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両側副腎皮質大結節性過形成を片側副腎切除で治療する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診です。
ただ、老人ホームの往診には出掛ける予定です。

明日の診察は通常通りで、
午前中は石田医師が担当し、
午後は石原が担当する予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
両側クッシング症候群を片側切除で治療する.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
両側に病変のある副腎の病気を、
片側のみの治療で様子をみよう、
というちょっと面白い発想の論文です。

クッシング症候群という病気があります。

これはコルチゾールというステロイドホルモンが、
過剰に分泌されることにより、
中心性肥満や高血圧、糖尿病など、
様々な症状を来す病気です。

ステロイド剤の副作用、
というようなことがよく言われます。

これは主にプレドニンなどの名称の、
合成のステロイドホルモンを大量に長期間使用した場合に、
身体に起こる症状のことですが、
それと同じことが体内で分泌されるステロイドにより起こるのが、
クッシング症候群という病気なのです。

このクッシング症候群の原因は、
身体の腎臓の上にある小さな腺組織である、
副腎という場所から、
コルチゾールが過剰に分泌されることです。

このステロイドは当然身体にとって必要なので、
分泌されているのですが、
それが正常の何倍や何十倍という量、
過剰に分泌されることにより、
病気の原因となるのです。

それでは、
何故コルチゾールは過剰に分泌されるのでしょうか?

脳の下垂体前葉という場所から、
ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌されています。
このACTHが血液に乗って副腎に運ばれ、
副腎にあるACTHの受容体に結合すると、
その刺激により副腎からコルチゾールが分泌されます。
このコルチゾールが過剰になると、
それが下垂体や視床下部に信号を送るので、
ACTHが抑制されて、
コルチゾールの分泌も止まるのです。

これが正常の場合です。

クッシング症候群では、
大きく2つの原因により、
この調節メカニズムが崩れます。

その第一は副腎にしこりが出来て、
そのしこりの細胞が自分で勝手にホルモンを作るような能力を持ち、
ACTHの刺激がなくても、
じゃんじゃんホルモンを出すようなケースです。
要するにホルモン産生副腎腫瘍です。

もう1つは下垂体にしこりが出来て、
そのしこりから勝手にACTHがじゃんじゃん分泌され、
それが副腎を刺激するので、
副腎が両側で腫れて、
ステロイドが出るのです。
要するにホルモン産生下垂体腫瘍です。
それ以外に稀ですが、
異所性ACTH産生腫瘍と言って、
肺癌などの組織が、
ACTHを過剰に分泌するケースもあります。

単純に考えれば、
ACTHが高くでコルチゾールも高ければ、
下垂体腫瘍によるクッシング病の可能性が高く、
ACTHが低くてコルチゾールが高ければ、
副腎腫瘍によるクッシング症候群の可能性が高い、
ということになります。

さて、副腎腫瘍というのは、通常は片側性です。
しかし、その中に数%、
特殊型として両側の副腎に過形成というしこりが複数出来、
そこからコルチゾールが分泌される、
というタイプがあります。

これを両側副腎皮質大結節性過形成
(Bilateral Macronodular Adrenal Hyperplasia)と呼んでいます。
過形成というのは正常の細胞と腫瘍細胞の中間くらいに位置するもので、
正常に近い性質を持った細胞が、
通常より過剰に増殖している状態です。

この病気では、
両側の副腎に複数の結節があり、
そこからコルチゾールが過剰に分泌されて、
クッシング症候群になりますが、
血液のACTHは抑制されています。

シンプルに考えると、
しこりからはACTHとは無関係に、
勝手にホルモンを分泌しているように思えます。

従って、
これをACTH非依存性大結節性副腎過形成と、
呼ぶこともあります。

しかし…

両側副腎皮質大結節性過形成においては、
過形成を起こした副腎皮質の細胞に、
異所性のホルモン受容体が存在することが、
最近になって複数報告されています。

つまり、細胞にこうした異常な受容体があるということは、
何らかのホルモンなどの刺激によって、
過形成の細胞からホルモンが分泌されている可能性を示しています。

以前ご紹介したNew England…の論文によれば、
こうしたケースでは副腎自体がACTHを産生していて、
それが自己刺激となっている、
という興味深い結果が報告されていました。

そこで臨床上の1つの問題は、
こうした両側性の副腎の過形成で、
クッシング症候群を来しているような場合、
果たしてどのような治療が患者さんにとって最適なのだろうか、
という点にあります。

この病気では両側の副腎に結節があり、
通常両側からホルモンが分泌されているので、
片側のみを切除しても、
それで充分とは考えられず、
治療のためには両側の副腎を切除することが、
必要であると考えられて来ました。

副腎自体が小さな臓器ですから、
そこにある結節のみを切除する、
というような手技は現実的ではなく、
実際には副腎そのものを切除することになるのです。

しかし、その場合問題になるのは術後の副腎不全です。

両側の副腎を切除すれば、
ステロイドは分泌されなくなりますから、
高度の医原性の副腎不全が発症します。

一生、ステロイドホルモンの使用は継続しなければいけませんし、
その必要量は常に変動しますから、
常日頃からホルモン量を調節する必要があります。
コントロールが良い状態であっても、
患者さんの生命予後には少なからず悪影響が生じる、
という報告も存在しています。

そこで、両側に病変自体は存在していても、
敢えて片方の結節が大きな方のみを切除し、
大きさの小さな方の副腎は残存させて様子を見る、
という考え方が浮上しました。

今回の研究では、
フランスの4か所の専門施設において、
両側副腎皮質大結節性過形成を有し、
大きさの大きな副腎のみを片側切除した、
15名の患者の予後を、
平均で60か月の経過観察を行っています。

その結果…

15例の全例において、
術後のステロイドホルモンは正常か、
もしくは低下が認められました。
6例の患者さんは副腎機能低下症を呈しましたが、
その半数の3例では、低下は一時的で正常に復しています。
再発は2例でのみ確認され、
そのうちの1例は再手術となっています。

つまり、
両側に結節があって、
両側からのホルモンの分泌が確認された事例においても、
その大きさから、大きな方のみの副腎を切除すれば、
その後5年以上の渡り8割以上の事例では、
正常な副腎機能が維持される、
ということになります。

両側を最初から切除することの、
長期の健康面への影響を考えれば、
この結果は非常に示唆的で、
今後の治療指針に、
大きな影響を与えるもののように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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柊香

こんにちは。
先生のブログは難しい論文の内容を読者に伝わりやすい言葉で綴られていて、
大変勉強になり、毎回拝見するのを楽しみにしております。

以前のブログで「甲状腺機能低下症の原因が副腎不全にあった」という記事を拝見しましたが、
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2010-04-12
その場合、甲状腺機能低下症までいかず、
T3だけが低値を示す「低T3症候群」になることはあるのでしょうか?

そして、もし、先生のクリニックで副腎機能に疑いがある場合、
どのような検査を行われるのでしょうか?

質問ばかりで申し訳ありません。
長引く体調不良(BMI16で体重が増えない。食欲不振・異様な倦怠感など)で
以前、血液検査をしたのですが、
貧血と、甲状腺T3が低値を示した以外は異常が見当たらなくて…

もしかしたら、副腎が関係しているのかもと考えています。

お忙しいところ申し訳ありませんが
ご教授いただければ幸いです。
どうぞ宜しくお願い致します。

by 柊香 (2015-11-21 11:01) 

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