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メタボリックシンドロームとCT被爆の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

少し前にCT検査で癌の発生が、
僅かながら増加する、
という話をしました。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2009-12-22

その元の報告は2004年に英国の、
「Lancet 」という医学誌に発表された論文です。
これは他の国と比べて、極端に多い、
日本のCT検査の施行数から換算すると、
何と年間の発癌患者の3.2%に当たる、
7587人が放射線の被曝が原因の発癌と考えられる、
という驚くべきものでした。

勿論これは、実際に癌を確認した、という意味ではなく、
原爆の被爆者やチェルノブイリの被爆者から、
換算したデータを活用すると、
そうした推論が成り立つ、
というデータです。

海外でも1%程度の発癌は、放射線の被曝によるもの、
と考えられていて、それでも別にCT検査をなくそう、
というような動きがある訳ではありません。

それは勿論CTは有用な検査であり、
必要な最小限のCT検査は、
将来の癌発生のリスクを差し引いても、
充分意味のあるものだからです。

要は、放射線を使用する検査には、
その確率は低いけれども、
将来の癌の発生を増加させるという有害な作用があり、
それと検査のメリットとのバランスで、
皆さんが検査を選択する必要性がある、
という意味なのです。
勿論それを選択出来るだけの情報を、
医療者が提供するべきであるのは、
言うまでもないことです。

しかし、残念ながら現在、
日本の医療者は概ねその点については、
鈍感なように僕は思います。

たとえばある検査があり、
その検査が放射線の被曝を伴うものであるとしたら、
その検査の説明には、
必ず検査を施行した際の、
被爆量が明記されていなければならない筈です。
しかし、通常その検査の必要性の説明はあっても、
その時の被爆量が説明されることは殆どありません。

また、国内の医療の専門誌を読んでみても、
それが放射線を使用する検査であるにも関わらず、
検査における被爆量が、
しっかり記載されていることは、
実際には殆どありません。

こうした点に、
日本における放射線の検査の、
大きな問題があると僕は思います。

近年、一番無益で有害なCTの使用法と僕が考えるものに、
メタボリックシンドローム絡みの、
お腹のCT検査の利用があります。

メタボ健診の日本の診断基準では、
お腹周りが男性≧85cm、女性≧90cm、というのが、
内臓脂肪が多いことの指標、とされています。

皆さんはこの数字を、どのようにして計算したと思いますか?

これは実はお腹のCT検査を行ない、
おへそを含む断面での、
脂肪の面積を計算したものです。
それが100平方センチメートル以上となるところから、
その時のお腹周りを逆算したのです。

これは日本の研究者によって、
1980年代に開発された方法で、
専門書には、
「内臓脂肪型肥満の正確な診断には腹部CT検査が必要です」
とはっきりと書かれています。

確かにCTで計算すれば、
お腹の中の脂肪の量を、
正確に測定することは可能となるでしょう。
上の文章は決して間違いではありません。

しかし、別に手術の必要のあるようなお腹の病気があったり、
癌や血管の病気が疑われた訳でもないのに、
ただ単にお腹の脂肪の量を「正確に」測定するだけの目的で、
CTを撮りまくるという行為は、
放射線の被曝の問題を考えれば、
倫理的に許されるものではなく、
そうして得られたデータも、
自慢出来るような性質のものとは、
僕には思えません。

ある医療機関では、
メタボ改善の治療として、
定期的にお腹のCTを撮り、
そのお腹の脂肪の量をを測定して、
その結果も論文として発表されています。

治療を受けた方は、
その意識はないのでしょうが、
無用な検査をした挙句、
健康のためどころか、
将来の癌のリスクを増やしているのです。

こんな馬鹿な話があるでしょうか?

内臓脂肪の多さを見るには、
超音波検査のみで充分なのです。

こうした検査が、主に論文を書く目的のもとに、
高次の医療機関で、
一時はじゃんじゃん行なわれていたのです。
これまで行なわれたCT検査のうち、
どれだけのものが、
真に受ける方にとってメリットのあるものであったのか、
検証が必要なように僕には思えてなりません。

今日は放射線の被曝とメタボ健診との関係についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 5

まみしゃん

私も去年の秋に、造影CTを受けましたね。
血液検査と超音波は多いのですが、CTを受けるのは久しぶりでした。
父は、水頭症のLPシャントが腰にあるため、MRIが受けられないんです。
脳腫瘍の経過観察も、腹部動脈りゅうの経過観察もCT・・・受けてる回数は私より遥かに多いですね。
イマイチ、CTとMRIの差がはっきりわからず・・・メタぼ健診のためにCTっていうのは、ちょっとと思ってしまいますね。
MRIはうるさいのがイヤですけど^^;
by まみしゃん (2010-01-16 09:11) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。

CTは非常に便利なので、
どうしてもすぐCT,
となり易いのではないかと思います。
特にMRIが普及するまでは、
不必要な被爆が多かったのが、
実状ではないかと思います。
by fujiki (2010-01-17 07:53) 

あきこ

一年前、息子が5歳のときに頭から転んで、CT検査を受けました。
先生は、「多分、大丈夫だけれど、念のためCTを」とのことでした。
石原先生の記事を読んで、被爆のこと、まったく知らなかった
のでびっくりしました。
主人も私も癌の家系なので、子どもには気をつけようと
思っていたのですが、CT検査がこんなに被ばく量が多いとは・・・。

お医者さんはなぜそれを教えてくれなかったんだ!
お医者さんは勉強不足だ~!
と、しばらく悶々としております。主人は
「母親のあなたが勉強不足だったからしょうがない」と言うばかり。
念のために検査をお願いした自分をずっと責めてしまいます。

石原先生、いつも大変貴重なことを教えてくださって、
本当にありがとうございます。
これからも勉強させてください。
by あきこ (2010-08-02 23:58) 

fujiki

あきこさんへ
コメントありがとうございます。

お子さんが頭をぶつけられたのですから、
不測の事態もないとは言えず、
CTを撮られたことが誤りではなかったと思います。
癌化のリスクはあくまで確率的な問題なので、
不必要な検査を避けるように注意は必要ですが、
それで不測の事態を見落としては、
本末転倒なのですから、
お気にされる必要はないと思います。
by fujiki (2010-08-03 06:34) 

あきこ

石原先生、お返事ありがとうございました。
すみません、私の神経質な質問に丁寧に
コメントしてくださって、ありがたく思います。

必要な検査だったので、気にしないように
します。石原先生にお話ししたら、気持が
すっきりしました。

ありがとうございました。
暑いですが、先生どうかお身体ご自愛ください。
by あきこ (2010-08-03 20:59) 

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