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国産新型ワクチン臨床試験中間報告をどう考えるか? [新型インフルエンザA]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は診療所は休みで、
久しぶりに何の予定もありません。

日曜日は概ね医療以外の話題ですが、
今日はちょっと硬い話です。

16日に、新型インフルエンザの国産ワクチンの臨床試験の、
中間報告が専門家の会議で紹介されました。

これは会議の資料として出されたもので、
正式のレポートといった体裁のものではないようです。

以下、ニュースの文面を引用します。

[国内産新型ワクチン接種、13歳以上は原則1回―厚労省意見交換会] 厚生労働省は10月16日、専門家を招いて「新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会」を開き、新型インフルエンザワクチンの接種回数について議論した。席上、まず電話で参加した国立病院機構三重病院の庵原俊昭院長が、同病院など国立病院機構4病院で健康な成人を対象に行っている臨床試験について、「1回接種で効果的な免疫反応が期待できる」と中間報告。これを踏まえ国内産については、白血病などで「免疫が著しく抑制されている人」を除き、13 歳以上は原則1回接種とすることで意見が一致した。庵原院長によると、臨床試験では健康な成人200人を100人ずつ2グループに分けて、それぞれ通常量(15μg、皮下注射)と倍量(30μg、筋肉注射)を接種。9日までに血清を採取した194人について、1回目接種の3週間後のHI抗体価を取りまとめた。接種前の抗体保有者は、194人中7人 (3.6%)だった。中間報告によると、接種後の抗体保有率は15μg接種で78.1%、30μg接種で87.8%。抗体陽転率はそれぞれ75.0%、87.8%。抗体価変化率はそれぞれ14.5倍、35.0倍で、いずれも30μg接種の方が有効だが、15μg接種でもEMEA(欧州医薬品審査庁)の評価基準を上回った。庵原院長は「1回接種で効果的な免疫反応が期待できる」などとする治験調整医師のコメントを紹介した。EMEAの評価基準について、国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの田代眞人センター長は「(日本でも)使える」と指摘。また、臨床試験の結果に関して「すべての成人に広げても問題がない」との認識を示した。

皆さんはこのニュースをお読みになって、
どういう感想をお持ちになりますか?

「そうか、国産のワクチンは1回打てば効果があることが分かったのか。
今まで新型のワクチンには効果がないのでは、
という意見もあったが、あれは間違いだったのだな、
1回で効果があればもっと沢山の人がワクチンを打てるので、
ワクチンが不足しなくて済むので良かったな」
とお考えになるでしょうか?

皆さんがそうお考えになるのは当然です。
この情報は、皆さんにそう考えてもらうために、
16日というタイミングで流されたのだと思われるからです。

翌日の17日のニュースでは、
さっそく「新型ワクチン1回接種に」という文字が踊っています。

要するに、資料によって1回接種の有効性が確認されたので、
1回接種の方針になったのではなく、
最初から1回接種の方針はほぼ決まっていて、
それを決定するための一種の儀式として、
今回の資料が必要だったのです。
そうでなければ、この決定は、
あまりにも早過ぎます。

それでは、今回の中間報告の結果を、
もう少し詳細に考えてみましょう。

まず、先行する海外の臨床試験のデータでは、
概ね90%以上の有効率が1回接種で示されています。
この意味合いは、9割の方で、
HI抗体の値が、4倍以上上昇したか、
その抗体の数値が、40倍以上を示した、ということです。
(海外のデータでは、中和抗体についても、
同様の結果が確認されています)
この結果は、100人の人がいて、
そこに新型インフルエンザウイルスがばら撒かれたとしても、
ワクチンを打っていれば、90人は罹らずに済む、
という風に一般的には思われがちですが、
そうではなく、40倍以上という抗体の値は、
少なくとも半数の感染を阻止出来るレベル、
という意味なのです。
ですから、端的に言えば、
100人のうち、45人は感染しないけれど、
55人は感染する場合もある、という意味合いになります。
仮に有効率100%としても、
50人以上は罹りませんよ、という意味にしか過ぎません。
勿論90人が罹らない場合もあるでしょうが、
それは事前の臨床検査からは、
決して証明することの出来ないことなのです。

つまり、こうした臨床試験で示されるデータというのは、
「全然効かない訳ではありませんよ」
という意味合いなのであって、
果たして集団感染を予防出来るのか、
果たして重症化を防げるのか、
という点については、
実際に多数の人に打ってみた上で検討しないと、
その効果は判明しない性質のものなのです。

新しいワクチンを使用するということは、
一種の人体実験なのであって、
その効果を事前に判定することは出来ないのです。

まずこの事実を、しっかり確認しておく必要があります。

その上で、上のデータを海外のデータと比較してみましょう。

まず、上の臨床試験は、
概ね海外の試験と同様の方法で行なわれています。
ただ、現時点で明らかになっているのは、
報道によれば、HI抗体価だけです。
海外の試験では、
HI抗体価と中和試験という方法による中和抗体価とを、
両方測った上で、両者がほぼ同一の傾向を示していることを、
証明しているのです。
以前ご説明したように、
新しいウイルスに対するワクチンの効果を見るためには、
HI抗体価のみの測定では、
間接的で不充分なのです。
今回もおそらくは中和抗体の測定も行なっているのでしょうが、
手っ取り早く結果の出るHI抗体価の測定を優先させたのだと、
考えられます。

要するに、しっかりとした検証をすることが目的なのではなく、
1回打ちでもOK、という結論を出すのに、
間に合うように無理矢理今回の結果が出されたのだ、
ということが、この点からも明らかです。

また、本来この試験は2回接種を前提として計画され、
実施されているものです。
従って、まだ中間報告なのです。
10月8日の前後には、
被験者には2回目の接種が行なわれた筈であり、
その効果の判定は接種後3週間ですから、
10月29日頃に採血して、
その翌週くらいに結果が判明する筈です。

その2回目の接種で、抗体価は更に上昇し、
有効率は90%に達するかも知れませんし、
あまり1回接種と変わりなく、
70%代に留まるかも知れません。
しかし、そのどちらであるかによって、
結果の解釈はまた変わる筈です。
仮に明らかに2回接種の方が効果があるなら、
2回接種を主体に計画は実行されるべきですし、
2回目が1回目と大差がなければ、
これは1回接種が適切だ、
という大きな根拠にはなります。

つまり、ちゃんと11月の初めの最終報告を待たなければ、
1回接種が適切かどうかは、
本来評価は出来ない筈なのです。

にもかかわらず、このタイミングで強引な決定を行なうのは、
始めに「1回打ちに変更」という結論ありきであったからであり、
もっと言えばあまりに臨床試験の開始が遅きに失した、
という行政の失策を、覆い隠すためなのだと、僕は思います。

次に結果のデータについてですが、
海外の先行するデータでは、
概ね90%以上の有効率が示されているのに対して、
今回の中間報告では、有効率は70%代とされています。
抗体保有率というのは、事前に抗体が陽性であった場合を含んで、
という意味合いですから、実際にワクチンの結果で、
抗体が上がった方は、全体の75%だったということになります。
初回に2倍の量を接種すると、
それが87.8%に上昇しているのですから、
この結果を冷静に判断すれば、
国産のワクチンは、同様の製造法で造られた海外のワクチンと比較しても、
その効果は弱いものであり、
海外のワクチンと同様の効果を期待するなら、
2回打ちにするか、ワクチンの1回量を増やすか、
いずれかの方法が必要である、
との結論になります。
ちなみに輸入予定のノバルティス社のワクチンは、
アジュバントを含む製品ですが、
通常の半量の7.5μgの1回接種で、
ほぼ100%の効果が得られているのです。
もし安全性より効果を優先するなら、
最初からじゃんじゃん輸入ワクチンを使った方が、
圧倒的に良いという結論になってしまいます。
(勿論この効果は単純に予め定めた目標に、
抗体が上がった、というだけの意味合いで、
実際に予防効果があった、という意味では全くありません)
輸入ワクチンの国内臨床試験も、
報道によれば、国産ワクチンにやや先行して始まっている筈です。
とすれば、当然同時に中間報告が出せる筈なのに、
今回はその結果は伏せられています。
本来は輸入ワクチンのデータと国産ワクチンのデータを、
同様の条件で比較検討すれば、
より多くのことが判明する筈であり、
今回1回打ちにするか2回打ちにするかの決定にも、
重要な情報になり得る筈です。
にもかかわらず、その情報は開示せず、
都合の良い情報のみで決定を行なっている点にも、
僕はかなり作為的なものを感じます。

僕の言っていることは、
何処か間違っているでしょうか?
決して間違ってはいないと思います。

にもかかわらず、専門家の会議の結論は、
「1回の接種で充分な効果が認められた」
というものなのです。
「何だそりゃ」という感じです。

勿論ある程度の効果が認められたことは分かります。
しかし、明らかに量を増やしたら、より高い効果が得られ、
1回での効果は海外のデータより見劣りがするのですから、
普通に考えれば、元々2回接種の方針を、
計画開始直前に、急に1回に方針転換する理由に、
今回のデータがなるとは考えられません。

ワクチンには大きく考えれば、
2つの効果があります。
1つはたとえばAさんならAさんが、
ワクチンを打つことにより、
その病気に罹らなくなる、という個人の予防効果。
そして、もう1つはある集団が、集団で予防接種することにより、
その集団の感染の流行を阻止するという、集団の予防効果です。

今回の新型インフルエンザのワクチン接種プランは、
基本的に優先順位を付けて、
罹ると重症化のリスクの高い人を優先させている訳ですから、
基本的に個人の予防効果を期待している、
ということになります。
ただ、一般的に言って、ワクチンは集団の予防効果は得られ易いが、
個人の予防効果は得られ難い、という性質があります。
インフルエンザワクチンの予防効果の判定基準というのは、
あくまで集団の予防効果についての数字です。
もし、個人に予防効果を期待するなら、
よりハードルは高くなり、
より効果の高いワクチンが必要となる道理です。

今回の中間報告のデータは、
集団感染の予防には何とか使えるかな、
というくらいのレベルのものです。
従って、個人の予防効果を期待するなら、
当然より高い効果が必要であり、
どう考えても2回接種が必要、
という結論にならないとおかしいのです。

「1回接種でも効果のあったことにして、
打てる人数を増やし、不公平感をなくそう」
という強い行政の意志があり、
専門家はその権力の前に、
個人の発言を封じられたのではないか、
というのが今回の決定に僕が思うことです。

そもそも臨床試験の最も重要な役目は何でしょうか?
勿論効果の判定や接種の方法の選択に用いることもありますが、
一番は安全性の確認です。
もし200人程度の試験で、重篤な副反応が出現すれば、
それは中間報告の段階でも、
接種中止の判断が取られる大きな根拠になります。

上の報道には副反応の記載は全くありません。
これも大きな問題で、一種の情報操作と言っても、
過言ではないと僕は思います。

中間報告で重要視するべきは、
効果よりもむしろ安全性です。
安全性を中心に議論し、
その効果に関しては、
あくまで2回打ちの結果までみた最終報告の段階で、
しっかりと判断し、決定をするべきなのです。
勿論今シーズンの接種に関しては、
その決定は手遅れになりますが、
それはそもそも臨床試験の開始が遅れたのが失策であったためで、
その失策はもう挽回は不可能なのです。

さて、上の引用とは別の報道に、
若干副反応のことが書かれていました。

ワクチンを接種した後の副作用は45・9%の人にあり、接種個所が赤く腫れたりする頻度が高かった。比較的重い副作用として急なアレルギーショックなどもあったという。

他の報道の中で、もう少し詳しく、
重い副反応として、全身に湿疹が出た事例が1例と、
アレルギーショックを起こした事例が1例、
と報告されています。

200人程度しか打っていないのに、
比較的重度のアレルギー症状が2例に見られた、
というのは僕にはちょっと引っ掛かります。

もし4割以上の方に発赤などがあったとすれば、
局所の反応も、通常の季節性ワクチンよりは、
強いのでは、ということが考えられます。

従って、実際に新型インフルエンザのワクチン接種に、
参加する予定の実地の医者として、
僕が危惧するのは、国産のワクチンも、
新型ワクチンに限っては、
季節性よりも副反応は強いのではないか、
という推測です。

今後の情勢を慎重に見守りたいと思いますし、
マスメディアにも行政にも、
適切な情報を操作することなく、
適切なタイミングで開示して頂きたいと、
切に願います。

ちょっとまだ未整理の部分がありますが、
国産新型ワクチンの臨床試験の中間報告について、
僕なりの感想をお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 7

tashi

お久しぶりです。
今回の国産ワクチンに関する報道ですが、HI抗体価の上昇程度
もさることながら、副反応の2例についてこれまで誰もコメント
していないことが不思議でしたので、同じ感想を持たれた方が
いたことに、少しほっとしています。
何事も無ければ良いのですが、最優先となる医療関係者100万
人の結果が気がかりです。

by tashi (2009-10-18 17:08) 

fujiki

tashi さんへ
コメントありがとうございます。
僕も含めて、最初に接種をする医療従事者は、
従順なワクチンの実験台に過ぎないのだと、
僕は思います。
by fujiki (2009-10-18 18:55) 

まみしゃん

石原先生、いつも貴重なご意見ありがたく拝見しております。

素人でましてやトシのせいか頭の弱くなってきた自分は、集団接種(鉄砲注射と言っていました)の時代の人間です。

小学生のころ、卵アレルギーがあるからダメと言われ続けて昨年まで40年近くワクチン接種はしませんでした。

息子も、直接インフルエンザとは関係ないのかもしれませんが、ワクチンを受けた後に急性肝炎を患ったことがあります。

卵アレルギーがあるのは親子共通ですが、出来ることならワクチンを接種せずに(特に新型)過ごせたら・・・と考えていました。

これだけ蔓延している北海道で今のところ罹らずにすんでいるので、注意深く状況を見極めたいと思っております。

どうか、先生もワクチンも含めてご注意ください!
by まみしゃん (2009-10-18 21:14) 

kawa

今日のYOMIURI ONLINEでもトップでこのことを報じていました
なんか嘘臭いと思いつつ記事見ていたけど、200人のデータでOKという
部分にはビックリしました

少しでも医療に携わっていたら、200人のデータ云々で・・?となりそうですが、一般紙がトップ記事に持ってくることで普通の人は情報操作されるんだろうな・・ていうふうに思いました。

時間的な問題があるのでエンドポイントを抗体価で評価するのは仕方ないかもしれないけど、もっと先の予防効果や疫学的な調査は、この抗体価だけ見たテストと相違あるか興味深いです、長期的な試験の結果がでたときのこの日記も楽しみです
by kawa (2009-10-18 22:55) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
北海道は大流行のようですね。
くれぐれもご注意下さい。
ワクチンは他のウイルス感染の後押しをするような作用が、
あるのではないかと僕は考えているので、
急性肝炎も決して無関係ではないかも知れません。
by fujiki (2009-10-19 13:15) 

fujiki

kawa さんへ
コメントありがとうございます。
今回の報道は、色々な意味で、
問題があると僕は思います。
まずは当面の副反応の有無が心配です。
by fujiki (2009-10-19 13:17) 

fujiki

補足です。
サイト上にこの中間報告の全文が公開されました。
この記事自体は報道内容のみを元にしたものなので、
その点はご理解の上お読み下さい。
全文についての検討は、
また後日にまとめたいと思います。
by fujiki (2009-10-20 08:30) 

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