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ヒトは何故うつになるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻ります。

それでは今日の話題です。

うつ病の遺伝率は、
ある報告によれば、
37パーセントと言われています。

この数字が示すものは何かと言えば、
うつ病は他の多くの病気と同じように、
生まれつきの要因と環境要因との、
複合的な原因で起こる、
ということです。

そして、この場合の環境要因とされるのが、
ヒトが生まれてから体験する、
多くのストレスの数々です。

ただ、同じストレスを受けたからといって、
誰でもうつになる訳ではありません。

たとえば、同じ会社で同じ仕事をしていて、
同じ時期から同じように仕事の負担が増したとします。
それでもAさんはうつになって休職したけれど、
同じ条件のBさんはうつにはならず、
しんどいながらも仕事を続けたとしましょう。

現実にそうしたことはありますよね。

こうした場合に、Aさんには「ストレス脆弱性」があった、
と考えるのが一般的です。
AさんはBさんに比べて、
ストレスを受け止め、
それを自分の中で整理して、
自分なりに理解し、
処理する力が弱かったのだ、
と考える訳です。

「ストレス脆弱性」を持っている人間が、
ストレスの過多な環境に長く置かれれば、
うつを始めとする心の病気になる危険性が高まります。

ただ、この考え方には、人間選別的な、
ちょっと危険な匂いがします。
上の例を企業の側から考えれば、
「ストレス脆弱性」のない人間を雇えばよい、
という理屈になりますよね。
入社の時に心理テストをして、
その結果で疑わしい人間は、
入社させなければいい、
という考えに繋がり易いのです。

差別を生むのは常に「無知」という名の悪です。
「ストレス脆弱性」なる曖昧な概念が、
もっとはっきりした物質なり数値なりに還元出来れば、
差別はなくなるだろう、と科学者は考えます。
科学が差別をなくすだろう、
という一般的な考えの、根拠の1つがここにあります。

「ストレス脆弱性」なるものの実体は、
一体何なのでしょうか?

もし、あるXという数値を測れば、
それの高低で「ストレス脆弱性」が判断出来るとすれば、
数値の標準を定め、
それからあるレベル以上低い人は、
病気である、との判断も出来そうです。

その時点で、それまで曖昧模糊としていた、
「ストレス脆弱性」なるものは、
「肝機能障害」のように、「ストレス脆弱性障害」のような、
病気として定義される訳です。

「ストレス脆弱性障害」がある物質の測定で判断されれば、
その物質を上げてくれるような、
治療薬も開発出来るようになるでしょう。
「君はXの数値が15しかないね。
立派なストレス脆弱性障害だ。
でも、大丈夫だよ。
昔は怠け病と言われたり、
根性の足りないだけだ、
と言われて差別された時代もあったのだが、
今はこれが病気だということが、
はっきり分かっているからね。
ほら、この薬を毎日1錠ずつ飲んでご覧。
2週間も飲めば、
君の数値も30くらいに上がって来るさ」

果たしてそんなうまい話があるものでしょうか?

僕はあまりそうは思いません。

西洋医学の世界では、
全ての病気がこのようにして、
問題になる症状から、
その原因物質の追求とその精製、
物質の測定法の開発から、
病気の定義、分類を進め、
その物質を刺激したり、
抑制したりする物質を開発して、
治療に結び付ける、
という方法で進歩して来ました。

この1つの大きな枠組みを利用して、
確かに多くの人間を悩ませてきた症状が、
克服されて来ました。
その事実を、勿論僕も否定するつもりはありません。

ただ、それはあくまで原因が単独の物質であることを、
前提とした方法でもあるのです。
これはアメリカ式の正義に似ています。
悪の枢軸という敵を決め付けて、
それを爆弾を投下して撲滅すれば、
病気という悪は消えて無くなる、
という理屈です。
しかし、現実はそんなに単純ではありません。
「悪」と思っていたものが、
実は別の方向から見ると、
むしろ良い働きをしていて、
その「悪」を滅ぼしてしまったら、
却って別のもっと大きな「悪」を、
作り出す結果に終わってしまう場合があるのです。

「ストレス脆弱性」との闘いも、
僕にはそうした道を辿っているように、
現状は思えてなりません。

前置きがちょっと長く成り過ぎました。

明日は現時点で「ストレス脆弱性」の、
実体と考えられている物質について、
その研究成果と問題点について、
僕なりのレビューをお届けしたいと思います。
先に言ってしまえば、
それはCRHの過剰分泌と、
神経栄養因子の低下です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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まみしゃん

いつも興味深く読ませていただいております。
私は育児ノイローゼをきっかけに鬱を発症し、大波小波がありながらも
16年間完治せずに治療を受けています。
ほかにも持病があるので、関連性があるのかどうかはわかりませんが・・・
夫には「おまえは鬱病なんかじゃなくて、性格的に神経質でポジティブすぎるからだ」と言われました。
血縁ではないですが、叔母が2人鬱で自死していますので・・・
今のところ、息子は鬱になりそうな気配もありませんが。

by まみしゃん (2009-04-15 23:12) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2009-04-16 07:58) 

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