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2型糖尿病の飲み薬の第一選択は何か? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から介護保険の意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病の第一選択薬論文.jpg
昨年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
2型糖尿病の患者さんの初回治療の飲み薬には、
何が最も適切かを検証した論文です。

2型糖尿病は生活習慣と遺伝的な影響などから、
通常は徐々に血糖値が上昇して発症するタイプの糖尿病です。

やや古い考え方ですが、
血糖の上昇には、
インスリンの量が減少するインスリン分泌不全と、
インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性とが関係していて、
肥満を基礎として発症する2型糖尿病は、
主にインスリン抵抗性が血糖上昇に影響しています。

現在使用されている糖尿病の飲み薬のうち、
インスリン抵抗性を改善する効果が確認されているのは、
ビグアナイト系のメトホルミン(商品名メトグルコなど)と、
チアゾリジン系のピオグリタゾン(商品名アクトスなど)です。

その一方で近年まで経口の糖尿病治療薬の代表であったのは、
SU剤と呼ばれる薬剤で、
グリメピリド(商品名アマリール)はまだ広く使用されています。
これはインスリン分泌細胞である膵臓のβ細胞に、
直接結合して働くインスリン分泌の刺激剤です。
この薬は効果はインスリンの注射に次いで強力ですが、
その一方で低血糖の副作用を来たし易い、
という欠点があります。
そのため、食直後の短い時間のみ作用する、
短期作用型のSU剤が、
より低血糖になり難い薬剤として、
日本ではよく使われています。
しかし、欧米ではこの薬の使用頻度は低いようです。
はっきり言えば殆ど使用されず、
論文等で言及されることも極めて少ないのです。

一方で、
国内外を問わずに最近使用頻度が高くなっているのは、
インクレチン関連薬と呼ばれる薬剤です。
インクレチンはブドウ糖とは別個に、
膵臓を刺激してインスリンを分泌する作用を持つ、
一種の消化管ホルモンで、
インスリンに拮抗するホルモンである、
グルカゴンの抑制作用のあることがポイントです。

糖尿病とはインスリンが減る病気ではなく、
グルカゴンが増える病気なのだ、
というのが最近のトレンドで、
そこまで言って良いかは分かりませんが、
これが一面の事実であるとすれば、
グルカゴンを抑制する作用のある薬を使用することが、
より理に適っている、という言い方は可能なのです。

インクレチン関連薬には注射と飲み薬があります。
飲み薬はインクレチンの分解を抑制する、
DPP4という酵素の阻害剤、DPP4阻害剤のことです。
ただ、その効果はまだ未知数の部分が多く、
膵炎や膵臓癌のリスクを高めるのではないか、
という意見や、
心血管疾患のリスクを低下させるというデータが現状は得られていない、
という事実もあって、
その第一選択に近い使用に関しては、
疑問視する意見も多くあります。

それでは、現状でどの飲み薬を、
2型糖尿病の第一選択の治療薬とするべきでしょうか?

欧米の糖尿病は肥満病という考えが強く、
実際に患者さんの平均のBMIは、
肥満の基準を遥かに超えています。

そのために、
第一選択薬としては、
インスリン抵抗性の改善効果のある薬剤、
ということになる訳です。
要するにメトホルミンとチアゾリジン系です。

このうちでチアゾリジン系は、
心不全などのリスクを上昇させ、
2型糖尿病の長期管理において、
一番の問題となる心血管疾患の予防、
と言う観点から、
本当に良いのか、という疑問が消えません。

その一方でメトホルミンは、
概ね患者さんの予後にとっても、
良い効果があるとするデータが蓄積しており、
このため肥満のある2型糖尿病の治療の第一選択薬としては、
最有力であることは間違いがないのです。

このため、アメリカ糖尿病学会(the American Diabetes Association)と、
ヨーロッパ糖尿病学術協会(the European Association for the Study of Diabetes)は、
2006年からメトホルミンのみを、
2型糖尿病の第一選択薬としています。
つまり、特別な事情がなければ、
全ての2型糖尿病の患者さんには、
まずメトホルミンを使用するべきだ、
という見解です。

一方でアメリカ臨床内分泌学会(the American Association of Clinical Endocrinologists)
という別箇の臨床系の学会は、
そのガイドラインにおいて数種類の薬剤を併記していて、
メトホルミンのみを第一選択とはしていません。

そして、皆さんもご存じのように、
日本糖尿病学会も、
メトホルミンのみを第一選択とはせず、
7種類の区分の薬剤を、
病態に合わせて適宜選択する、
というような方針を取っています。

前述のように、
インスリン抵抗性とインスリンの分泌不全が、
色々な割合で混合しているのが、
実際の2型糖尿病の患者さんで、
欧米とは異なり、
日本ではBMIが25未満の肥満のない2型糖尿病の患者さんも多いので、
日本の方針が決して誤りとは言い切れません。

ただ、それでは抵抗性と分泌不全などの病態を区別した上で、
処方を行なった方が、
全ての患者さんにまずはメトホルミンを使用する、
と言う方針と比較して、
本当に患者さんの予後に良い影響を与えるのか、
と言う点を実証したような、
精度の高い臨床データは殆ど存在していないと思います。

今回の研究では、
アメリカの健康保険のデータを活用して、
2型糖尿病の患者さんが、
初期治療としてどのような薬を第一選択として使用すると、
その後の経過にメリットが大きいかを検証しています。

患者さんの総数は15516名で、
第一選択薬として、
メトホルミン、シアゾリジン系、SU剤、DPP4阻害剤の、
いずれかの処方が継続して処方されたケースを対象としています。
二度目の処方が90日以内の同じ薬剤で継続されていることが条件です。

それ以外の飲み薬の使用は、
極めて少数のため除外されています。

平均で1年を超えるくらいの経過観察期間に、
低血糖を起こしたり、
それ以外の入院を要するような有害事象が生じたり、
その薬がインスリンを含む他の処方に変更されたり、
他の薬剤が追加されたりする比率を、
最初に選択された薬剤毎に比較検証しています。
また、この短期間では、
それほど意味合いが大きいとは思えませんが、
心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクも比較しています。

その結果…

第一選択薬の内訳は、
メトホルミンが全体の57.8%と最も多く、
SU剤が23.0%でそれに続いていました。

4種の薬剤のうちメトホルミンが、
最も他の薬剤への切り替えや、
他の薬の上乗せの比率は低くなっていました。

メトホルミンを使用した場合と比較して、
SU剤は1.68倍、チアゾリジン系は1.61倍、
DPP4阻害剤は1.62倍、
それぞれ他の薬への変更や上乗せのリスクが高くなっていました。

また、メトホルミンの使用は、
他の薬剤を使用した場合と比較して、
より有害事象による入院が多かったり、
低血糖が多かったり、
心血管疾患の発症が多い、という差はありませんでした。
つまり、有害事象は非劣性という結果です。

従って、他の薬剤を使用する場合と比較して、
変更が少ないということは、
効果が安定していることを示唆していて、
有害事象や副反応が多いということはなく、
平均で1年余という短期間ではありますが、
患者さんの予後にも悪い影響は与えていませんでした。

このことから、
結論としてはメトホルミンを第一選択薬として使用することには、
一定の合理性があり、
ガイドラインの多くでもそう記載をされていながら、
実際にはその処方は6割に満たなかったという状況は、
医師の処方行動として問題だ、
という趣旨のものになっています。

この結果を日本においても適応すべし、
という意見も、
主に専門外の先生の間で根強くあるのですが、
BMIの分布などには明らかな開きがあるのですから、
そのまま適応するのは、
必ずしも適切ではないように思います。

問題はインスリン抵抗性とインスリン分泌不全に分けた上で、
どちらか優位かで患者さんを分類し、
薬剤の第一選択を変えるという方針が、
原則全ての患者さんにメトホルミンを使用する、
と言う方針と比較して、
明らかに優位性があるのか、
と言う点にあり、
その精度の高いデータが、
日本発で発表されることが、
この問題を解決する唯一無二の方法のように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ka.ju.ju

主人が最近メトグルコを飲み始めたので、勉強になりました。
by ka.ju.ju (2015-07-13 22:27) 

fujiki

ka.ju.juさんへ
コメントありがとうございます。
少しでも御参考になる点があれば幸いです。
by fujiki (2015-07-14 08:06) 

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