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「ナルコレプシー」の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは、今日の話題です。

今日は睡眠障害の中で、
最近病態の解明が一気に進んだ、
「ナルコレプシー」の話です。

「ナルコレプシー」は覚醒の異常です。

夜は充分寝ているのにも関わらず、
所謂「居眠り」を繰り返します。
通常眠くなるような状況ばかりではなく、
試験の最中とか、
歩いている時にも耐え難い眠気が襲い、
その場で眠り込みます。
眠りは10~20分くらいの短時間で目覚め、
目覚めは爽やかですっきりしています。

それから強い感情の動きをきっかけとして、
急に身体の力が抜けるような、
一種の発作を起こします。
これはまあ、この病気でない人にも、
軽くはありますよね。
大笑いすると、
がくっと膝が抜けたりすることがあるでしょう。
あれと同じです。
ただ、この病気の方の場合には、
症状が頻繁に起こります。
これを、「情動脱力発作」と言いますね。

また、睡眠に入るばんやりとした時に、
誰かが部屋の中に入って来る、
などの幻覚が見え、
それは「金縛り」を伴います。
これを「入眠時幻覚」と言います。

「ナルコレプシー」は通常10代で発症します。
日本人に多い病気です。
学童期に居眠りが始まるので、
「だらしがない」とか「怠けている」などと、
誤解されることも多いのですね。

原因は長く不明でした。
20世紀の初め頃から、
脳の視床下部の後部に異常があるのでは、
という説があり、
その後「レム睡眠」は脳幹で調節されることが分かって、
今度は脳幹の異常では、
とも言われました。

1970年代に犬にも「ナルコレプシー」がある、
ということが分かり、
犬の「ナルコレプシー」は遺伝性のものだったので、
その遺伝子の異常が詳細に調べられました。

その結果、1999年に犬の「ナルコレプシー」は、
脳の神経伝達物質の1種、
「オレキシン」の受容体の異常であることが分かったのです。

この知見を元に、
人間の髄液の中のオレキシンの濃度を調べた所、
何と90パーセントの事例で、
オレキシンの濃度が著明に低下していたのです。

更に2005年には日本の研究者の手によって、
視床下部にオレキシンの含まれる神経ネットワークと、
それが「ナルコレプシー」では脱落していることが証明され、
「ナルコレプシー」の原因は、
「オレキシン」の欠乏が原因であることが、
立証されたのです。

これはね、かなり画期的なことなんです。
睡眠障害の原因の1つが、
簡単に特定可能とは、
誰も考えてはいなかったからです。
しかも単独の遺伝子異常のようなものではないんですからね。

ここから分かったことが幾つかあります。
オレキシンが伝達物質として働く、
視床下部を中心とした神経の繋がりが、
人間を覚醒させるのに、
重要な働きをしている、
ということですね。
この働きが低下すると、
人は起きていることが困難になり、
また「レム睡眠」に入り易くなります。

従って、「ナルコレプシー」は、
「レム睡眠」の過剰になる病気でもあるのです。

「入眠時幻覚」や「情動脱力発作」は、
まだ起きた状態のまま、
「レム睡眠」に部分的に入ることによって起こる症状です。

「レム睡眠」とは、
情動と睡眠とを掛け渡す橋のようなものです。
この部分の解明が進めば、
通常の不眠症やうつ病、
不安障害の原因の解明にも、
結び付くことになるのだと思います。

たとえば「ナルコレプシー」の治療に、
3環系の抗うつ剤が使われますが、
これはこの薬剤が、
「レム睡眠」を抑える効果があるからです。
精神科や心療内科で使われる薬剤の殆どは、
「レム睡眠」に何らかの影響を与えます。

うつ病の治療中に、
睡眠のリズムが崩れ、
昼間の眠気のコントロールが、
困難になることがよくあります。
こうしたケースは、
単純に抗うつ剤の副作用によるものと考えられがちですが、
僕は最近、睡眠の質に関わる、
何か別の要因によるものではないか、
と考えているところです。

それでは今日はこのくらいで。
明日も睡眠異常に関わる話題をお届けします。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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