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男性ホルモンを正常化することで心筋梗塞は予防可能なのか?(ポジティブなデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

朝からカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
男性ホルモン補充のポジティブ論文.jpg
今年のEuropean Heart Journal誌に掲載された、
男性ホルモンの補充療法を行なうことにより、
高齢男性の心筋梗塞の発症が抑制され、
総死亡も抑制された、という結論の論文です。

加齢と共に減少する性ホルモンを、
外から補充しよう、という試みは、
アンチエイジングというような観点からは、
大変魅力的なもので、
男女を問わず実際には盛んに行われています。

しかし、
一定の効果が確認され、
どの程度のリスクがあるのかもほぼ明らかな、
女性の更年期の治療と比較すると、
男性更年期への男性ホルモンの補充は、
その効果も安全性も不明確なままである、
という問題があります。

日本では2007年にLOH症候群という名称の元に、
男性更年期を血液の遊離テストステロン濃度で診断し、
主に注射薬の男性ホルモン製剤で、
その治療を行なうというガイドラインを発表し、
一時的はテレビや週刊誌などでも、
画期的な治療として盛んに取り上げられました。

しかし、この日本の独自基準には多くの問題があり、
今ではあまりその通りに治療をされる先生は、
ガイドラインの作成に関わった先生の中でも、
あまりいらっしゃらないようです。

日本独自基準の遊離テストステロンの測定は、
多くの検査会社でもう施行されない検査になっています。

更には最近の欧米の研究の多くは、
テストステロンの補充療法には有効性があまりない、
という結果で、
それどころか心筋梗塞などのリスクを増加させる、
という報告すら複数あるほどです。

男性ホルモン補充療法の旗色は、
近年世界的にはかなり悪くなっているのです。

ただ、その一方でアメリカなどでは、
アンチエイジングの観点からそうした治療を受ける需要は根強くあり、
そのことが問題である、という指摘もあります。

実際に今月のthe New England Journal of Medicine誌の解説記事でも、
アメリカのFDAが増加する高齢者への男性ホルモンの使用を、
問題視しているという内容がありました。

ただ、専門家の間でも、
決して否定的な見解のみではなく、
男性ホルモンの補充により、
健康上のメリットがあるのではないか、
という見解も根強くあるのです。

上記文献の著者らは、
これまでの研究において、
実際にテストステロンの血液濃度が、
正常化したかどうかが、
殆ど確認されていない点に着目し、
アメリカの退役軍人の医療データを後から解析する手法で、
血液中の総テストステロン濃度が基準値に満たない集団において、
男性ホルモン補充療法によって、
その数値が正常化した場合と、
そうでない場合、
そして補充療法を行わなかった場合の3つのグループに分けて、
4から6年程度の観察期間中の、
総死亡や脳卒中と心筋梗塞の発症リスクの差を、
比較検証しています。

トータルな例数は8万人余りと非常に多いのですが、
患者さんを登録して、
治療効果を見たような試験ではなく、
条件に合う人を後から選択しただけ、
という点には注意が必要です。

その結果…

ホルモン療法未施行群と比較して、
ホルモン補充により総テストステロン濃度が正常化した群では、
総死亡のリスクが0.44倍(0.42から0.46)、
心筋梗塞のリスクが0.76倍(0.63から0.93)、
脳卒中のリスクが0.64倍(0.43から0.96)、
それぞれ有意に抑制されていました。

ホルモン療法を施行したが、
テストステロン濃度は正常化しなかった群との比較では、
総死亡のリスクが0.53倍(0.50から0.55)、
心筋梗塞のリスクが0.82倍(0.71から0.95)、
脳卒中のリスクが0.70倍(0.51から0.96)と、
矢張りテストステロン濃度が正常化することにより、
リスクは有意に抑制されました。

ホルモン療法を施行しなかった群と、
施行はしたけれどもテストステロン値が正常化しなかった群の間で、
心筋梗塞や脳卒中のリスクには差はありませんでした。

つまり、
今回のデータにおいては、
血液の男性ホルモンが低値の人が、
ホルモン療法によって確実にその数値を正常化すると、
そのことによって、
心血管疾患の予後と生命予後に、
良い影響が得られる可能性が示唆されています。

これまでのデータでは、
ホルモン療法の施行の有無のみが焦点になり、
実際にホルモン値が上昇した場合とそうでない場合の比較を、
しっかりとしたデータはあまりありませんでしたから、
一定の説得力を持つ結果ではあると思います。

ただ、前述のように、
このデータは後からグループ分けをしていて、
ホルモン値の正常と異常も、
きちんと統一的に解析されていないなど、
データの扱いにかなり荒い面があり、
このデータを単独で信用することは、
まだ早急ではないかと思われます。

丁度同時期にどちらかと言えばネガティブなデータが、
この問題で発表されましたので、
明日はその結果の方をご紹介したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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