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ストレス脆弱性の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日のイントロダクションに続いて、
今日はストレス脆弱性の話です。

ストレスに弱い、という傾向は、
実体としてどういうことを示しているのでしょうか。

まず原因として考えられたのが、
ストレスを受けた時に身体の中で活躍する、
所謂ストレスホルモンの役割です。
代表的なストレスホルモンは何でしょうか。
そう、ステロイドホルモンですね。

人間にストレスが加わると、
脳の視床下部からCRHと呼ばれるホルモンが出て、
それが脳の下垂体を刺激すると、
ACTHと呼ばれるホルモンが分泌。
そのACTHが血液を巡って副腎を刺激。
副腎からコルチゾールが分泌されるという仕組みです。

うつ状態が続いている患者さんでは、
髄液の中のCRHが増えている、
というデータがあります。

また、血液の中のACTHとコルチゾールの数値も、
やや上昇しています。
更にはCRHで刺激した時に、
ACTHやコルチゾールの反応が過剰に強く、
それが外からストロイドを使っても、
正常の状態より抑えられ難いのです。

この反応の異常は、
うつ状態が改善すると、
元に戻ることも報告されています。
従ってこのことから、
うつ状態とステロイドホルモンの反応異常には、
何らかの関係があることが分かります。

しかし、これだけではこれがうつの原因なのか、
うつによる間接的な反応なのかは分かりません。

ただ、こんな報告もあります。

子供の頃に親に虐待を受けて育つと、
うつ状態でなくても、
同じようなステロイドホルモンの異常が、
観察されるのです
また躁うつ病の家族では、
症状がなくても同じような異常が多いことが、
報告されています。

これらのデータから、
うつ病でなくともステロイドホルモンの異常反応は起こり、
それがストレス脆弱性の実体なのではないか、
という仮説が立てられました。

ただ、よく考えるとちょっとおかしいのです。
ステロイドホルモンの異常反応からうつが生じるのなら、
うつ病が改善してすぐにホルモンの反応も正常になる、
というデータは矛盾しています。

しかし、ストレスに晒された状態が、
長く続くと、CRHが上昇することは、
ほぼ間違いのない事実のようです。

大雑把に言うと、
ストレスに晒された状態が持続することにより、
CRHがじゃんじゃん出て、
それによりコルチゾールが過剰に分泌されます。
この状態が長く続くと、
ステロイドの受容体が減ってしまうので、
実際にはステロイドの作用は低下するのです。
ステロイドの受容体の遺伝子に、
変化が起こるのだ、
という意見もあります。
いずれにしても、通常のホルモンの調節の仕組みが乱れ、
コルチゾール自体は増えているにも関わらず、
更にCRHは刺激される悪循環が生じます。
うつや不安などの症状は、
脳にあるステロイドの作用が低下するために起こるという説と、
それがセロトニンやノルアドレナリンに影響を与えるのだ、
という説や、CRHの直接作用ではないか、
という説など様々です。

CRHにはⅠ型とⅡ型という2つの受容体があって、
Ⅰ型の方がCRHがくっつき易く、
不安やうつの症状と関連が深い、
と言われています。
数日前の記事でも触れましたように、
このCRH は下垂体を刺激するばかりでなく、
脳の中の広い範囲で、
神経伝達物質として働いています。

もしこのCRH がストレス脆弱性の本体であるなら、
それを抑えるか効かなくすることで、
ストレスへの抵抗性を高め、
間接的にうつ病を起こらなくすることも可能となりそうです。

このために、CRH の受容体の阻害剤というタイプの薬が、
幾つか開発され、
一部の薬は実際に使うための試験に入っています。
もし上の仮説が正しいものであるなら、
うつ病やストレス脆弱性がその基礎にある、
多くの病気に対して、
画期的な治療薬となる可能性もあります。

ただ、僕は現時点では懐疑的です。

こうしたタイプの薬は、
意外に大した効果がないか、
逆に予想外の副作用が出現して、
使用が困難になることが、
往々にしてあるからです。
ただ、急性のストレスを受けたような状態では、
この薬を早期に使うことで、
症状が遷延することを防ぐことが、
可能になるかも知れません。
うつ病や適応障害の、
予防的な考え方が、
今後は可能になるかも知れないのです。

ストレス脆弱性の話は今日で終わるつもりだったのですが、
CRH だけで長くなりましたので、
神経栄養因子の話は明日に延ばしますね。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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