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「ディア・ドクター」あれこれ [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

何となく昨日書き残した、
映画「ディア・ドクター」の話をします。

今回も映画のネタばれを含みますので、
未見の方はご注意の上お読み下さい。

映画の中で、香川照之が、
薬品の卸の会社の担当者として登場します。
その雰囲気も乗っている白い車も、
如何にも卸の人だな、という感じで、
これは良く取材されている、と思ったのですが、
複数の批評で、「製薬会社のMR」と書かれているのを見て、
一般の理解はあまりないのだな、
と思いました。

MRというのは1つの資格で、
通常は製薬会社の社員が取得するものです。
より専門的な知識を持ち、
自分の会社の製品についての、
適切な情報を提供する仕事です。
薬というのは、通常は直接製薬会社から販売される訳ではなく、
間に卸の会社が入り、そこから医療機関や薬局に納入されます。

映画で鶴瓶が勤務していたような村の診療所に、
滅多に製薬会社のMRが来ることは考えられず、
薬の納入は映画中の香川照之のような、
卸の担当者が運んで来るのです。

映画の中で、実際にある薬の商品名が幾つか登場します。

タケプロンとプリンペランとガスターとアルサルミン、
そしてフェロミアです。

フェロミアは鉄分の薬で、他は胃薬ですね。
これは全て先発品で、
もう既にジェネリックが発売されています。

これもまあ、医療監修の先生の趣味なのかも知れませんが、
本来はジェネリックの名前が並んでいた方が、
もっとリアルな感じはしますね。

ちなみにアルサルミンは、
胃酸を抑えずに胃潰瘍の治癒効果があるという、
ちょっと風変わりな胃薬です。
胃酸を抑えることは、
消化管の菌巣を変化させるなど、
幾つかの欠点があるので、
胃酸を抑えない胃薬はある意味理想的な薬なのです。
ただ、はっきり潰瘍のある人で、
アルサルミンだけで様子を診るのは、
正直ちょっと不安です。

また、ガスターのような胃酸を抑える薬を、
アルサルミンと一緒に使うような処方がよくありますが、
あれは基本的には間違いで、
アルサルミンは胃酸が強力に抑えられた環境では、
その効果を現わさないのです。

以上ちょっと薬の豆知識的話でした。

さて、映画の中で女医の娘が薬のパッケージを見付け、
「何でこんな薬を飲んでるの」と母に詰め寄る場面がありますが、
これもちょっとおかしいですね。
ご高齢の方でタケプロンのような薬を飲んでいる事例は、
結構多いのですから、
抗癌剤やモルヒネを見付けたのと、
同じような反応をさせるのは、
不自然だと思います。
「胃が悪くて薬を飲んでいるの?」
と軽く聞くらいが普通です。

八千草薫演じる老婦人は、
進行胃癌だという設定ですが、
画像はおそらく手術適応になるかどうか、
ぎりぎりくらいの経過で、
その場合問題になるのは、
当然転移の有無です。
広範な転移があれば、
治療は困難になりますが、
それを確認せずに、看取りを決断する、
診療所長役の鶴瓶の判断は、
はなはだ疑問です。
(画面に登場する組織診断によれば、
癌は中分化型の腺癌で、未分化癌やスキルスではありません)

鶴瓶は知識がないのだから、
胃癌と聞いただけで、もう手遅れだ、と思ってしまったのだ、
という考え方も出来ますが、
その一方で、毎晩真剣に胃癌の専門書(?)を読んで、
勉強しているのですから、
矢張り辻褄が合いません。

この物語の弱さは、病気に胃癌を持って来たことです。

胃癌は胃カメラの組織所見だけで、
それが存在する、という診断は出来ますが、
治療が可能かどうか、どの程度完治が望めるか、
そうした点については、
それ以外の検査を組み合わせなければ、
判断不可能だからです。
勿論ベテランの内視鏡医であれば、
胃カメラの所見だけで、
ある程度予後の推測は可能だと思いますが、
それが物語の鶴瓶に不可能なことは、
これも自明のことだからです。

作者の頭の中には、
黒澤明の「生きる」があったのかな、
とも感じましたが、
1950年代と今の医療状況はまるで違います。
当時の農村では脳出血と胃癌が圧倒的に多かった訳ですが、
それは今に当て嵌まる話ではありません。

映画の物語を成立させるには、
簡単な検査をすれば、
それほど専門的な知識がなくても、
手遅れに近い状態と判断出来るような、
病気の存在が不可欠です。
転移性肺癌を伴う膀胱癌でも良かったでしょうし、
進行した膵臓癌でも、ある種の血液疾患でも良かった筈です。
それが胃癌になってしまったことで、
何故鶴瓶に胃カメラが出来たのか、という疑問を含めて、
多くの辻褄の合わない点が生まれてしまったような気がします。

以上「ディア・ドクター」あれこれでした。

色々文句だけ言ったようですが、
僕は割とこの映画が気に入っています。
ただ、医療監修だけは、頂けないな、と思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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iyashi

確かアルサルミンは患部にだけ特異的に作用するんじゃなかったと思っているのですが正しいですか?

細粒は口の中に暫く置いておくとベタベタになったような気がします。

粘膜保護薬としては優秀な薬かと思います。
by iyashi (2009-08-03 14:27) 

fujiki

iyashi さんへ
炎症部位の蛋白質に結合して、
病巣を保護する、ということのようです。
ただ、それ以外にも多くの作用があり、
それほど胃内PHを変化させないので、
もう少し改良が可能であれば、
「あるべき胃薬」に近いものではないか、
という気がします。
by fujiki (2009-08-03 21:11) 

juno

Nexium 40mg についての質問です。
Nexiumには、胃の消化作用を妨げるような、
あるいは胃をあらすような可能性があるのでしょうか。

以下、Nexium服用の経過です。
海外在住で、昨年暮れに胸に鋭い痛みを感じ、
受診したところ、内視鏡検査の結果、食道炎と診断され、
Nexium 40mg を処方されました。
1日1回朝食前に飲むように指示されました。
服用後しばらくして(2ヶ月ほど)症状が改善したので、
飲むのを止めました。
この時に、医師には相談していません。
予約の取りにくさと言葉の問題などから
なかなか医者まで足を運びにくい状況です。
その後、今年の夏に、
昨年食道炎と診断された時と似た痛みを感じたので、
以後、再び、Nexium 40mg の服用を開始しました。
この時も、医師には相談していません。
ところが、その後、数度にわたって、
今まで経験したことのない胃の不快感を感じるようになりました。
具体的には、膨満感があり、胃もたれがひどく、
胃の内容物が消化されていかないように感じました。
口の中に、苦みのようなものも感じました。
それでもNexium を続けて飲んでいたところ、
胃のあたりに鈍い痛みを感じるようになりました。
食道のあたりにはやはり、ひりひりしたような感触があります。
このような場合、Nexiumは中止すべきでしょうか。
本来は、こちらの医師に相談すべきなのですが、
年末に一時帰国を予定しており、日本で受診するつもりなので、
様子をみようと思っていたところ、
症状が悪化してきており、不安になっています。
この場で、大変恐縮ですが、ご意見をお聞かせいただければ幸いです。
by juno (2015-11-11 00:36) 

fujiki

junoさんへ
以前にもネキシウムは使用されて、
一定の効果があったという点から考えて、
ネキシウム自体が問題というより、
今回の症状に対しては、
ネキシウムは無効、
というように考えて頂いた方が良いように思います。
一旦は中止をされて良いのではないでしょうか?
まずネキシウムは中止して、
食事は消化の良いものにして刺激物は避けて様子をみて、
それでも症状が改善しないようであれば、
医師の診察をお勧めします。
by fujiki (2015-11-11 08:30) 

juno

お忙しいところ、お返事ありがとうございました。
おっしゃる通り、Nexiumを中止してみます。
素人考えで、Nexiumのようなプロトンポンプ阻害剤は、
食道炎には効果があっても、
胃酸を分泌をおさえるあまり、
胃の働きを弱くしてしまうのではと思ったのですが、
そのような単純なことではないということでしょうか。
ともかくも帰国次第、受診するようにいたします。
本当にありがとうございました。
by juno (2015-11-12 04:25) 

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