井上ひさし「父と暮せば」(2015年こまつ座上演版) [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は疲れ切っているので、
朝からぼんやりして、
それから今PCに向かっています。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
1994年に発表された井上ひさしの2人芝居で、
氏の円熟期の代表作の1つでもある「父と暮らせば」は、
最近は年中行事のように7から8月に、
同一キャストで再演されています。
宮沢りえさんと原田芳雄さんのコンビで映画化もされました。
僕はこれは前から一度は観ておきたかったのですが、
なかなか日程が合わず、
今回初めて鑑賞しました。
父と娘の2人芝居で、
初演はすまけいが父を演じましたが、
最近は辻萬長(つじかずなが)さんが、
父役をライフワークのように演じています。
2004年からですから、
もう10年以上演じ継いでいることになります。
演出は初演から一貫して鵜山仁さんです。
辻さんはキャリアの長い役者さんで、
井上ひさしの芝居でもこれまで数多く出演されていますが、
正直実直ですがやや面白みには乏しい、
真面目一徹のような藝風で、
損をしているようなところがありました。
同じ役でも角野卓三さんが演じるともう少し弾んだ感じになるのに、
辻さんが演じると何故が少し沈んでしまうのです。
ただ、最近の芝居はとても良くて、
蜷川さんの「皆既食」でも短い出番なのに印象的でしたし、
ドラマのDr倫太郎にちょこっと出ても、
非常に味があり、
また芝居が完成されているのです。
桂文楽の緻密な完成度が、
志ん生の破天荒な落語の、
結局は上を行った、というような感じです。
今71歳かと思いますが、
藝歴の頂点と言って良いのではないでしょうか?
70を超えて藝の頂点を極めるのですから、
本当に幸福なことだと思います。
そんな訳で今の辻さんの芝居は、
何を置いても絶対に観るべきなのです。
この「父と暮らせば」は上演時間1時間20分ほどの短い芝居で、
登場人物は2人だけです。
栗田桃子演じる娘と、
辻さんが演じるその父親です。
基本的な構図は、
樋口一葉を扱った、
「頭痛肩こり樋口一葉」と同じで、
死者の思いを生者が引き継いで生きてゆく、
という辺りがテーマになっているのですが、
原爆投下による悲劇を、
父と娘に代弁させ、
全編広島弁で上演する、という趣向が、
なかなか良いのです。
どんでん返し的な物語としても、
成立する内容なのですが、
そうはしておらず、
外連を排していながら、
観客を引き付け、静かな感動に誘う辺りが、
井上さんの円熟を見る思いがします。
辻さんの芝居は最初から最後まで、
まさに完成された工芸品を見るようです。
全ての挙手や語り口までが計算され尽くされていて、
それでいて技巧を超えた境地にまで達しています。
文楽の「明烏」が落語の教科書なら、
「父と暮らせば」の辻萬長は演劇の教科書だと思います。
滋味に溢れた良い芝居で、
それでいて枯れているのではなく、
しっかりと迫力も出ています。
対する栗田桃子さんも、
役に合った熱演で、
観客の涙を誘っていました。
鵜山さんの演出だけは僕はあまり好きではなくて、
この芝居も木村光一さんの演出だったらな、
とは思います。
今回も舞台となる家を、
骨組みの隙間を見せるように構成していて、
原爆後の廃墟と重ね合わせているのは分かるのですが、
こんなのいらないよね。
役者の演技でただの茶の間が、
爆心地の広島に変貌するのが藝なのです。
いつものことですが、
暗く地味な舞台にしてしまって、
演出に関しては落胆のみが心に残りました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は疲れ切っているので、
朝からぼんやりして、
それから今PCに向かっています。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
1994年に発表された井上ひさしの2人芝居で、
氏の円熟期の代表作の1つでもある「父と暮らせば」は、
最近は年中行事のように7から8月に、
同一キャストで再演されています。
宮沢りえさんと原田芳雄さんのコンビで映画化もされました。
僕はこれは前から一度は観ておきたかったのですが、
なかなか日程が合わず、
今回初めて鑑賞しました。
父と娘の2人芝居で、
初演はすまけいが父を演じましたが、
最近は辻萬長(つじかずなが)さんが、
父役をライフワークのように演じています。
2004年からですから、
もう10年以上演じ継いでいることになります。
演出は初演から一貫して鵜山仁さんです。
辻さんはキャリアの長い役者さんで、
井上ひさしの芝居でもこれまで数多く出演されていますが、
正直実直ですがやや面白みには乏しい、
真面目一徹のような藝風で、
損をしているようなところがありました。
同じ役でも角野卓三さんが演じるともう少し弾んだ感じになるのに、
辻さんが演じると何故が少し沈んでしまうのです。
ただ、最近の芝居はとても良くて、
蜷川さんの「皆既食」でも短い出番なのに印象的でしたし、
ドラマのDr倫太郎にちょこっと出ても、
非常に味があり、
また芝居が完成されているのです。
桂文楽の緻密な完成度が、
志ん生の破天荒な落語の、
結局は上を行った、というような感じです。
今71歳かと思いますが、
藝歴の頂点と言って良いのではないでしょうか?
70を超えて藝の頂点を極めるのですから、
本当に幸福なことだと思います。
そんな訳で今の辻さんの芝居は、
何を置いても絶対に観るべきなのです。
この「父と暮らせば」は上演時間1時間20分ほどの短い芝居で、
登場人物は2人だけです。
栗田桃子演じる娘と、
辻さんが演じるその父親です。
基本的な構図は、
樋口一葉を扱った、
「頭痛肩こり樋口一葉」と同じで、
死者の思いを生者が引き継いで生きてゆく、
という辺りがテーマになっているのですが、
原爆投下による悲劇を、
父と娘に代弁させ、
全編広島弁で上演する、という趣向が、
なかなか良いのです。
どんでん返し的な物語としても、
成立する内容なのですが、
そうはしておらず、
外連を排していながら、
観客を引き付け、静かな感動に誘う辺りが、
井上さんの円熟を見る思いがします。
辻さんの芝居は最初から最後まで、
まさに完成された工芸品を見るようです。
全ての挙手や語り口までが計算され尽くされていて、
それでいて技巧を超えた境地にまで達しています。
文楽の「明烏」が落語の教科書なら、
「父と暮らせば」の辻萬長は演劇の教科書だと思います。
滋味に溢れた良い芝居で、
それでいて枯れているのではなく、
しっかりと迫力も出ています。
対する栗田桃子さんも、
役に合った熱演で、
観客の涙を誘っていました。
鵜山さんの演出だけは僕はあまり好きではなくて、
この芝居も木村光一さんの演出だったらな、
とは思います。
今回も舞台となる家を、
骨組みの隙間を見せるように構成していて、
原爆後の廃墟と重ね合わせているのは分かるのですが、
こんなのいらないよね。
役者の演技でただの茶の間が、
爆心地の広島に変貌するのが藝なのです。
いつものことですが、
暗く地味な舞台にしてしまって、
演出に関しては落胆のみが心に残りました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-07-11 08:11
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コメント(3)
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「父と暮らせば」
初めて観たのがいつだったかは忘れましたが、
作品を観てしばらくは広島弁で父親の台詞を真似したり、
とても、印象深い作品でした。
先生がおっしゃる通り、
この作品は役者の台詞のトーンでその背景が脳裏に浮かぶので、
舞台美術等で過剰な演出は必要ないのかなと思います。
by アミナカ (2015-07-13 11:04)
アミナカさんへ
コメントありがとうございます。
純度の高い名作で、
上演を続けて欲しいですね。
by fujiki (2015-07-14 08:05)
何を偉そうに。文楽と志ん生だと?どうでもいいことを書いてるんじゃない。
by 中村隆一郎 (2015-08-05 21:28)