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「チーム・バチスタの栄光」のトリックについての一考察(ネタばれ注意) [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

診療所は今日から通常通りの診療です。
今年もよろしくお願いします。

それでは今日の話題です。

今年最初の医療ネタですが、
今日は趣向をちょっと変えて、
医療ミステリーのトリックの話です。
まあ、医療とミステリーのコラボレーションですね。

ひょっとしたら、同様の話が、
何処かで書かれているかも知れません。
もしそうでしたら、お許し下さい。

「チーム・バチスタの栄光」という、
現役の医者が作者のミステリーがあって、
ベストセラーになり、
映画とテレビドラマにも脚色されました。

映画はほぼ原作と同じ内容ですが、
去年の12月に終わったテレビドラマの方は、
犯人とトリックの一部が、
原作とは異なっています。

テレビドラマを見られた皆さんは、
その殺人のトリックに、
納得が行かれたでしょうか?
多分ピンと来なかった方が、
多いのではないかと思います。

余計なお世話かも知れませんが、
今日はそのトリックの検証をしてみたいと思います。

以下は小説とドラマのネタばれを含みますので、
これから読まれたり、見られる予定の方は、
どうかご注意の上お読み下さい。

この作品では、
心臓を一旦停止させて行なう、
心臓の外科手術の最中、
一旦停めた心臓を、
最鼓動させる時に、
心臓が動かず、手術中に死亡する、
という事故が相次いで起こり、
それが実は犯人のトリックによる殺人だった、
というストーリーになっています。

手術室という密室の中で、
他のスタッフに気付かれることなく、
そんな犯行が可能なのか、
という魅力的な謎が、
作品の肝の1つです。

そのトリックの話をする前に、
まず心臓を一時的に停める手術というのが、
どういうものであるのか、
という点について、
簡単に説明します。

心臓は常に休むことなく動いている、
血液を送り出すポンプです。

ただ、動いている状態の心臓にメスをいれ、
切除したり縫合したりするのは非常に困難なので、
心臓を一時的に停止させ、
その間は人工心肺という機械に、
心臓の働きを代用させるのが、
一般的な方法の1つです。
(最近では心臓を動かしたまま、
短時間血液の流れを止めるだけで、
手術を行なう方法も、行なわれていますね)
血液のカリウムが高くなると、
心臓は止まってしまうことが知られているので、
心臓を高カリウムの状態にして、
動きたくても心臓が動けない状態にしてしまう訳です。

よろしいでしょうか。

心臓への処置が終わると、
今度は高いカリウムの状態を正常に戻し、
血液を徐々に身体に戻して行きます。
それから、ペーシングと言って、
心臓に電気的な刺激を与えてやります。
すると、心臓の筋肉は再び動き始める訳です。
これを「再鼓動」と言います。

小説の中では、
手術自体は完璧だった筈なのに、
何故か再鼓動が起こらず、
そのまま患者さんが亡くなってしまう事態が、
連続して起こるのです。

これがもし人為的な犯行だとすれば、
果たしてどういう方法でそんなことが可能なのでしょうか。

小説のトリックはこうです。

(ネタばれです。ご注意下さい)

犯人は手術に立ち会った、麻酔科医です。
彼は硬膜外麻酔のチューブから、
アルコールを注入。
それが脳の下部の細胞を破壊して、
患者さんを死に至らしめます。
硬膜外麻酔というのは、
背中から針を刺して、
背骨の中の髄液の中にチューブを入れ、
そこから麻酔液を注入する方法です。
毒物は髄液から注入されたので、
血液のサンプルにも、
異常は出なかったのです。

以上が小説のトリックの説明ですね。

如何でしょうか?
皆さんはこの説明に納得されますか?

ちょっと変ですよね。

患者さんは、この説明だと、
心臓を停められている間に、
脳死の状態にさせられた訳です。
でも、それは直接は心臓には関係はありません。
脳死の患者さんでも、
人工呼吸器を付けて、
長期心臓の停まらないというケースが、
よく問題になりますよね。
これは要するに、
脳が死んでいても、
心臓は動いてることが有り得る、
ということを示しています。

ですから、心臓はこの状態で、
「再鼓動」しないと言い切ることは出来ないでしょう。
その時の心臓のコンディションによって、
動く場合もあるでしょうし、
動かない場合もあるでしょう。
しかし、小説にあるように、
確実に再鼓動させないために、
脳死の状態にした、
というのはナンセンスですね。

再鼓動するかしないか、
というその瞬間においては、
脳と心臓とは別物と考えるのが、
本当だからです。

よろしいでしょうか。

この小説をテレビドラマ化するにあたり、
スタッフもこの点はおかしい、
と考えたのだと思います。

その証拠にトリックの判明する1つ前の回で、
探偵役と専門家との対話の中で、
「薬物で脳死の状態にしても、
心臓は一旦は動く筈だ」、
という意味合いのことをセリフにしています。

要するに、患者さんを殺すのではなく、
患者さんの心臓を殺さないと、
この事件のような現象は起こらないのです。
この2つは、よく似ているようで、
基本的に意味合いが違います。

そのためにドラマでは、「心臓を殺す」トリックを、
新たに考案しました。
ただ僕の意見では、
こちらもかなり苦し紛れで強引です。

ちょっと長くなりましたので、
テレビの方のトリックについては、
また明日検証します。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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