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前立腺癌の治療法毎の長期予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
前立腺癌の長期予後.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年3月11日ウェブ掲載された、
前立腺癌の長期予後についての論文です。

前立腺癌は高齢男性に多く、
予後の良い癌として知られています。

PSAという血液検査でスクリーニングすることにより、
初期の前立腺癌が発見される機会が増加しましたが、
その一方で局所に留まる前立腺癌は、
その生命予後は非常に良く、
特に高齢者に多い癌と言うこともあって、
前立腺癌が存在したとしても、
結果としてそのために死亡する人は、
極少数に留まるということが次第に分かって来ました。

そのため、PSA検査で前立腺癌が疑われる数値であっても、
すぐに積極的な生検などの検査は行わず、
定期的に健康観察とPSAチェックを施行して、
経過をみるという選択肢も合理性を持つようになりました。

イギリスにおいて、1999年から2009年に掛けて、
50から69歳の男性82429名にPSAを測定し、
その後の経過を観察するという、
大規模な前立腺癌についての臨床試験が施行されました。

当時の一般的な方針として、
基準値を上回ったほぼ全例に、
肛門から針をさせて組織を採取する、
前立腺生検が施行され、
その結果3.2%に当たる2664名に病変が前立腺組織内に留まる、
局所の前立腺癌が見つかりました。

臨床試験においては、
そこで患者さんをくじ引きで3つの群に分けます。
最初の群はすぐに治療は施行せず、
PSAを最初の1年は3か月毎、それ以降は半年から1年毎に測定して、
その数値が50%以上増加するか、
それ以外の臨床所見から癌の進行が疑われる時のみ、
治療を検討するという、
積極的監視療法(active monitoring)で、
2番目の群は前立腺を摘出手術する手術治療群、
この場合癌の周辺への浸潤が否定出来ないケースでは、
放射線療法が併用されています。
最後の群は放射線治療を行う放射線治療群で、
3から6か月の男性ホルモンを低下させるホルモン療法が併用されています。

治療群への振り分けは1643名が対象となり、
545名が積極的監視群、553名が手術群、545名が放射線治療群です。

今回のデータはその治療後15年という、
長期予後を検証したものです。

対象患者のうち98%に当たる1610名が最終的に解析されています。
患者の21.7%が15年の間に死亡していますが、
前立腺癌による死亡は2.7%でした。
群毎の前立腺癌による死亡率は、
積極的監視群で3.1%、手術群で2.2%、放射線治療群で2.9%でした。
病変の進行が認められたのは、
積極的監視群で25.9%、手術群で10.5%、放射線治療群で11.0%でした。

このように、
局所の前立腺が診断されても、
適切な経過観察や治療を行えば、
その癌によって亡くなる人は15年で3%未満です。
治療を行った方が確かに癌の進行は抑えられますが、
治療をせず観察のみを行っても、
適切に医療介入が可能な環境を維持すれば、
3分の2の患者さんは何もなく天寿を全うする可能性が高いのです。

この試験が施行された時点と比較すると、
MRI検査などによるリスクの高い事例の絞り込みにより、
不要な生検は減少していると想定されます。
イギリスでは現状PSA検診は事例を絞って施行し、
疑い事例においてはMRI検査による絞り込みが、
積極的に行われているようです。

日本では検査を希望される人が多いという環境もあって、
PSA検査を施行する対象の絞り込みや、
適切なリスクについての説明、
二次検査におけるMRI検査の施行などは、
まだ乖離があるように思いますし、
ガイドラインには記載はされていても、
二次検査については専門医の判断に委ねられている部分が大きく、
医療機関によっても対応には差があるようです。

今後より科学的データを元にしてガイドラインが整備され、
適切に検査や治療、観察が施行されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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