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インフルエンザ生ワクチンの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はインフルエンザの生ワクチンの話です。

昨日はインフルエンザの生ワクチンには、
幾つかのハードルがある、
という話をしました。

その最大のハードルは、
生ワクチンは長い時間を掛けて、
ウイルスを弱毒化しないといけないため、
造るのに長い時間が掛かり、
多くの型が存在してすぐに変異を起こすような、
インフルエンザの予防には不向きであるという事実です。

このハードルを越えるために、
巧妙な方法が考案されました。

その方法はこうです。
弱毒化したウイルスと、実際に流行しているウイルスを、
掛け合わせて遺伝子を混ぜ合わせ、
新しいウイルスを造るのです。
この方法によって、人に感染する力は極めて弱いのに、
流行しているウイルスと同じ抗原を持つ、
ワクチンが誕生するのです。

これがインフルエンザの弱毒生ワクチン
(live attenuated influenza vaccine )です。
略してLAIV と言います。
このワクチンは注射ではなく、
鼻の粘膜に噴霧する形で使います。
このワクチンは粘膜の免疫を誘導するので、
自然の感染に近い形で、
鼻に使用した方が有効性が高いと考えられたのです。

この方法はただ、
皆さんもおそらくお感じになるように、
ちょっと恐い面があります。
要するに製薬会社の実験室では、
常にウイルスの遺伝子を掛け合わせて、
新たなウイルスを出現させている訳で、
それがたまたま流出したものが、
今回の「新型インフルエンザ」の正体なのではないか、
という一部で報道された「トンデモ情報」も、
あながち一笑に付することは出来ないのです。
今回のウイルスが弱毒性であるのは、
そもそもは「生ワクチン」用に造ったものだったからだ、
という説明も成立するからです。

ちょっと話が逸れましたので、
元に戻します。

このインフルエンザの生ワクチンは、
2003年にアメリカで認可され、
主に小児での有効性が評価されています。
その適応は2歳から49歳です。
アメリカでは、不活化ワクチンの効果が弱い小児には、
生ワクチンを優先して使用し、
高齢者では生ワクチンで感染するリスクを考慮して、
不活化ワクチンを優先する棲み分けが成されているのです。

生ワクチンの効果を、
現時点でどう考えるべきでしょうか?

実際の打った後の抗体の上昇の度合いを見ると、
生ワクチンは不活化ワクチンにやや劣ります。
予防効果はほぼ同等です。
意外に効果が弱い理由は、
その製造法にあるのかも知れません。
同じ弱毒のウイルスの、
2種の抗原だけを入れ替えたものなので、
弱毒ウイルスの抗原刺激が弱いのではないか、
ということも想定されます。

ただ、特に通常の不活化ワクチンの効果が弱い、
5歳以下の年齢層では、
生ワクチンの優位は明らかです。
また、注射ではないため、
鼻詰まりなどの副反応はありますが、
注射を嫌う小児には、
有用性は大きいと考えられます。

現状生ワクチンは、
MedImmune 社のFluMist という商品のみです。
パテントがあるのでしょうし、
もし日本で同様のワクチンを利用するとすれば、
輸入に頼らざるを得ない訳です。

今後生ワクチンの輸入が問題となることも予想されます。
直ちに飛び付くような効果は立証されていないこともあり、
慎重な検討が必要な事例だと思います。

今日はインフルエンザの生ワクチンの概説でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

或るケミスト

いつも興味深く拝見させていただいております。
鼻噴霧タイプは生ワクチンやったんですね。弱毒タイプと生ワクチンの違いが非常にわかりやすく説明されて理解できました。ありがとうございました。
治療法もノイラミニターゼ阻害剤がメインのようですが、富山化学の開発中の新規作用機序のRNAポリメラーゼ阻害剤も興味深いですね。ピラジン骨格に水酸基とフッ素とCONH2が置換基として存在するあんな単純な化合物がといった感じですが。聞き覚えですがこのフッ素基は代謝を遅くするために導入されているそうです。
そういえば、おとんがアマンタジン(シンメトレル)を服用していた頃「この薬飲みだして不思議とかぜひかんようになったなあ」と言っていたのをふと思い出しました。その頃は気のせいやろと軽く受け流しておりましたが。
by 或るケミスト (2009-10-18 02:59) 

fujiki

或るケミストさんへ
コメントありがとうございます。
鼻噴霧のワクチンを積極的に評価される方もいるのですが、
僕はデータを見る限りは、
そこまでのものではないのでは、
という印象を持っています。
化学構造の話は僕はさっぱりなので、
また教えて下さい。
by fujiki (2009-10-18 12:56) 

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