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SSRIと賦活症候群の話 [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はSSRIの副作用のメカニズムの話です。

SSRIによる自殺企図や衝動性といった副作用の原因として、
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、
賦活症候群(activation syndrome )という概念を提唱しています。

賦活症候群とは何でしょうか?

これは特に抗うつ剤の使い始めの時期に、
中枢が刺激される現象を、
一種の毒性として一まとめにして表現したものです。

この考え方の基になったのは、
三環系抗うつ剤の開発時期から既に問題になっていた、
「賦活効果」と言われる現象です。
抗うつ剤を使い始めると、
その抗うつ効果の出現するより早く、
不安感やイライラ、焦燥感が高まるケースがあります。
患者さんによっては、
はっきり躁状態に転換するように見える場合もあります。

診療所で経験した実例でも、
初診時は明らかにうつ状態で、
行動や感情の内向きの抑制傾向が強かったのに、
ルボックスを1日50mgで開始したところ、
飲み始めて3日でイライラが著明に現われ、
多弁で暴力的な状態に変化したことがありました。
この方は結論から言えば「双極性障害(躁うつ病)」で、
うつの時期に抗うつ剤を使用することによって、
簡単に躁状態に不安定に急変したのです。

何故こうした現象が起こるのか、
明確には分かっていません。
ただ、抗うつ剤という薬は、
比較的少量であっても、
脳内のモノアミンを急激に上昇させる効果があるのです。
その主体はセロトニンであると考えられています。
セロトニンが急激に上昇すると、
セロトニンの脳内でのバランスが不安定になり、
人によっては焦燥感が高まるような症状を示すと考えられています。
セロトニンの2Aという受容体が刺激されるのが本態ではないか、
との考え方もあります。
そのうちに脳内のバランスが取れて来ると、
抗うつ作用は安定化し、
賦活症候群は通常消失します。
ただ、実際にどのようなケースで、
こうした不安定さが生じ易いのか、
現実に脳のどの部分のどのような回路が、
抗うつ剤で賦活されるのか、
そうした詳細については、
現時点でも殆ど明らかになってはいません。

三環系抗うつ剤は飲み始めに、
ヒスタミンやアドレナリンの作用をブロックするため、
だるさや眠気が強く現われます。
これは三環系抗うつ剤の悪い作用とされ、
そうした他の作用がなく、
純粋にセロトニンを増やす薬として、
開発されたのがSSRIだった筈です。
しかし、実際には初期に沈静作用が強いことにより、
これは賦活症候群を起こり難くする役目も果たしていたのです。
この仮説が正しければ、
よかれと思って、却って副作用を強くする薬を、
開発してしまったことになります。

賦活症候群を起こさないための対応として、
抗うつ剤を少量から開始することと、
開始の時期には慎重に経過を診ること、
はじめには安定剤を一緒に使うことなどが、
提案されてはいます。
ただ、賦活症候群は少量でも起こることはありますし、
安定剤を一緒に使うことが本当に予防になるのかも、
明らかではありません。

賦活症候群という考え方の問題点は、
それがあまりに多くの症状を、
1まとめにしていることにあります。

FDAの文書によれば、
賦活症候群には、不安、焦燥、衝動性といった症状から、
パニック発作やアカシジア(別に項を変えて取り上げます)、
躁状態といった他の病名に近いもの、
不眠や敵意、易刺激性といった漠然としたものまで、
一緒くたにされています。
どの症状が特に強調されている、ということもなく、
幾つ集まればそう診断される、という基準も特に示されてはいません。

つまりこれはただ起こりうる症状の単なる羅列であって、
それ以上のものではないのです。

更には、この賦活症候群が、
自殺衝動や、それ以外の衝動的行為の、
原因になっているとは、
単純に考え難い面があります。
賦活症候群というと漠然とし過ぎるので、
薬の飲み始めの賦活効果に限っての話で考えれば、
賦活効果というのは、経験した人にとっては、
非常に不快なものです。
かつ薬を飲み始めたり、増やしたりしたら、
比較的すぐに生じる現象なので、
一般的に言うと薬を続けることを不安に感じ、
主治医にすぐ訴えるか、
自分の判断で薬を止めたり減量することが殆どだからです。
その訴えを受けても主治医が取り合わず、
無理矢理飲み続けることを強制するとすれば、
それはもう医者の悪行ですが、
それで問題行動に至るというのは、
意外にないのではないかと思います。

人はある種の効果を実感したり、
それなりの満足感なり充足感がないと、
こうした薬を継続的に使用することはないものだからです。

それでは、賦活症候群以外に、
SSRIの副作用を説明するロジックはないのでしょうか。

明日はその可能性の1つと思われる、
アカシジアの話に進みます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

iyashi

私は症状の酷い時、SSRIと三環系抗うつ剤を併用していた時期があったのですが、ろれつが廻らなくなってしまうアカシジアになってしまい、減薬になった経験があります。
また、パニック発作を起こした時にも三環系抗うつ剤が中止になりました。
薬の調節は難しいですね。
基本的には時間をかけてカウンセリング主体の治療が望ましいのでしょうが、やはり難しいのでしょうね。
by iyashi (2009-06-11 09:17) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。
本来はもっと客観的な基準なり、
検査法なりがあり、
それに基づいて薬剤の選択とその量とが、
決められるべきなのだと思いますが、
現時点ではそうした方法がないのが、
難しいところなのだと思います。
by fujiki (2009-06-11 12:48) 

さき

胸痛があって、パニック発作だと神経内科の先生に言われて、
ワイパックス0.5錠を一日5錠飲んでいます。
夕方になると苦しくなってきます。パキシルをやめたことも
胸痛の原因になっているようです。
毎日胸痛に苦しんでいます。ワイパックスを飲んで、
どうにかこうにかしのいでいますが、胸痛を治すことは
できるのでしょうか?なにか、治るためのアドヴァイスがあったら
教えてください。統合失調症の陰性症状にも苦しんでいます。
毎日、起きられず、昼間はべったりと2年くらい寝ている状態です。
体もなまっていますが、意欲の低下でほとんど活動できていません。
リハビリをかねて、無理してでも運動したり、新しいことに
チャレンジしたほうがいいのでしょうか?陰性症状から
抜け出したいと思いますが、どうやったら抜け出せるのでしょうか?
アドヴァイスをお願いいたします。

by さき (2010-02-27 20:49) 

fujiki

さきさんへ
コメントありがとうございます。

難しい問題ですが、
結果として二度寝になっても、
毎日同じ時間に覚醒することは大切だと思います。
太陽を昼間浴びることと、
簡単な体操とか、深呼吸、伸びをすること。
それから外の景色を見ること。
見て何かの感想を持つこと。
そうしたことから、少しずつ始めてゆくのがいいと、
僕は思います。
胸の痛みはお辛いと思いますが、
耐えて通り過ぎるのを待つことが大事。
心が強くなるための通過儀礼だと思って、
1つの発作をしのぐことで、
それだけ治る時に近付くと思って下さい。
あなたにとって無意味は苦しみを、
ほかならぬあなたが作り出す筈がない。
それには何か意味がある筈だし、
もしただの苦しみにしか感じられないとすれば、
あなたの捉え方が、
何処か間違っているのです。

ごめんなさい。
この程度のことしか言えません。


by fujiki (2010-02-28 21:22) 

さき

先生、よきアドヴァイスをありがとうございます。
少しずつ、同じ時間に覚醒することや、体を動かすこと、
太陽を昼間浴びること、外の景色を見る、などなど
チャレンジしてみます。ありがとうございます。
胸痛は、通り過ぎるのを待つことが大事なのですね。
どうして、こんな苦しい思いを毎日しないといけないのだろうと
辛く思っていましたが、無意味な苦しみではないですね。
きっとなにか意味があるのですね。発作をしのぐごとに、
治る時に近づいているのですね。わかりました。
苦しみに対する捉え方を考え直してみます。
苦しみに、意味があるということを言い聞かせるようにします。
ありがとうございました。
by さき (2010-03-01 07:07) 

薬学生

はじめまして。薬学部五年の者です。
少し授業の復習として、アクチベーションシンドロームのことを調査していたら、行き着きました。SSRIやSNRIといったいろんな薬剤が大挙を成して歩いてきているのでちょっと困惑しています。
うつ病を含めて精神疾患の多くで病識があるのが不幸中の幸いでもある気がします。統合失調症は病識すらないので、服薬説明時が大変とも聞きます。苦手意識が強い分野なので、ちょっと気が乗りませんが頑張ってやっていきたいです。またお邪魔することがあるかもしれません。よろしくお願いします。
by 薬学生 (2016-06-22 16:16) 

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