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バリウムで異常なしとされた早期胃癌の1例 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今回は毎年の健診で、
胃のバリウムの検査を行ない、
毎年異常なしの診断であった方が、
3センチ大の早期胃癌であった、
という事例の話です。

実際に診療所で経験した事例を元にしていますが、
患者さんの特定を避ける観点から、
敢えて事実を変えて記載した部分のあることを、
予めお断りしておきます。

患者さんはGさん。
50代の男性です。

毎年バリウムの検査をしていましたが、
いつも結果は異常なしでした。

しかし、同時に行なったペプシノーゲンの検査で、
異常値が指摘されました。
ペプシノーゲンとは、
胃酸の前駆物質で、
この数値が血液で異常であると、
胃の粘膜が萎縮している可能性が高いことを、
示しています。

それで、Gさんは二次検査を希望され、
診療所を受診されました。

では最初の画像をご覧下さい。

Gさんの胃カメラの画像です。
これは胃の中央付近の場所ですが、
青い矢印に囲まれた部分を見て下さい。
粘膜の一部が、赤く爛れているのが見えます。
胃の粘膜自体も、
全体に非常に荒れています。
ただ、これだけ見ると、
ただの胃のびらんのようにも見えます。
見逃されるケースも、
有り得る病変です。
場所は「胃角の対側」で、
胃全体の中央に近い部分です。

では次を。

最初の画像の、
赤く爛れた部分を、
拡大して見たものがこれです。
大きさは2~3センチくらいあります。

では次を。

これは同じ部分に青い色素を掛け、
病気の部分を浮かび上がらせた画像です。

こうして見ると、
中央の病変に向かって、
粘膜のひだが集まっているのが良く分かります。
これは最初の画像の時点より、
少し胃の中の空気を抜いています。
胃を少し縮めることで、
こうしたひだの異常は分かり易くなる訳です。
ちょっとしたコツのようなものですね。

この中央部から組織を取ったところ、
印環細胞癌、と言うタイプの、
悪性度の高い胃癌の細胞が見付かりました。

幸い早期のものなので、
はっきりした転移はなく、
信頼の出来る病院に、
手術の方向でご紹介をすることが出来ました。

この方は特に胃の痛みなどの症状はなく、
血液検査で貧血もなく、
ペプシノーゲン以外の腫瘍マーカーの上昇も、
認められていません。

では、この病変を、
健診のバリウムの検査では、
見付けることは出来なかったのでしょうか?

今後のより良い診断のために、
フィルムを取り寄せてみました。

次をご覧下さい。

これがGさんの胃カメラの半年ほど前の、
健診のバリウム画像です。

この画像の中央下寄りの部分に、
実際には癌が存在しています。

ただ、病変の指摘は、
正直ちょっと難しいと思います。

健診のバリウムの検査というのは、
一種の流れ作業なので、
段取りは決まっていて、
撮るレントゲンの枚数も限られています。

ご覧頂けるように、
胃の形には特に異常はなく、
その膨らみも良好です。
つまり、スキルス胃癌のような可能性は、
まず否定的です。

ただ、早期胃癌は粘膜表面主体の変化なので、
ある程度進行しないと、
胃そのものの変形などの異常は出ないのです。

ちょっと画像が悪くて分かり難いかと思いますが、
粘膜の表面はかなり荒れていて、
バリウムがあまり表面に付着していません。
これは通常萎縮性胃炎を始めとする、
慢性の胃炎に典型的な変化です。
ただ、こうした場合、
表面の微妙な凹凸は消えてしまうことが多く、
早期胃癌の微妙な窪みを、
指摘することは非常に困難なのです。
実際にはひだの集中像があり、
もう少し空気を抜いて、
位置を変えれば、病変を描出することは可能かも知れませんが、
健診の限られた時間では、
限界があります。

ただ、このように荒れた粘膜では、
胃癌のリスクは高いと考えるべきで、
こうした方には異常なしとはせず、
検査不充分で胃カメラをお勧めする、
という選択が望ましかったのでは、
という気はします。

このGさんの場合、
ペプシノーゲンを同時に測っていたことにより、
胃カメラが必要と判断され、
それが結果的に胃癌の発見に繋がりました。
バリウムにみの健診では見逃してしまう病変を、
ペプシノーゲンが補完したのです。

ある程度の胃癌のリスクの存在する方
(具体的にはピロリ菌が陽性であったり、
ご家族に胃癌の方がいたり、
ペプシノーゲンが異常であったりした場合)は、
バリウムの検査だけでは、胃癌の検診としては、
不充分なものなのです。
こと早期胃癌に関しては、
胃カメラの検査が必要だと考えられる所以です。

皆さんもご注意下さい。

今日は実際には多いのですが、
あまり表立って論じられることの少ない、
バリウムの健診と胃カメラとの関係についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

a-silk

患者さんで、親をがんで亡くされ、以前ピロリ菌が
見つかったことがある方に、「バリウムにみの健診では見逃してしまう病変を、ペプシノーゲンが補完したのです。」
この事を伝えてみます。
いつも、勉強になります。

母の居る老健のユニットは、感染症の拡大を考慮して、
1週間面会が、できなくなりました。
心配ですが、良い施設なので、安心です。

by a-silk (2010-01-22 16:34) 

まみしゃん

夫の会社の健診は、胃カメラではなく胃バリウムなんです。
転勤になる前に、無理を言って胃カメラを受けさせたらポリープがありました。
義父がスキルス胃癌で手術を受けたことがあるので・・・昨年は忙しくて受けられなかったので、今年は受けるように強く言ってます。
そういう私も、去年は受けられなかったので今年こそ!と思っていますけど・・・大腸にガスが溜まりすぎだと膠原病のドクターにCT検査の時に指摘されたので、どうせだったら1泊して大腸内視鏡も受けようかと思いつつ・・・便潜血検査は異常がないので躊躇してしまいます(-"-)
by まみしゃん (2010-01-22 17:50) 

fujiki

a-silk さんへ
いつもありがとうございます。
バリウムにはバリウムの長所はあるのですが、
現行の健診のバリウム検査には、
その被爆量とバランスを取った時、
どの程度の意味があるのかは、
非常に微妙だと思います。
by fujiki (2010-01-23 08:30) 

fujiki

まみしゃんさんへ
いつもありがとうございます。
出来れば矢張り1年に一度は胃カメラ検査を、
お勧めはしたいところです。
ただ、勿論スキルスの診断には、
限界はあります。
by fujiki (2010-01-23 08:31) 

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