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「死の官僚」を考える [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は診療所は休診です。
お腹の調子が悪く、
そうした患者さんが今は多いので、
仕方がないのかな、と思うのですが、
「胃が痛い」のは本当に不愉快なものですね。
何とか今日1日で、調子が戻るといいのですが。

今日はちょっと雑談的な話です。

非常に良識ある「正義の味方」とされている、
医師でもあるお役人の方がいて、
その方自身責任のある立場にありながら、
新型インフルエンザに関する行政の対応を批判した、
「死の官僚」という、
ちょっとやや下品な題名の著書を出版したところ、
それが数日のうちに出版社で回収される、
という事態となりました。
1週間ほど前の出来事です。

出版社の発表によると、
その本はその「正義のお役人」の方が著者、
という体裁にはなっているものの、
実際には編集者の聞き書きであり、
勿論その正義の味方は一分の隙もない、
「正しい」内容を語ったのですが、
その「正しい」発言を聞いた編集者が曲解して、
わざわざ誤った形に変えて本にし、
そこには多くの事実誤認や、
誰かに対する「失礼」や、
医学的誤りがあったのだそうです。
出版社のコメントによれば、
その責任は著者には全くなく、
100%出版社の責任なので、
新たに「本当にその著者が書いた」本を、
来月の下旬に再度発売するとのことです。

何と言うか、非常に奇妙で、謎に満ちているものの、
その謎の答えは、聞くとがっかりして、
脱力するような性質のものであるような気がします。

何となく推測されることは、
正義の味方が存在するということは、
要するに「悪人」がその一方に存在するということですから、
「悪人」とされた組織なり個人が、
出版された本の内容を見て
(多分著者謹呈のような形で、
悪人に近い距離にある人にも、
その本は送られたのだと思うからです)
これはおかしいぞ、とクレームを付け、
その「悪人」も出版社にとっては、
「大事な人」であったので、
その「正義の味方」とも相談して、
今回のような処置となったのではないか、
と思われます。

つまり、「正義」というのは、
必ずその一方に「悪」を必要とする訳です。

人間というのは、その頭の中で、
常に対立概念を持とうとする生き物なので、
「悪」が実在する、という事実を目の前にすると、
その頭の中で「正義」を創り出し、
それがあたかも現実に存在するかのように、
信じ込もうとするのです。

つまり「悪」は実在のもので、
人間の心の外に存在しているのですが、
「善」とか「正義」とかと称するものは、
人間の心が生み出した一種の観念であって、
そうした観念を生み出し、実体化させようと努力することが、
人間の優れた部分なのだ、という考え方も出来、
それは決して誤りとは僕も思いませんが、
「正義」というのは、「悪」に比べれば、
脆弱で実体に乏しいものなので、
それが「生身の人間」の形を取った時には、
その存在を俄かには信用するべきではない、
というのが僕の基本的な考え方です。

何故「悪」だけが実在するのかと言えば、
それは人間は基本的には、
「自分」が「正義」であり「善」であるからです。
その「自分」を害するものこそ、
「悪」の正体です。
ただ、人間はその「自分」が「正義」であることに、
不安を持ったり懐疑を持ったりする、
という特殊な思考を持っているので、
「自分の枠から離れた正義」を、
求めようとする心性があるのです。

すいません。
ちょっと観念的な話になりましたので、
話を元に戻します。

一部で「悪の」役人がクレームを付けたのではないか、
というような推測が書かれていますが、
僕の考えはちょっと違います。

僕の推理は、多分「御用学者」の方のどなたかが、
クレームを付けたのではないか、
というものです。
その「御用学者」の方自体、その分野では高名な方で、
その出版社から著書も出しているのです。
お役人や政治家という種別の方は、
そうした大人気ない態度を、
通常は取らないのではないかと僕は思います。
また「医学的誤り」があった、という説明がされていますから、
医師でもある著者以上に、
医学的事実に精通した誰かが、クレームを付けた、
ということになり、それは付けた側も専門家であったことが、
充分推理可能です。
一般的に言って、世間知らずの「学者」こそ、
ちょっと自分の名前が悪めに書かれただけで、
自分の名前が汚されたように考え、
こうしたクレームを付ける人種ではないかと思いますし、
そうした時に使う武器は、
「科学的にここは誤っているぞ」
というような論法であることが多いからです。

出版社としては、
その「御用学者」も「正義のお役人」も、
共に大事な商品ですから、
両方を立てなければならなくなり、
そこで「著者ではあるけれど、編集者が滅茶苦茶にした作品なので、
著者には何の責任もなく、御用学者を敵に廻すつもりもない」
という離れ業的な今回の弁明を、
思いついたのではないでしょうか?

現実に非常に初歩的なミスが、
その本には多くあったのだと思います。
ただ、間違いなくこの本は、
「正義のお役人」が著者になっているのですから、
必ず著者はゲラを見て、そのOKは出している筈です。

一部に著者が校正を全くしていないのでは、
というような意見がありましたが、
そんなことは有り得ない、と僕は思います。
どんな風変わりな出版社だって、
本を出す前にはその著者にゲラは絶対見せますって。

勿論「正義の味方」というのは、
非常に多忙なお仕事なのですから、
それほどしっかり見る時間はなく、
適当にOKを出してしまった、
ということは充分考えられます。

しかし、仮にもただ話しを聞かれただけの内容を、
自分の著書として出版したりしてはならない筈です。

この著者は多くのインタビューで官僚批判を繰り返しており、
そのような取材と自分の著書を出すという行為とを、
やや混同して考えていたのではないか、と思われます。

「正義の味方」ならそれでもいい、
という話ではなく、「正義の味方」だからこそ、
その一線は守るべきではないかと僕は思います。

僕が何を言いたいかと言えば、
この著者が軽率であったことは事実なのですから、
謝るべきはこの著者であって、
出版社だけが謝るのは間違っている、ということです。
仮に出版社が「自分達だけが泥を被ります」
と言ったとしても、
「正義の味方」はそれで済ませてはならない筈です。

この著者はクレームを押し切って本を出す、
という決断も出来た筈です。
仮に医学的誤りがあったのなら、
その部分だけを修正して再版すればいいのではないでしょうか?
実際に科学的誤りを指摘されて、
再版から内容が変わることは、
決して珍しいことではありません。
それをせず、全く新しい本を出す、という結論になったのは、
この著者自身に守るべきものがあり、
それを守るためには、
そのクレーマーと手打ちをした方が良い、
という計算があったからだと考えられます。
そして、そうした打算は、
僕の考えでは、
「正義の味方」の正反対の位置にあるものです。

勿論世の中には「正義の味方」が存在するのでしょうが、
僕はまだ本当に不幸なことに、
そうした人に会ったことはありませんし、見たこともありません。

今回の騒動は、端的に言えば、
出版社が「正義の味方」というブランドを守るために、
自らが泥を被った、という事例です。

「死の官僚」という不吉で不正確で曖昧な日本語が示すものは、
その本の内容そのものよりも、
そうした「価値」を商売にしようという、
その卑しい心の中にあるように、
僕には思えます。

2月の下旬に今度は本当にその著者が書いた本が、
同じ出版社から発売されるのだそうです。
でも、もう1ヶ月しかないでしょう。
ちょっと先を急ぎ過ぎではないでしょうか?
実は内容は殆ど変わらないけれど、
根回しをしてクレームが付かないように、
チェックをしてもらうだけではないかしら。
僕の推理では、多分2月に出版される本の中で、
謝辞があったり、論文の引用があったりした、
専門家が出て来たら、
その人がおそらくクレーマーと同一人物ですね。

売れ行きのことだけを気にし過ぎず、
腰を据えて半年くらいは掛けて、
もっとしっかりとした内容のものを、
本当にこの新型インフルエンザの騒動を、
後世にしっかり伝える一級の資料となるようなものを、
この著者には是非書いて頂きたいと思います。

世の中はどうも、今は「最悪」に近いのではないでしょうか。
それは多分「正義」を求める人が多く、
「秩序」がないがしろにされているからではないかしら、
と僕は思います。
この10年くらいの間に、本当に多くの価値が、
僕達の周りから失われたのだと思いますし、
これから数ヶ月の間に、
更に多くの価値が失われていくのだと思います。
僕は「正義」より「秩序」の方が好きで、
その理由は自然にあるのは、
つまり人間より外の世界にあるのは、
「秩序」であって「正義」ではないからです。
しかし、昔の人間は「秩序」を重んじ、
今の人間は「正義」を重んじているのです。

詰まらない「正義」もどきを振りかざすのは、
もういい加減にして欲しいものだと、
僕は思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 4

まみしゃん

先生、どうぞゆっくりお休みになってくださいね!
by まみしゃん (2010-01-17 10:52) 

a-silk

厚労省のジャンヌダルクと、呼ばれている方ですね。
昨年5月ごろ、空港での検疫を、ぼろくそに言った人かも。
どうぞ、お身体大切にしてください。
by a-silk (2010-01-17 13:23) 

fujiki

まみしゃんさんへ
何となくそうもいかないのですが、
ありがとうございます。
胃カメラもそろそろやろうかと思います。
by fujiki (2010-01-17 18:59) 

fujiki

a-silk さんへ
ありがとうございます。
今食事を終えて、
ややいいかな、という感じもします。
by fujiki (2010-01-17 19:04) 

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