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フルチカゾンと併用時のサルメテロールのリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アドエアのリスク(NEJM).jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
喘息治療薬のリスクについて検証した論文です。

気管支喘息治療の基礎薬は、
吸入ステロイド剤であることは、
多くの精度の高い臨床試験において、
確立されている事実です。

ただ、吸入ステロイドのみでは、
喘息の発作を充分には抑えられないこともしばしばあり、
その場合に使用される薬の1つが、
LABAと略称される、長時間作用型のβ2刺激剤です。

β2刺激剤というのは、
気管支拡張剤で、
カテコラミンのβ2という受容体を、
選択的に刺激することにより、
その気管支拡張作用をあらわします。

この薬は現状最も強力な気管支拡張剤なのですが、
若干ながら心臓の交感神経も刺激することから、
心臓に負担を掛ける可能性が以前から指摘されて来ました。
ただ、比較的新しい薬については、
その刺激作用は理屈の上では殆どなくなり、
またLABAと呼ばれる長期作用型の薬については、
1日を通して安定した気管支拡張作用が得られ、
身体への負担も少ないと考えられました。

喘息の治療のガイドラインにおいて、
第一選択は吸入ステロイド剤ですが、
それでコントロールが不充分な場合には、
LABAを併用することが推奨されています。

薬剤には幾つかの種類がありますが、
グラクソ社が販売しているサルメテロール(商品名セレベント)は、
代表的なLABAの1つで、
吸入ステロイドのフルチカゾンとサルメテロールの合剤は、
アドエアという商品名で、
喘息治療に幅広く使用されています。

ところが…

このサルメテロールについては、
その後の大規模臨床試験において、
有害事象の危惧が指摘されています。

アメリカのFDAの指示の元に行われた、
SMARTと題された26000人規模の臨床試験と、
イギリスで施行された、
SNS試験と題された25000人規模の臨床試験において、
偽薬と比較してサルメテロールを使用した群では、
喘息による死亡が有意に多い、
という結果が報告されたのです。

ただ、その一方で吸入ステロイドに上乗せして、
サルメテロールを使用した臨床試験においては、
上乗せにより喘息の急性増悪が抑制された、
という結果が報告されています。

一体どちらが正しいのでしょうか?

問題はSMARTもSNS試験も、
いずれもサルメテロール単独の効果を検証していて、
全例において吸入ステロイドが充分量使用されている、
という訳ではありません。

サルメテロールによる有害事象に対して、
充分量の吸入ステロイドが防御的に働くという考えがあり、
その意味から、
フルチカゾンに上乗せした場合のサルメテロールの安全性を検証する、
大規模臨床試験の実施が、
FDAからも強く要請されていたのです。

今回の臨床研究は、
そうした背景でグラクソ社の主導の元に行われたもので、
対象は12歳以上の年齢の慢性の喘息患者、
トータル11679例です。
(より年齢の低い小児の試験も別個に行われていますが、
まだ発表には至っていません)

対象者の条件としては、
登録前の1年間に、
喘息の急性増悪による入院などの既往があることで、
登録の1ヶ月以内にそうした急性増悪があったり、
生命に関わるような発作を来たしたようなケースは除外されています。

患者本人にも主治医にも分からないように、
ステロイドのフルチカゾンの単独の吸入と、
サルメテロールとの合剤の吸入にくじ引きで分け、
26週間の経過観察を行なっています。

その結果…

観察期間中の死亡と発作による気管挿管、
そして入院の発症リスクには、
両群で明確な差はなく、
急性増悪のリスクは、
サルメテロールの上乗せにより、
21%有意に減少していました。

つまり、これまでの結果とは異なり、
フルチカゾンにサルメテロールを上乗せした場合には、
死亡リスクなどの予後の悪化は生じない、
という結果です。

ただし…

この試験においては、
これまでに命に関わるような発作を起こした患者は、
対象から除外をされています。
つまり、比較的安定した患者さんを対象としているのです。
それでいながら、
効果判定においては、
命に関わるような重篤な発作などのリスクを比較しているので、
試験においてはそうした重篤な症状の発症は少なく、
かなり意図的に良い結果を出そうとした、
という可能性が否定出来ません。

本当に問題となるのは、
むしろ命に関わるような重篤な発作を、
起こし易いような患者さんであるからです。

従って、今回の試験から分かることは、
敢くまで安定した患者さんにおいては、
フルチカゾンにサルメテロールを上乗せすることは安全で、
一定の急性増悪の予防効果が期待出来る、
ということに限定されるべきであるように思います。

今後も小児のものを含めて、
複数の臨床試験が進行中なので、
その結果も注視したいと思いますし、
重症の発作を起こし易い不安定な喘息の患者さんに対しては、
LABAの使用には一定のリスクのある可能性があると、
現状は捉えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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