費用、全額補助へ 明石市】 明石市は21日、若い女性の間で急増している子宮頸(けい)がん予防のため、市内の小学6年~中学3年の女子児童・生徒を対象に2010年度、予防ワクチン接種費用を全額助成すると発表した。子宮頸がんはワクチンで予防できる唯一のがん。自治体による接種費用の全額助成は兵庫県内では初めて。子宮頸がんは主に性交渉によって、「ヒトパピローマウイルス(HPV)」に感染して発症する。国内では年間約1万5千人が発症、約3500人が死亡している。昨年10月に予防ワクチンの接種が国内で解禁されたが、必要とされる3回分の接種費用はすべて自己負担となっている。このため、同市は接種率を高める狙いから、予防効果が高い若年層に対する接種費用の公費負担を決めた。対象は約6千人。接種は医療機関で受け、1人当たり約4万5千円(接種3回分)の全額を助成する。同市は新年度、対象者の約3割が接種すると見込み、当初予算案に約8千万円を計上する。

以前にも記事にしたことのある、
「ヒトパピローマウイルスワクチン」の話です。

書いてあることに、
決して誤りはありません。
ただ、

子宮頚がんはワクチンで予防できる唯一のがん。

という表現は、国会の審議でも使われていましたが、
ちょっと抵抗があります。

ヒトパピローマウイルスのワクチンとして、
昨年の12月に認可された、
サーバリックスは、
2種類のウイルスに対して、
その予防効果を持つワクチンです。

そのこと自体には間違いはありません。

ただ、現時点で分かっていることは、
このワクチンを通常の方法通りに3回接種すると、
少なくとも7年間は、その2種のウイルスに限定すれば、
感染を防御する効果がある、
ということだけです。
実際に臨床試験の経過観察は、
現時点で7年間行われ、
その間1例の感染者も出てはいないからです。

これはかなり画期的な効果、
という言い方は出来ます。

ただ、それは癌の予防とイコールではありません。
ヒトパピローマウイルスの持続感染が、
前癌病変となるメカニズムは、
ほぼ間違いのないことなのでしょうが、
ワクチンは単に2種のウイルスの感染予防効果があるに過ぎず、
それで本当にワクチンを接種した人で、
癌が起こらないかどうかは、
これから少なくとも10年は経過を見ないと、
判断は出来ない事項なのです。
ウイルス感染から発癌までには、
少なくとも10年以上掛かる、
と考えられているからです。

現行世界で使われている、
ヒトパピローマウイルスワクチンには、
アメリカのメルク社のものと、
イギリスのグラクソ・スミスクライン社のものの、
2種類があります。
メルク社のワクチンはアメリカでは2006年に認可され、
日本でも同年に臨床試験が開始されています。
ところが、後から開発された、
グラクソ社のワクチンの方が、
まだ臨床試験も途中の段階の2007年に、
日本では承認申請され、
まだ最終成績も発表される前に、
昨年12月に発売されたのです。
この裏には、行政の、
「こいつを早く承認しろ」
という強い指導があったとされています。

新型インフルエンザの輸入ワクチンの選定においても、
出遅れたグラクソ社のワクチンが、
いつの間にか採用となっていて、
何となくきな臭い裏の事情を感じさせる話です。

メルク社のワクチンとグラクソ社のワクチンの違いを、
簡単にまとめますと、
メルク社のワクチンは4種のウイルスに対応する、
4価のワクチンであるのに対して、
グラクソ社のワクチンは2種のウイルスに対する、
2価のワクチンです。
それから、メルク社のワクチンは、
古典的なアルミニウムのアジュバントを使用しているのに対して、
グラクソ社のワクチンは、
AS04というタイプの、
オリジナルのアジュバントが使用されています。

AS04というのは、
新型輸入ワクチンに使用されている、
AS03というアジュバントの、
親戚のようなものです。
AS03は国内でネズミの実験をしたところ、
お腹に投与してお腹の出血や炎症が起こり、
問題視された、という経緯があります。
つまり、それだけでリスクが高いとは言えませんが、
安全性の確立している、
と胸を張れる性質のものでもありません。

ただこのアジュバントの効果が高いことは確かで、
ヒトパピローマウイルスワクチンの場合、
通常人が実際に感染した時に上昇する抗体の、
少なくとも10倍以上の抗体価を、
誘導することが確認されています。

僕が現時点でこのワクチンの問題と考える点は、
大きく言えばこの2つで、
1つはその添加されたアジュバントの安全性が、
本当に問題のないものであるのか、
という点であり、
もう1つは、通常の10倍以上の抗体が出来ることが、
他の免疫系に与える影響が未知数である、
ということです。

殆ど語られてはいませんが、
単純にデータだけを見れば、
メルク社のワクチンの方が、
幅広い効果が期待出来る上に、
アジュバントの安全性も高いのです。
その上日本での臨床試験も先に開始されています。
それでいて、何故グラクソ社のワクチンのみが、
新型ワクチンと同様に、
特例の素早さで認可されたのか、
その点にも是非皆さんの注意を喚起したい、
と僕は思います。

数年前まで、
臨床試験すらまだ結果が出ていないのに、
薬が認可されることなど有り得なかったのです。
それが最近は「緊急性」の名の下に、
なし崩し的に秩序は破壊され、
スピード承認が行なわれています。

勿論日本の認可の遅さは非難の的であり、
多くの新薬が、待ち望む患者さんの手に、
なかなか渡らない、という現実があったのは確かです。

ただ、今回の新型ワクチンの輸入や、
インフルエンザの新薬の承認、
ヒトパピローマウイルスワクチンの承認と見てくると、
「患者さんの命を守る」という隠れ蓑の下に、
安全性は軽視され、
利権に塗れた不公正な薬の採用が、
見え隠れしているような気がします。

関連して次の話題です。

今週「ためしてガッテン」で、
ピロリ菌と胃癌についての話が放送されました。

さして新味のある内容ではなく、
ピロリ菌と萎縮性胃炎と発癌との関係が明らかにされ、
早期のピロリ菌の除菌で、
胃癌が予防出来る希望が見えて来た、
というような流れです。

これも同じようなケースで、

ピロリ菌の除菌で胃癌が予防出来る。

という1種の宣伝メッセージが、
巧みに視聴者に刷り込まれるような、
内容になっています。

実際放映の翌日、診療所を受診された何人かの患者さんが、
テレビの話をされていて、
「内容は何だか難しくて理解出来なかったけれど、
ピロリ菌を退治しないと大変なことになる、
ということだけは分かった」
と話されていました。

これこそが、おそらくこの番組の意図するところであり、
その意味で極めて巧みに、
その洗脳装置は作動している、
と言うことが出来そうです。

これも子宮頸癌の予防、というのと同じで、
ピロリ菌が胃の粘膜の萎縮に関係の深いことは間違いがなく、
萎縮性胃炎が「高分化型腺癌」の発生に、
大きな影響を与えていることも確かですが、
ピロリ菌を早期に除菌すれば、
数十年後の発癌が予防出来るかどうかは、
まだ「やってみなければ分からない」というのが、
本来の事実です。

つまり、早期のピロリ菌の除菌が胃癌の予防になる、
という仮説は、信憑性の高いものではありますが、
まだ証明されたものではないのです。

また、以前触れたように、
ピロリ菌の除菌を闇雲に行なうと、
却って難治性の逆流性食道炎の発症に繋がることもありますし、
予防出来る可能性があるのは、
あくまで「高分化型腺癌」だけで、
悪性度の高い胃癌の代表である、
「スキルス胃癌」が、
除菌治療で予防出来る、という根拠は、
何処にもありません。
本来「高分化型腺癌」と言うべきところを、
「胃癌」と言ってしまうところに、
意図的なものではないにせよ、
1種のトリックがあるのです。

司馬遼太郎は「坂の上の雲」の中で、
「歴史は善悪を作るが、科学は善悪を作らない」
という意味合いのことを書いていますが、
それは実際には正しくはなく、
科学ほど善悪のイメージを、
人間に強要し洗脳しよう、
という学問もないのです。
「善玉コレステロール」なんてネーミングは、その最たるものですし、
「ピロリ除菌が善である」とか、
「ワクチン打つ人が正しい人だ」
というような刷り込みも得意技です。

勿論その全てが誤っているとは僕も思いませんが、
メディアの方には、
単純な「強制メッセージ」のような報道だけは、
しないで欲しいと切に願います。

今日はちょっと雑駁な話になりましたが、
「癌の予防」というテーマについて、
最近の話題を僕なりにまとめてみました。

それではそろそろ出掛けます。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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midori

私も科学の恩恵を受けて生きていますが,
「科学(と歴史)は一夜にしてひっくり返るもんだ」と考える人間なので,
信用していないとまでは言いませんが,鵜呑みにしてはいけないと思っています.


by midori (2010-01-31 17:08) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。

細かいことには目を瞑って、
将来のために啓蒙しよう、
というような姿勢が、
却って逆効果になってしまっているように、
僕には思えます。
by fujiki (2010-01-31 22:19) 

萩野 尚

HPV の接種の無料化が話題になっている昨今ですが、このワクチン接種の問題と、小学生の年齢が問題でしょう。
身体検査 (耳鼻科検診)の折に、小、中校で質問したのですが、「性教育」は全く行なうつもりはないことです。日本医師会雑誌の記事でも同様です。子供達にはどの様に説明するのでしょうか?
小、中学生の性交経験率は、数%、十数%です。18 歳以上で急に増加して 70-80% になるようです。
一度の感染では 5 年以内に消滅するそうです。男性には接種しないなど、本当に原因の全てであるのか、否か問題点が多いのですが政治的問題のようにおもいますが、ご意見は・・・
by 萩野 尚 (2010-10-14 21:24) 

fujiki

萩野尚先生
コメントありがとうございます。
ウイルス感染をある程度の期間、
阻止出来ることは間違いがないのですが、
特定の型のみである点、
アジュバントの使用で自然の10倍以上の抗体を誘導する点など、
10代に使用するということも考えると、
その安全性にはまだ疑問符の付く点があり、
先生の言われるように、
もう少し慎重な対応が望ましいのでは、
と思います。
by fujiki (2010-10-15 17:13) 

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