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ストレスで下痢になるのは何故か? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
東京は曇り空で雨の予報です。
往診に行く昼までは天気がもってくれるといいのですが。

それでは今日の話題です。

2週間くらい前の「ためしてガッテン」で、
「過敏性腸症候群」の話をしていました。

過敏性腸症候群というのは、
端的に言えば、
ストレスその他の原因によって、
胃腸が過剰に反応し、
コントロール困難な下痢や便秘、
腹痛を生じる状態のことです。

番組では、ストレスでお腹の痛くなる仕組みとして、
ストレスが加わると、
脳の中でストレスホルモンが出て、
それが腸にくっつくと、
腸は過剰に縮んで、
痛みが出るのだと、
文化祭の作り物みたいな図を使って、
説明していました。

皆さんはこの説明をどう思われますか?

全くの嘘とは言えないのですが、
こんなことがクリアに分かっている訳ではありません。
特に「ホルモンが腸にくっつく」というところは、
現時点で確証のある考え方ではないと思います。

別に病的な状態でなくとも、
緊張すると下痢になるのは、
皆さんもよく経験されることだと思います。

こうした現象が起こるということは、
緊張した状態が、
腸の動きに影響を与える、
という事実を示しています。
緊張を感じているのは脳の筈ですから、
このことは脳と腸との間に、
一定の関係があることを示しています。

こうした脳と腸との関係のことを、
脳腸相関(Brain-gut interraction)と呼んでいます。
番組の説明も、
この関係を表現したものと思われます。

でも、ちょっと不思議なことがあります。

腸の蠕動運動を刺激するのは、
副交感神経の筈です。
腸の運動は副交感神経が緊張すると強くなり、
逆に交感神経が緊張すると、
抑えられる筈です。
ストレスホルモンが出て、緊張状態になれば、
普通は交感神経が緊張する筈ですよね。
それなら腸の動きが抑えられて便秘になってもいい筈なのに、
何故そうはならないのでしょうか?

皆さんは分かりますか?

要するにことはそれほど単純ではないのです。

腸の蠕動運動のメカニズムというのは、
一種の謎で、完全に解明されている訳ではありません。
以前「心臓が動くのは何故か?」
という話をしました。
その答えは「自動性」です。
要するに、心臓は何もしなくても勝手に動くのです。
自律神経のみの神経系の調節しかない組織というのは、
心臓でなくても大なり小なりそうしたところがあります。
完全に神経が遮断されてしまえば、
手はその瞬間から通常動かなくなりますが、
心臓はしばらくは動きますし、
胃腸の蠕動運動もすぐに止まる訳ではありません。
心臓にペースメイカーのような働きをする細胞があるように、
腸の粘膜にもそうした細胞のあることが、
部分的には証明されています。
胃や腸も、ある意味勝手に動いているのです。
この勝手な動きこそ蠕動運動で、
その調節に大きな役目を果たしているのが、
セロトニンです。
腸は脳とは関係なく、
勝手にセロトニンを出して、
勝手に動いている訳です。

副交感神経は腸に繋がっていますが、
副交感神経の調節の力より、
腸自身が勝手に動く力の方が強いのです。
従って、通常の状態であれば、
多少の自律神経のバランスの乱れがあっても、
腸は勝手に動いてくれる筈なのです。

ところが…

これが病的な状態となると、
脳からの緊張の指令に対して、
腸が非常に過敏に反応する状態になります。
少しの緊張が、
激しい腹痛や耐え難い下痢の症状を起こすのです。

この現象には2つの考え方があります。

脳から何か異常な刺激が出ているのではないか、
という考え方が1つ。
そしてもう1つは刺激を受け取る腸の側に、
何か強く刺激を受け取り過ぎるような異常があるのではないか、
という考え方がもう1つです。

しかし、その実体は一体何でしょうか。
一体どんな物質が、
脳と腸とを仲介しているのでしょうか。

正確には分かっていない、
というのが実際のところです。

ただ、幾つかの知見があり、
そこから幾つかの仮説が建てられています。

ストレス時の脳の変化として、
現在一番注目されているのが、
CRH の働きです。
CRH は脳の視床下部から分泌されるホルモンで、
下垂体の前葉の受容体にくっつくと、
そこからACTH というホルモンが分泌され、
それが血液を巡って、
副腎を刺激すると、
副腎からステロイドホルモンのコルチゾールが出る仕組みです。

最近分かったことは、
このCRH というのはACTH を刺激する以外にも、
多くの作用を持っていて、
それ自体がストレスホルモンとして働いている、
という事実です。

このCRH が幾つかの経路で、
副交感神経を刺激します。
これはちょっと面白い現象で、
ストレスで分泌されるホルモンは、
通常交感神経を刺激するのですが、
このCRH は、ストレスホルモンの元締めのような役割でありながら、
それ自体はどちらかと言えば、
副交感神経を刺激する訳です。
従って、このCRH の上昇が、
腸の動きを強くする、
1つの原因なのではないか、
と推測されるのです。

ただ、それではCRH は交感神経を刺激しないのか、
というとそうではなく、
別の経路で交感神経も刺激しています。
それなのに、もし副交感神経の信号の方が、強く伝わるのだとすれば、
それを受け取る腸の方にも問題がありそうです。
これは内臓知覚過敏という言い方がされ、
その主な仲介役はセロトニンだと言われています。
実際セロトニンを調節してこうした症状を防ごう、
という薬が何種類か開発されています。
ただ、現状ではその効果は限定的です。

何度もお話しているように、
西洋医学は調整ということは苦手なのです。

脳腸相関の仕組みがクリアに解明されれば、
現在「心身症」と言われている多くの病気は、
その治療の面でも格段の進歩を遂げると思います。
ただ、その道筋は今のところ、
そう楽観出来るようなものではなさそうです。

ちょっと散漫になりましたが、
今日は脳腸相関と過敏性腸症候群の話題を、
お届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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