5α還元酵素阻害剤と勃起不全との関連について

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。

今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
前立腺肥大症や男性型脱毛の治療薬と、
性欲低下や勃起不全との関連についての論文です。

男性の脱毛も前立腺肥大症も、
ともに男性ホルモンによる刺激が、
その進行に影響することが分かっているので、
その治療薬として、
局所の男性ホルモン作用を、
ブロックするような薬が治療薬として使用されています。

それが５α還元酵素阻害剤です。

5α還元酵素は、
主に男性ホルモンのテストステロンを、
より作用の強い代謝産物である、
ジヒドロテストステロンに代謝する酵素で、
1型と2型の2つの種類があります。

このうち1型は全身の皮脂腺などに分布し、
2型は前頭部の皮膚や前立腺などに限局して発現している、
とされています。

この酵素をブロックすることにより、
局所の男性ホルモンの作用が減弱します。

その作用を利用した薬が、
5α還元酵素阻害剤です。

何故男性ホルモンの作用を、
弱めるような薬のニーズがあるのかと言えば、
その目的は主に2つです。
その１つは男性ホルモン反応性の組織である前立腺が、
病的に肥大する前立腺肥大症の治療で、
もう1つは男性型の脱毛症の治療です。

現在日本で使用されている5α還元酵素阻害剤には、
フィナステリドとデュタステリドの2種類があります。
このうちフィナステリドは、
1日最大で1ミリグラムという低用量で、
男性型脱毛症の治療薬として使用されています。
商品名はプロペシアなどです。
このフィナステリドは酵素の2型のみの阻害剤です。
一方のデュタステリドは、
より効果が強く1型と2型両方の酵素の阻害剤で、
1日0.5ミリグラムで前立腺肥大症の治療薬として使用され、
今年になって男性型脱毛症にも適応が拡大されました。
前立腺肥大症の治療薬としての商品名はアボルブで、
脱毛症の治療薬としてはザガーロです。

さて、
この薬は直接的に男性ホルモンを低下させる、
という訳ではないのですが、
局所の男性ホルモン作用を抑制するというメカニズムからして、
性欲低下や勃起不全が副作用として生じることは、
開発当時から想定はされていました。

ただ、実際にどの程度の頻度でそうした副作用や有害事象が生じるのか、
というような具体的な事項については、
意外にわかってはいませんでした。

確かに市販前の臨床試験などにおいては、
性欲低下などが少なからず報告されていますが、
自己申告の性質のものなので、
そのすべてが薬によるものとは言い切れません。

一方で症例報告などでは、
こうした薬の使用により、
持続的な勃起不全が生じ、
当該薬剤を中止しても、
その症状は改善しなかった、
というような男性には恐怖を感じさせるようなものもあります。

限定された臨床試験ではなく、
実際の処方において、
どの程度の比率で性欲低下や勃起不全が生じるのかを、
科学的に検証したデータが求められていたのです。

今回の研究はイギリスにおける、
大規模な医療データを活用して、
5α還元酵素阻害剤の男性での処方データと、
性欲限定や勃起不全の診断との関連を検証しているものです。

対象は40歳以上で良性の前立腺肥大症に対して、
フィナステリドとデュタステリド、
そしてα遮断剤が処方されているケース、
そして18から59歳の男性型脱毛に対して、
フィナステリドの1mgが使用されているケースを、
それぞれ未使用の患者さんと比較しています。

まず、良性の前立腺肥大症の患者さん、
トータル71849名の解析では、
α遮断剤のみを使用されている場合と比較して、
5α還元酵素阻害剤の単独使用群と、
5α還元酵素阻害剤とα遮断剤の併用群のいずれにおいても、
有意な勃起不全のリスクの増加は認められませんでした。

そして、どの薬剤を使用しているかには関わらず、
長期間前立腺肥大症に罹患していると、
それが単独で勃起不全のリスクになっていました。

次に男性型脱毛の患者さん12346名の解析でも、
フィナステリドの使用と勃起不全との間には、
有意な関連は認められませんでした。

これははっきり病気として診断された勃起不全に限った話ですが、
前立腺肥大症への使用においても、
男性型脱毛の対する使用においても、
少なくともフィナステリドの常用量の使用は、
勃起不全に明確な影響を与えることは、
ない可能性が高いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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