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「イニシェリン島の精霊」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
イニシェマン島の精霊.jpg
大好きな劇作家で映画監督のマクドナーの新作が、
公開されたのですぐに映画館に足を運びました。

前作の「スリー・ビルボード」は傑作でしたが、
マクドナーとしては、
かなりアメリカ映画に寄せて、
自分なりのアメリカ映画を作った、
という感じの作品でした。

今回の映画はホームグラウンドのアイルランドが舞台で、
アイルランドのアラン諸島を舞台とした、
アラン諸島3部作という戯曲のうち、
未上演に終わった「イニシア島のバンジー」を、
おそらく再構成して映画化したもののようです。

従って、映画ではあるのですが、
演劇に近いタッチの作品になっていて、
良くも悪くもマクドナーの特質である、
ブラックユーモアと即物的な残酷さ、
異形な登場人物や悪意に満ちた展開が、
堪能出来る作品となっている一方で、
マクドナーの演劇がどのようなものかを知らない人には、
ややハードルの高い映画になっているように思います。

マクドナーのアラン諸島3部作は、
「ウィー・トーマス(イニシュモア島の中尉)」が、
1990年代のイニシュモア島が舞台で、
「イニシュマン島のビリー」が、
1930年代のイニシュマン島が舞台です。
今回の映画は1920年代のイニシェリン島が舞台なので、
一番古い時代を描いています。
「イニシュマン島のビリー」の主人公のビリーは、
身体に障害を持ち、知能も高くはない青年ですが、
この設定は今回の映画でバリー・コーガンが演じる、
キアリーという役柄にに投影されています。

この映画はコリン・ファレル演じる、
出来の良い妹に寄生するようにして生きている、
島で無為な生活を送る中年男が、
ブレンダン・グリーソン演じる、飲み友達で、
おそらくは高名な音楽家の老人から、
ある日突然「お前とは友達を辞める」と言い渡されるところから始まります。

非常に唐突で、
これまでのドラマには、
あまりなかったタイプの導入部です。

その小さな架空の島には、
マクドナー作品ではお馴染みの、
異形な登場人物達がひしめいているので、
当然この些細な出来事は、
そのまま収束するようなことはなく、
狂気と絶望と黒い笑いに満ちた修羅場になってゆきます。

時代設定はアイルランドの内戦の時代で、
その時代の空気が架空の離れ小島にも反映され、
世代も出自も違う2人の不毛な対立は
不毛に戦う人間達の心理の綾を、
それ自体投影しているようにも思われます。

ただ、マクドナーのこれまでの戯曲の優れたものでは、
ラストの構成に妙味があって、
最初は不条理に見えた人間関係の裏にある真実が、
露わになるような瞬間が用意されているのですが、
この映画ではそうしたカタルシスはなく、
全ては伏せられたままで終わります。

老人が中年男と絶縁した理由が、
本人が言うように「お前が退屈だからだ」、
というものではないことは明らかです。
何故コリン・ファレル演じる主人公は、
島で妹と2人で暮らしているのでしょうか?
障害のある青年の出生にはどのような秘密があるのでしょうか?
マクドナーのこれまでの作品から考えて、
今回の作品でもそうした疑問の答えは、
用意した上でこの作品が作られていることは確かだと思います。
ただ、今回の映画については、
そうした構成を一旦なしにして、
人間のちょっとしたボタンの掛け違えから生じる、
不毛な対立の末路を、
冷徹に見つめることに終始したように思います。

そんな訳で、マクドナー好きの方以外には、
今回はあまりお勧めは出来ない作品なのですが、
映像を含めて作品のクオリティは非常に高く、
鑑賞後のモヤモヤは承知の上で、
楽しめる方には一見の価値はある作品だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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