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ノロウイルス感染症の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は最近流行の兆しがある、
「ノロウイルス感染症」の話です。

ノロウイルスは、嘔吐や下痢を起こす、
所謂「感染性胃腸炎」の、
主な原因ウイルスの1つです。

ここ数年日本での「ノロウイルス感染症」の頻度が増加しており、
特にお年寄りの施設などでの、
集団感染の事例が多く報告され、
報道もされているのは、
皆さんもご存知の通りだと思います。
つい最近も、北海道での集団感染で、
亡くなった方もあった、との報道がありました。

ノロウイルスは所謂「食中毒」の原因として、
ここ数年は最も多い病原体です。
そして、その感染力は、
インフルエンザの比ではありません。
日本での年間の患者数は報告事例
(これは集団感染に限られると思われます)
だけで1万人を超え、
食中毒の患者数の、
実に4分の3に迫る数です。

従って、現在集団生活を送っているような施設で、
最も注意すべき食中毒と言っても、
過言ではないのです。

ノロウイルスは小さな球形のウイルスで、
インフルエンザと同じRNAウイルスです。
抗原の種類によって、
ⅠからⅣの4つの型に分類され、
人間に感染するのはⅠ型とⅡ型だけですが、
Ⅰ型には少なくとも15種類、Ⅱ型にも19種類以上の亜型が、
存在することが確認されています。

つまり、その種類は多いので、
1度罹っても、何度も感染することは、
それほど稀な話ではないのです。

ノロウイルスの性質は、
必ずしも明確に分かっている訳ではありません。
その研究は、インフルエンザなどに比べれば、
遥かに遅れていると言えるでしょう。

ノロウイルスは培養することが困難で、
動物に感染させることも出来ません。
つまりこのウイルスは人間にしか感染せず、
人間でしかその症状を出すことはないのですが、
それが何故であるのかは、
まだ分かっていないのです。

ウイルスの研究は動物実験が主体ですが、
インフルエンザは人間以外にも、
イタチや豚では人間と同様の症状を出し、
ネズミにも、実験的には感染させることが可能です。
しかし、現時点でそうした方法を、
ノロウイルスでは取ることが出来ないのです。
従って、インフルエンザより、
その研究は遥かに困難なのです。

ノロウイルスに感染すると、
通常1日か2日の潜伏期を置いて、
嘔吐と下痢が起こります。
通常嘔吐の方が先に起こることが多く、
それから腹痛と下痢が続きます。
嘔吐の前に、何となく調子が悪く、
身体のだるさを感じますが、
その程度は様々で、
寝込んでしまうような具合の悪さや、
寒気、関節の痛みを生じる場合もありますし、
殆ど症状のない場合もあります。

症状がなく嘔吐する場合は、
老人ホームなどでは非常に問題で、
通常それは食事中であることが多く、
他の入所者の方の前で、
突然の嘔吐が起こると、
その時点で大量のウイルスが、
食堂中に飛び散り、
それが周囲の入所者の方や、
その吐物を掃除した職員に、
瞬く間に感染します。

逆に嘔吐の前の寒気などの症状が強いと、
特に発熱を伴う場合には、
インフルエンザと誤認し、
その診断が遅れることもしばしばあります。

特に新型インフルエンザに関しては、
「初期症状に吐き気や嘔吐が多い」
という非常に紛らわしい見解が表明されていて、
その見分けの付かなさに、
拍車が掛かっています。

僕は個人的には
「新型インフルエンザにお腹の症状が多い」
という意見には懐疑的で、
それはあまり実際に患者さんを診ていない、
「専門家」の統計によるもので、
実際には初期にお腹の症状が強ければ、
それはノロウイルスなどのお腹の感染症を疑うべきだ、
という考えです。
症状というのは大抵偉い先生は、
ただのアンケートで取っているので、
実際にはそれほどの吐き気がなくても、
症状の「吐き気」の欄に○をされる方は、
結構多いと想定されるからです。

熱は高熱になることも稀ではありませんが、
通常1~2日のうちに下がり、
熱に伴う症状は比較的乏しいのが特徴です。

下痢は嘔吐が激しいと、
急性の脱水症状になることもありますが、
概ね症状は3日以内には改善し、
特に「吐き気」は2日以内にはケロリと治ることが、
通例です。

ノロウイルスはどのようにして人間にうつるのでしょうか?

通常これには3つの感染経路を考えます。

その第一は食事を介してのもので、
「食中毒」の原因でもあるのですから、
まあ当然のことですね。
以前は生カキが多い、と言われていましたが、
衛生管理の徹底によって、
最近は原因不明のことの方が圧倒的です。
おそらくは人間の手の触れた食材から、
感染することが多いと考えられ、
その意味では「食中毒」ではないのですが、
便宜的にはその区分になっているようです。

第二の感染経路は人から人への感染で、
これが実際には圧倒的です。
感染した人間の吐物と便には、
非常に大量のウイルスが含まれています。
これが「空気感染」する訳です。

1gの便に少なく見積もって、
100万個のウイルスが含まれています。
これがたとえば吐物では、
全方向に飛び散る訳ですが、
そのうちの10個のウイルスが身体に入っただけで、
感染が成立すると考えられています。
感染した患者さんの吐物と便は、
細心の注意を払って処理しなければならない所以が、
この辺りにあります。

第三の感染経路は水を介してのもので、
川の水やプールの水で、
感染したケースも稀ではありません。

ノロウイルスの診断は、
数年前までは遺伝子検査を依頼する以外にはなく、
例によって行政は、「集団感染」の事例以外は、
検査をしてはくれませんでした。
酵素抗体法という手法で検査が可能となったのが、
数年前のことで、
しかし、それは保健適応にはならず、
僕のような末端の医者が依頼をすると、
1回で7000円以上という、法外な検査料を要求され、
実地で使用可能なものではありませんでした。

それが2年前くらいから、
インフルエンザの簡易検査のように、
簡単に診断の可能なキットが製造され、
それがまた改良されて、
健康保険が適応にならない、
という問題はあるものの、
診断の環境は大きく改善されました。

診療所でも、そのキットを使用した、
簡易検査を行なっています。

ノロウイルス感染症には、
不顕性感染もあることが確認されています。
つまり、何の症状もなくても、
その便にはノロウイルスが出ているケースが、
実際にはある訳です。
また感染後下痢が止まっても、
その後1ヶ月はウイルスが便からか検出された事例も、
報告されています。

従って、集団で生活しているような施設では、
トイレの後に便座を滅菌したり、
しっかり手洗いをしたりすることは、
非常に重要なことであり、
そうしたことなしで、
集団感染を防ぐことは非常に困難なのです。

今日は「ノロウイルス感染症」の総説でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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こたつたこ

4歳の子供です。
先週金曜朝から咳、(鼻水は更に数日前から)病院で喉赤く風邪診断、ペリアクチン散、トランサミン散、カルボシステインシロップ、アスベリン散 4日分処方される。
今週月曜朝ぐったり不機嫌、熱37℃後半、朝食中嘔吐、イオン水飲んで30分後に嘔吐、病院でバナンドライシロップ5、プルスマリンAドライシロップ、カルボシステインシロップ用メプチンドライシロップ、オノンドライシロップ、アレギサールドライシロップ、カリウムシロップ処方される。
夜、ヨーグルト食べて、数時間後嘔吐。
火曜日、熱37度〜36度後半に下がり、元気になり、バナナ、ゼリー、春雨等少量食べるが嘔吐せず。軽く下痢(頻繁ではないが、茶色ゆるい便)
水曜日、熱平熱、元気。病院で聴診器あてながら「まだ薬必要」との事で、月曜と同じ薬が処方される。昼食うどん食べ、りんごジュース飲み 昼寝起き後嘔吐。軽く下痢。夜、ゼリー食べる、数時間後就寝中、泣いて嘔吐。
水分は経口補水液OSを少しずつ飲んでいます。

嘔吐後は比較的元気なのですが、風邪1週間近く、嘔吐は3日続きで食後嘔吐継続中。
どう対処していけば良いのでしょうか(総合病院で検査した方が良いのでしょうか)
風邪 の診断だけで良い域なのでしょうか。
by こたつたこ (2012-05-24 00:55) 

fujiki

こたつたこさんへ
お子さんご心配なことと思います。
今のお風邪は比較的長引いていて、
経過としては回復に向かっているように思います。
ただ、確かにやや長い経過であることは事実で、
ご心配でしたら、
総合病院を受診してご相談をされても、
良いのではないかと考えます。
by fujiki (2012-05-24 08:32) 

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