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「レビー小体型認知症」の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は途中で事故に遭遇して、
今さっき診療所に着いたところです。
書類は山積みで予定は滅茶苦茶です。

酸化マグネシウムの使用で、
高マグネシウム血症を起こし、
死亡例があった、
との報道がありました。
元になったのは、厚生労働省の発表です。
一通り目を通しましたが、
内容にはちょっと疑問があります。
その点については、
来週でも話題にしたいと思います。

それでは、今日の話題です。

まず、症例をお示しします。

Nさんは60代の男性です。
長く勤めて来た役所を60歳で退職すると、
経理の知識を生かして、
社会貢献を目的とした、
ボランティア活動を始めました。

子供は2人いましたが、
娘さんが2人で、
2人とも結婚して家を出ていて、
家には奥さんと2人暮らしでした。

ボランティアの仕事はそれまでとは勝手が違っていました。
人間関係が複雑で、
責任も大きく圧し掛かります。
最初は意欲満々のNさんでしたが、
次第に家でも元気がなくなり、
「疲れた」と口にするようになります。
それから、夜は眠りが浅くなり、
頻繁に寝言を言ったり、
寝ながら、手を振り回したりするようになります。
新聞を読んでいて、
そのままぼんやりとしているようなことも、
頻繁にあります。

心配になった奥さんは、
Nさんを病院に連れて行きます。
診察した心療内科の医師は、
「うつ病」と診断します。
「慣れない仕事の重圧で疲れが出たんでしょうね」、
と言います。
それで、うつの薬が処方されました。

薬を始めてから、Nさんは少し楽になったように見えました。
ただ、ぼんやりとすることは、
却って多くなったような気もします。
寝言で長く喋るのも相変わらずです。

それからしばらくしてからです。
Nさんはある夜、
急にトイレに行く途中で転び、
足に力が入らなくなって、
歩行困難な状態になります。
奥さんはすぐに救急車を呼び、
病院に運ばれます。
担当医は脳梗塞を疑いますが、
検査をしても特に異常はありません。
取り敢えず経過観察のため入院となりましたが、
普通に歩ける状態に回復したため、
翌日には退院となりました。
脳のMRI ではやや大脳の萎縮が目立ちましたが、
特に異常というほどではありません。

その頃からNさんは物忘れが酷くなり、
「知らない子供がそこに座っている」などと、
おかしなことを言うようになります。

Nさんは奥さんに連れられて再度病院を受診し、
そして遂に診断が付きました。

これが、「レビー小体型認知症」です。

1978年に初めて報告され、
1995年に診断基準が国際的に決められました。
60代以降に多く、
うつ症状や意識が急にぼんやりしたり、
リアルな幻覚が見えたりするのが、
比較的初期に多い徴候です。

レビー小体と言われる蛋白質が、
脳に沈着するのがその原因ですが、
それが何故であるのかは、
まだ分かっていません。
アルツハイマー型認知症と似ていますが、
後頭葉に沈着が多いのがその特徴で、
そのために視覚の異常が出易いのです。

もう1つの特徴は「レム睡眠」の異常ですね。
Nさんが急に歩けなくなったのは、
起きている時に「レム睡眠」が出現したための、
一種の「レム睡眠行動障害」なのです。
寝言が多いのは、
他の症状の出る前に、
初期の徴候として重要だと言われています。

根本的な治療はまだありませんが、
アルツハイマーに用いる、
アリセプトが一定の効果があるようです。

この病気の問題点は、
初期には診断が難しく、
他の病気と誤診されることが、
非常に多いということですね。
Nさんの例では、
うつ病と脳梗塞と間違われたのですが、
それ以外にも、
幻覚から統合失調症と誤診されたり、
てんかんや心臓病と間違われることもあります。

症状の詳細な検討が、
常に必要とされる所以ですね。

今日は第3の認知症と言われる、
「レビー小体型認知症」の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

アンまま

初めてコメントさせていただきます。ちょっと古いブログですが気になった話に立ち寄りました。
レビー小体型認知症・・・はもしや家の義母さんもか?と。実は数年前から幻視らしい症状と睡眠障害(眠りが浅く、夜中に両手を上げてグッパーグッパーしていたり・・・)ここ数年の間で進行し、一年前から歩行が不安定で小刻み歩行、振戦、仮面用顔貌などパーキンソン病を疑うような症状が出始めました。昨年12月に近くの中核病院の神経内科を受診しましたが、その時使用していたセレネースによる薬剤生のパーキンソン症候群とのことで薬剤をリスパダールに変更しました。現在アリセプトと抑肝散、リスミーの内服で安定していましたが、先日尿管腫瘍で手術をし、術後ますます変になってしまいました。
昨日退院したのですが、さっきまで「靴下を履き替えに男の人が来るって言ってるけど、まだ来ない・・・」と。目はうつろで、呂律は回らず、自宅にいるのもわかりません。家族みんな困り果てています。
by アンまま (2009-05-03 22:21) 

fujiki

アンままさんへ
症状の経過を拝見すると、
レビー小体型認知症の可能性は、
かなり高いのではないか、と考えられます。
パーキンソニズムと幻視、
認知症症状とレム睡眠行動障害とが、
揃っているのですから、
むしろかなり典型的なケースではないかと思います。
ただ、治療は残念ながら、現時点では、
アリセプトや抗精神病薬、抗うつ剤などを、
適宜組み合わせて使用する、
というもので、診断が変わっても、
あまり治療自体は変わらないというのが実情です。
今度主治医を受診された時に、
その可能性についてお聞きになってみたら、
如何でしょうか?
by fujiki (2009-05-04 08:40) 

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