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肥満と死亡リスク(2016年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
BMIと死亡リスクBMJ.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
BMIという数値で見た肥満の程度と、
死亡リスクとの関連についての論文です。

過体重や肥満が、
糖尿病や心血管疾患、痛風や胆石症、膝関節症など、
多くの慢性の病気の原因や悪化因子になることは、
一般にも良く知られた事実です。

このため、
肥満している人には、
適切なダイエットで体重を減少させることが求められます。

ただ、それではどのくらいの肥満が、
そうした健康影響を及ぼし、
理想的な身長と体重のバランスは、
どのくらいであるべきなのか、
と言う点については、
それほど明確な基準が確定している、
という訳ではありません。

そもそも、過体重や肥満は、
世界的に増加し続けている訳ですが、
その一方で病気の発症率や死亡率は、
それに伴うような増加を示しているという訳ではありません。

過体重や肥満の評価は、
BMIという数値で評価されるのが一般的です。

これはキログラム単位の体重を、
メートル単位の身長で2回割り算した数値で、
これまでの多くの疫学データでは、
この数値が20、もしくは22.5から24.9の間が、
慢性の病気や死亡のリスクが、
最も低いと報告されています。

国際的な基準としては、
BMIが18.5から25未満が標準体重で、
25から30未満が過体重、
30以上を肥満とすることが一般的です。
日本ではBMI22を標準体重とする判断が、
多く行われています。

しかし、その標準体重の根拠を揺るがすようなデータが、
2013年に発表されました。
それがこちらです。
BMIと死亡リスクJAMA.jpg
この2013年のJAMA誌の論文は、
これまでの臨床データをまとめて解析したものですが、
BMI18.5から25未満を正常として比較した場合に、
25から30未満の過体重の総死亡のリスクは0.94(0.91から0.96)、
30以上全てで解析した場合の肥満の総死亡のリスクは1.18(1.12から1.25)、
と過体重はむしろ死亡リスクが標準体重より低いという結果になっています。
更には肥満を幾つかのグループに分けて分析すると、
BMI30から35未満のグループでの総死亡のリスクも0.95(0.88から1.01)で、
35以上の肥満で1.29(1.18から1.41)と、
要するに明確に総死亡のリスクが標準体重と比較して増加していたのは、
BMI35以上の時のみであった、
というビックリするような結果でした。

勿論個々の慢性疾患のリスクは、
これとは別個の分布を示すので、
これは敢くまで総死亡のリスクのみの解析ですが、
この結果からは、
BMI35以上という、
日本人からすると「超肥満」の方以外は、
ダイエットをする必要はそれほどない、
ということになってしまいます。

これは本当に正しいのでしょうか?

この結果は問題があるのではないか、
という批判が多く寄せられています。

まずBMIの分類が上記のもの以外を使用している、
疫学データは除外されているので、
精度の高い疫学データの多くが、
実際には除外されてしまっています。

また、喫煙の有無は死亡リスクに大きく影響するので、
その可能性をどう勘案するかが問題になるのですが、
その点についても2013年のデータは詰めが甘いのではないか、
という指摘があります。

そこで今回の研究では、
基本的には同じ検証を、
より広くデータを収集して解析すると共に
喫煙の影響や観察期間の長さなどの要因も、
より厳密に検証しています。

230のコホート研究をまとめて解析し、
非喫煙者9976077名、
トータルで30233329名のデータが対象となっています。

その結果…

総死亡のリスクが最も低かったのは、
非喫煙者ではBMIが23から24の範囲で、
非喫煙で病気のない人では22から23の範囲で、
更に20年以上観察した非喫煙者のデータでは、
20から22の範囲になっていました。

20年以上という長期の経過観察を行なったデータのみの解析では、
基本的にはBMIが低い方が総死亡リスクが増加する、
という傾向は認められないのですが、
特に短期間(5年以内)の観察期間で喫煙者を含むデータでは、
総死亡とBMIとの関係はUの字型となり、
BMIが低い範囲と高い範囲の双方で、
総死亡のリスクは増加するパターンを示しました。

つまり、
病気の人を含んでこうした疫学データを取ると、
病気の進行により衰弱は進行して体重も低下するので、
BMIが低くて観察期間中に死亡する人が増え、
それに引きずられるように、
BMI増加による死亡リスクの増加は、
ある程度打ち消される結果になってしまうと考えられるのです。
喫煙者も病気になるリスクは高いので、
経過観察中にその病気のために死亡するリスクは高くなります。
喫煙者は肥満者が少ないので、
喫煙者を含むと、
より低体重のリスクが高くなります。

その点、喫煙者を除外して、
20年以上という長期間の観察を行なうと、
肥満以外の原因による死亡者の比率が相対的に少なくなるので、
よりBMIと死亡リスクとの関連が、
検証され易くなるのだと考えられます。

今回のデータが絶対とは勿論言い切れないのですが、
その分析には納得のゆく部分が多いと思います。

つまり、
慢性の病気がなく喫煙もしていないことを前提とすると、
BMIは20代前半が最も将来的な健康のためには良いのです。
ただ、喫煙などのリスクがそこに上乗せされると、
BMIの影響は相対的にはそれほど問題はないことになるので、
そうした傾向ははっきりしないものに統計上はなるのですが、
目標として設定するBMIについては、
矢張り20代の前半とするのが妥当だと考えられるのです。

BMIについては、
今月のJAMA誌にも、
年代によって病気のリスクが少ないBMIは異なる、
という報告があり、
機会があればまたこれについても触れたいと思いますが、
この問題はまだまだ議論が尽きないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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