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毎年胃カメラを受けていて胃癌を見落とされるのは何故か? [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは、今日の話題です。

膵臓癌が治療をしないのに消えた、
という事例が、
よくネットの闘病記などに見受けられます。

ただ、僕が読んだ範囲では、
それは癌ではなく膵炎だった、
というのが事実だと思われます。

膵炎というのは意外に診断が厄介で、
「腫瘤形成性膵炎」というちょっと特殊な用語があるくらい、
癌と一見見分けの付かないような画像所見を、
示すことがあります。

胃癌や大腸癌、乳癌や肺癌の多くなどでは、
癌の組織を直接取って、
診断を確定することが可能です。

しかし、通常膵臓癌や胆嚢癌の場合は、
その癌組織そのものを、
一部分でも手術以外の方法で取ることは困難で、
膵液の中に癌細胞が見付かるくらいがせいぜいです。

皆さんは膵液の中に癌細胞が見付かったのなら、
それは癌で確定だろう、
とお考えになるかも知れません。
ただ、細胞の診断と組織の診断とは、
根本的に意味合いが違います。

癌組織の一部が取れ、
そこで周りの正常な組織に、
暴力的に侵入している像が見付かれば、
これは紛う事無く癌です。
これが組織の診断ですね。
一方細胞の診断というのは、
あくまで変形の強い、
悪そうな細胞がある、
というだけです。
癌の疑いは強いが、
それだけで癌とは言えません。

たとえば、強盗が覆面と拳銃とを持って、
家に押し入った、としますよね。

その押し入った現場を押さえたのが、
組織の診断です。
現に悪事を働いているのですから、
これはもう間違いありません。
現行犯逮捕です。
しかし、押し入る前の強盗を、
何処かの街角で捕まえたとしますよね。
これが細胞の診断です。
覆面をして、拳銃を持っているのですから、
強盗であることは間違いなさそうですが、
ひょっとしたら、
ただの変な趣味の人かも知れません。
その人は、
ひょっとしたら怪しい格好をしているだけで、
悪さはしないかも知れないのです。

膵臓癌については、
手術前に組織の診断は出来ないので、
外科の医者は、
「疑わしきは癌とする」という考え方で、
手術を患者さんに勧めるのです。
その話を聞いた患者さんは、
通常は癌を診断された、と考えます。
しかし、その時点ではせいぜい細胞の診断しかない訳です。
でも、炎症は細胞を変化させます。
それが癌の疑いと判断されることは、
決して稀なことではありません。
時にはそれさえはっきりしなくても、
画像のみで手術に踏み切ることもあります。

従って、
手術しなくて癌が消えた、
というのは膵臓癌に関しては、
ほぼ間違いなく膵炎を観察していたのだ、
と僕は思います。

勿論これは僕の個人的な考えです。
信じておられる方のお気持ちを否定するつもりはありませんので、
その点誤解のないように、
読んで頂ければ幸いです。

癌の診断についての話題をもう1つ。

以前の記事で診断の困難だった胃癌の事例をご紹介しました。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-08-23

早期胃癌という書き方をしましたが、
これは所謂スキルス胃癌の、
ごく初期の状態だったのではないか、
という印象を持っています。
胃の表面に潰瘍があって、
その周辺の組織の検査で、
癌細胞が検出されましたが、
潰瘍自体は良性のものでした。
癌は粘膜の下に、
結構な広がりを持っていたのです。

同様のケースで、
近隣のある大学病院で、
胃癌が見落とされていた例を、
少なくとも3例は知っています。
いずれも繰り返す潰瘍があり、
胃は変形していました。
定期的に胃カメラの検査をしていたのですが、
表面の潰瘍の部分には癌の細胞はなく、
良性であったので、
全て良性であると誤認したのです。

実際には胃の変形は潰瘍のためではなく、
粘膜の下に広がるスキルス癌のためだったのです。
毎年定期的に胃カメラをしていて、
却って気付かなかったのです。
患者さんは体調が悪いことを主治医に訴えても取り合ってもらえず、
結局他のむしろ小さな病院を受診して、
診断が付きました。
その時点で全身に転移していたのです。
大学病院の主治医は、
そのことは知らず、
見落とした自覚も持ってはいないと思います。
患者さんは「あの病院には絶対伝えて欲しくない」、
と言われたからです。

こうした事例では、
バリウムの検査を比較観察することが、
おそらく診断に有用です。
僕が取り上げた事例も、
最初はバリウムで異常が指摘されたのです。

胃カメラばかりが胃の検査の主流になり、
却ってこの種の見落としは、
増えているのですね。
ことスキルス胃癌については、
胃カメラだけの検診では、
見落とす可能性が結構あるのです。
ただ、胃カメラの検査でも、
定期的に詳細な観察をしていれば、
以前にないふくらみの悪さなど、
「おかしい」と気付く感性が、
早期発見のきっかけとなるのですね。
手前味噌になりますが、
そうした診断については、
診療所はある程度の自信を持っています。

今日は癌の診断あれこれ、
という感じでお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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