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喫煙者では何故肺炎の死亡率が低いのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
タバコによる肺炎予後改善のメカニズム.jpg
今月のChest誌に掲載された、
喫煙者と非喫煙者では、
肺炎の予後に差があるという現象について、
その要因を分析した論文です。

喫煙が慢性の肺の炎症などの原因となり、
また肺の機能低下の原因となることは、
広く知られた事実です。

その一方で、
疫学データでは、
喫煙者の方が非喫煙者よりも、
肺炎の死亡率は低い、
という不思議な現象が複数報告されています。

肺炎にはタバコを吸っている方が罹り易いのですが、
重症の肺炎で死亡する頻度について見ると、
喫煙者の方が低いのです。

何故このような現象が起こるのでしょうか?

上記論文の著者らは、
細菌性の肺炎として頻度が高い肺炎球菌性の肺炎において、
その血清型のうち、
死亡リスクの低い軽症型の感染が喫煙者では多いので、
それが喫煙者の死亡リスクの低下に繋がっているのでは、
という仮説の元に、
その検証を行なっています。

血液中に細菌が確認される菌血症性の肺炎球菌による肺炎は、
予後の悪い重症の病態とされていますが、
カナダにおいてこの菌血症性の肺炎球菌による肺炎に罹患して入院した、
18歳以上の1636名のデータを抽出して、
まず患者の喫煙の有無と生命予後との関連を検証し、
それから肺炎球菌の血清型の違いと、
喫煙との関連を検証しています。

肺炎球菌の血清型については、
重症型が「3、6A、6B、9N、19A、19F、23F」、
軽症型が「1、4、5、7F、8」、
と定義されています。

その結果…

対象者の平均年齢は54歳で、
57%が男性、喫煙者が49%で、
肺炎球菌の血清型は41%が軽症型でした。

喫煙者809名のうち8%に当たる62名が死亡し、
その一方で非喫煙者827名中では、
20%に当たる164名が死亡していて、
喫煙者は非喫煙者と比較して、
48%有意に死亡リスクは低下していた、
という結果でした。

喫煙者での軽症型の感染比率は53%であるのに対して、
非喫煙者のそれは29%と低くなっていました、

ただ、この血清型の違いを補正して算出しても、
矢張り喫煙者であることは、
肺炎球菌による菌血症性肺炎の、
死亡リスクを低下させる独立した要因であることが確認されました。

つまり、
喫煙が肺炎球菌による重症肺炎の死亡率を、
低下させる要因であることは間違いがなく、
その一部は肺炎球菌の血清型の違いで説明可能であるけれど、
その全てはそれでは説明出来ない、
ということになります。

勿論、
トータルに見れば喫煙者の死亡リスクは、
非喫煙者より高いのですから、
だからタバコを吸った方が良い、
という結論には当然ならないのですが、
喫煙はある種の病気の罹患率を減少させたり、
重症化を予防したりすることもあるのは、
どうやら間違いのないことで、
喫煙は「絶対悪」であるという思考停止に陥ることなく、
こうした事実についても、
冷静な検証が行われるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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